2.試行錯誤します/勇者歓迎パーティーでして/所謂巻き込まれ
遅くなりました┏○┓
※ほんの1部直しました
「はぁぁああ゛あ゛、怖かったぁあああ」
そうため息混じりに叫びながら、遥か上空を飛ぶ少女。言わずもがなついさっきギルド長と対峙したユウである。
当然、叫びたくもなるだろう⋯元の現実世界では〝戦闘〟なんて物騒な事は無かったのだから。
ドクドクと鼓動が高鳴る心臓を右手で抑えながら、先程のことを思い出す。
(こ、怖かった⋯殺気っていうのかな、あの迫力は。いやもうほんと無理、魔法が無かったら死んでたって)
眼下に広がる洋風な街の風景を眺めつつ、ぼんやりとした頭で、改めてここが地球ではない事を認識する。
「⋯とりあえず、魔法の威力云々は置いておいて⋯使う分には問題ないか。流石やり込んだステータスだけあって、身体能力は上がってるし⋯」
先程魔法を使った時は、まるで息をするかのように使えたし、相手の剣先も目で追う事ができた。戦闘においての心配事は、今のところ特にない。負けたらそれは自分の実力不足だ。
ただ一つ心配なのは魔族の象徴であるこの〝角〟と〝翼〟⋯これだけは何とかして隠し通したい。
CWOでは当然の事ながら、容姿を気にする必要はなかった。
故に、姿を変える為の幻属性の魔法は需要が無く、実装されていない。幻属性であるのは精神攻撃魔法ばかりである。
ユウも幻属性で習得しているのは、専ら精神攻撃魔法だけだ。
空中散歩を楽しみながらさっき思いついたのは、デカイとんがり帽子とぶかぶかのローブで隠すというベタな作戦だ。名付けて『魔女っ子コスプレ作戦!!(笑)』
ぱっと思いついたものだが、翼を上手く畳み、後は帽子とローブが外れないよう注意すれば案外上手くいきそうだ。魔族故の莫大な魔力は魔道具で隠せばいい。
「それで何とかなって欲しいなぁ⋯」
呟いてぐるんと宙で仰向けになるユウ。これで人間に敵対意識を持たれる心配はない、はず。
まだ昼なのか空は明るく、真上には太陽が温かな光を放っていた。
追ってくる気配は、ない。
ああ平和だな、ユウは笑みを浮かべ目を伏せる。
───空は地球と何ら変わりはないのに、他はまるっきり違う。
(私がいなくなった今、元の私はいなくなったことになってるのかな⋯だったらユッコに迷惑かけちゃうか)
同居人兼心友に、心の中で『ごめん』と手を合わせる。天涯孤独ともいえる存在に等しいので、元の世界などに未練はないが、やはり友人たちの事は気がかりだ。
これからのことに高揚する気持ちと友人らがいないという寂しさが混じり、何とも言えない気持ちになる。しかし、ユウはそれを振り払うかのように首を横に振る。
「⋯いやいや、今はそんな事よりもこれからの事を考えなきゃ」
この国以外の国の事も知らなければいけない上、通貨だってCWOと同じとは限らない。
幸いなことに魔族なので食事は不必要だが、回復薬などのアイテムには限度がある。CWOと同じ薬草があり調合が可能ならいいが、それがない場合は買わなくてはいけない。
人の強さだけでなく、魔物の強さの基準もCWO同じとは限らないし、そもそも魔物がいるのかもわからない。
⋯まあなんにしろ、不確定要素が多すぎる。こんな事では私の目標とする『平和な異世界生活』は実現しないだろう。
(とにかく、まずは急いでノワールたちと合流しないと)
再び空中散歩の体制へと戻ったユウは、その黒い翼を思いっきり羽ばたかせた。
───目指すは国境である分厚い石の壁。
────────
同時刻、王都にある王宮では勇者歓迎の立食パーティーが行われていた。
昨夜行った勇者召喚が遂にまともに成功したのだ。これは数百年来の奇跡、この事は王都だけでなく他国にも知らされ、大々的にパーティーを行う事となった。当然、国民もお祭り騒ぎだ。
「勇者よ、遠路遥々よくぞ参られた。これで世界も平和になるというもの、世も安泰だな」
「いえ、僕なんかで良ければ!精一杯、務めさせていただきます!」
金などで細やかに装飾された煌びやかな部屋の中、華やかな衣装に身を包んだ人々が、料理片手に談笑している。
その中でも一際豪華な衣服に身を包んだ恰幅の良い男性が、でっぷりと出ている己の腹を撫でながら愉快そうに笑う。言わずもがな、この国の王様である。
「うむ、期待しているぞ。必要なものがあったら遠慮なく言ってくれ、すぐにでも用意させるからな」
「はい!ありがとうございます!!」
そう言って上機嫌で離れる王、それを笑顔で見送る。
立ち並ぶ鮮やかな髪色、その中で焦げ茶色という異色を放つのはこのパーティーの主役、勇者御本人様である。
にっこり、と微笑む勇者を見て、数多の女性が頬を染めた。
───それは王女も例外ではない。
くりっとした茶色の瞳は甘いマスクを引き立て、精悍な顔立ちというよりは母性本能を擽るような顔立ち、女性を魅了されるのも頷けるだろう。その上勇者という肩書き、性格も良いときたもんだ。
「あの⋯勇者様」
緩やかに巻かれた薄桃色の髪を指先で弄りながら、おずおずと話しかけるのは王女であるリリアーシュ=ルージュだ。
色白の柔肌、桃色の大きな瞳は潤み、彼女の纏う空気は男を惑わせる。
それは他の国でも有名な程で、他国の王子からの求婚が絶えないが、まだ結婚はしていないという。
〝永遠の純潔王女〟───そんな通り名でも有名な王女だった。
リリアーシュに話しかけられ、勇者──カイトは笑顔で振り返る。
「リリアーシュ様、何か御用でしょうか?」
その声に少々落胆するリリアーシュ。ぼそり、と目を伏せて呟く。
「⋯リリアーシュでよろしいのに⋯」
「いえ、王女様を呼び捨てにする訳には⋯でも、リリアーシュ様だって僕のことをカイトと呼んでくださらないでしょう?」
「そ、それは⋯」
少々意地悪なカイトの言葉に、リリアーシュの瞳が揺れる。迷い暫くして、桜色の唇が開いた。
「⋯か、カイト様⋯」
頬を染め、か細い声で言うリリアーシュ。恐らくそれを見た男性は彼女の虜となるだろう。だが、カイトは動じない。
キラキラと効果音が付きそうな笑みを浮かべ、リリアーシュに応える。
「なんでしょう、リリアーシュ?」
「⋯⋯ふぁ!?カカカイト様!!」
瞬間、リリアーシュの頬が薔薇色に染まる。いきなり名前を呼ばれた事により心臓が高鳴った。
そんな事もつゆ知らず、カイトは怪訝そうに伺う。
「リリアーシュ?」
「え、えと⋯あの、その⋯パーティーの後、少し2人きりでお話したいのですが⋯」
2人きり、という部分を強調し、おずおずとカイトを見上げるリリアーシュ。
この行為も、きっと世の男性ならばぐっとくるだろう。だがやはり、カイトは動じない。
「もちろん、いいですよ。僕もこの世界の事について教えて欲しいですし」
「あ、ありがとうございます!!」
ぱあっとリリアーシュの顔に笑みが広がる。誰がどう見ても恋する乙女そのものだ───それを見て、求婚を諦めた他国の王子がいるとかいないとか⋯⋯。
そんな様子のリリアーシュを微笑みながら見ていたカイトだったが、ふと羽ばたき音が聞こえたような気がして顔を上げる。
目の前は壁の殆どが、魔法で強化されたガラスで出来ている窓。そこからは様々な表情を見せる空と、人々で賑わった街並みが一望できるようになっている。
その風景は素晴らしく、カイトも初めて見た時は言葉を失った程だ。
しかし今、彼の目に映るのはそんなものじゃない。
「あれは⋯⋯」
───ゾッとするまでに美しい何か。
何故かソレが目に焼き付いて離せない。
あまりにも高い位置を飛んでいるからか、普通は気づかない。だが異世界に来た影響だろうか⋯カイトにはソレがはっきりと見えていた。
その分見える大きさは小さかったが、心を奪われるのには十分だ。
闇を思わせる漆黒色の翼がはためく度に、暗紫色の粒子が空に流れる。翼と同じ色であろう髪は艷めき、ちらりと見た横顔は、天使を彷彿とさせるモノ。
見た事もないような美しさに思わず言葉を失う。
「⋯カイト様?」
「あ、ああ。ごめんなさい、少し見惚れてました」
慌てる事もなく正直に言えば、何を勘違いしたのか真っ赤に染まった頬に両手を添えるリリアーシュ。瞳の中に、ハートマークが浮かんでいるのが見て取れる。
にっこりと微笑むカイト。
「まあ、カイト様ったら⋯⋯」
「折角ですし、ぜひパーティーを楽しみましょうか」
「はい!」
嬉しそうに顔を綻ばせるリリアーシュ。そんな彼女の手をとったカイトは再び窓の外を見たが、既にソレの姿は無く、ただ晴れ晴れとした青い空が広がっているだけだった。
────────
「⋯これって所謂巻き込まれってやつじゃ⋯?」
所変わってここは森の中。鬱蒼と茂る木々を横目に呟くのは小鳥遊 太郎17歳。
黒髪黒目に中肉中背、何処をどう見ても平均的な少年だ。
タロウは一頻り周りを眺め状況を整理した後、すぅっと息を静かに吸う。
そして、拳を天に突き上げた。
「いよっしゃぁああああああああ!!!」
彼の勢いは止まることなく、独りでニヤついた笑みを浮かべながらまくし立てる。
「よかったぁ、勇者じゃなくてよかったぁ。てか、やっぱりあの魔法陣は勇者召喚だったかーそうかそうか。なら、今頃海斗は城の中で王女とイチャイチャしてるってわけかぁーいやぁ⋯めでたい⋯⋯リア充は末永く爆発しろ。そりゃあ、アイツは昔から主人公気質で、現実でもハーレム作ってたけども⋯しかも鈍感で、自分へと好意とか全く気づかずに過ごしていたけども⋯そのせいで、男なのに俺がハーレム団の嫌がらせやら何やらを受けていたけども⋯⋯ちっくしょおおおおおおおお!!!いや、まあ何がともあれ、これはチートハーレム⋯⋯略してチーレム路線一直線ですかね!きっと神様からのご褒美だよな!神様ありがとう愛してる!!やっと報われたよ!!巻き込まれも何気に待遇いいからなぁ、海斗よりも強くなったりしちゃったりして、かわゆいおにゃのことイチャコラしちゃったりして⋯⋯いやぁー夢が膨らみますなぁ!!よし、まずはギルドに行って冒険者登録だな。その道中で魔法とか、身体能力とか確認しておこう。もしかしたらもしかすると本当に万が一の確率で太陽が西から上るくらいの確率で壁ドンしたら手がすり抜ける程の確率で⋯⋯チート無しのデスゲームの可能性もある。ここは慎重に行かないと!!」
よし、と気合いを入れると、タロウは意気揚々と最強への第1歩を踏み出した。
真っ直ぐ王都に向かって。
因みに壁ドン(手を壁に付ける)してすり抜ける確率は、この世界の活字を全て0に変えて最後に1をつけた%らしいですよ
あくまで聞いた話ですけども⋯