プロローグ。
「暑い、暑い、溶けそう...」
「分かったって...」
一月さんの今日何度目か分からない不満に、僕はややウンザリしながらも答える。
「日本の何が嫌いかって、この夏が嫌いよ」
8月中旬。僕達はこの炎天下の中をずんずんと歩いていた。
「一月さん、日本から出たことないでしょ...。なんですか、帰国子女だっていうんですか」
太陽の光が肌をじわじわと蝕む。さらにそれを真っ向から浴びているアスファルトの熱もしっかりと感じられて、僕達の思考力は半分ほどエネルギーを失っていた。
「これが冷房という文明の利器に依存してしまった人間の末路よね...。いけないわ。北暮くん、近くにコンビニはないかしら?」
「端からもう依存しちゃってるし...」
一月さんは少し大きめの日傘を差していた。けれど、このアスファルトからの熱に耐えられなかったらしい。言葉が支離滅裂だし、なによりさっきから全く言葉のキャッチボールが出来ていない。
帰宅部である僕達2人は、どういう因果かこの夏休みのど真ん中に学校へ足を運んでいた。
そう。
学校そのものが休みである盆休み、部活に励んでいる生徒達の掛け声や声援も聞こえない校内に、僕達は律儀にも登校、もとい侵入しようとしていたのである。