緑色の魔法少女は死亡フラグを期待する。
なんとなく急に魔法少女(緑)が書きたくなったので書きなぐった結果。
コメディでもシリアスでもない山なし落ちなし意味なしな巻き込まれた少女の話。
「もう死にたい」
全身をフリル死でもするのかというほどのふわふわの可愛いロリータファッションを装った少女が絶望的な表情で、悲愴感溢れる声でつぶやいた。
まだ10歳ほどの少女である。背中まで届くだろう髪は大きな四つ輪のリボンでポニーテールに結われている。
可愛らしいのにどこか落ち着いた雰囲気の少女はその雰囲気に合わせてなのか、全体を緑色で統一させた衣装であった。ふりふりのロリータのミニワンピも髪を飾る大きなリボンもローヒールの装飾過剰なパンプスも靴下まで淡い黄緑色という徹底ぶりであった。
「クローバー!ぼさっとしてないで早く雑魚一掃してよ!!」
少女に向かって怒鳴るように声を張り上げたのもまた少女であった。
こちらもクローバーと呼ばれた少女と趣の似た装いであったが、基調となるのは目に居たいほどの赤色であった。驚くべきか、ツインテールの髪やら目まで赤色の類なのだから徹底している。
眉を吊り上げた少女はまさに美少女というような容姿で客観的に見れば頭おかしいんじゃないかというぐらいの派手で非現実的な衣装ですら着こなす姿はある意味圧巻だった。
クローバーは自分の姿に対して思うところがないのなら肝が据わりすぎているか特殊な趣味過ぎると思うのだが、わざわざ口にすることはない。人のことより自分のことを優先するにきまっている。
「冗談やめてよ…勝山さん、もう全力で家に帰りたい」
「この姿の時はローズって呼べって言ったでしょうっ!!だいたい敵に囲まれてる状況で家に帰れるわけないじゃない」
消極的な姿勢を崩そうとしないクローバーに勝山さん…ローズは苛立ちを隠そうともせず赤の瞳を一掃に燃え上がらせた。
今、クローバーとローズがいるのは深夜の市民公園の広場である。
普段は市民の憩いの場であるはずのこの場所に、二人の少女を囲むように頭に一本角を生やした黒いうねうねした人になり損ねた両生類のような姿の生き物が無数に蠢いていた。
そして、二人から最も近い公園の出入り口側はその親玉らしき一番雄雄しい角を生やしたしっかりした二本足で立つ巨大なカエルのような生き物が陣取っていた。
カエルなんか大嫌いだ。ぬるぬるしてるし目も気持ち悪い。色も毒々しい赤と緑色だし。
「早く帰って起きたい。こんな悪夢から目覚めたい」
「だから現実だっつってんでしょうが!現実直視して戦いなさい!!」
ローズはいつの間にやら手にした鍔に羽の生えた細身の剣を手にして柄での部分でクローバーを軽く殴った。痛い。
「あんたはもう魔法少女になったんだから腹くくって戦うしかないのよ」
そう吐き捨てるようにクローバーに言うと、ローズは人の身ではありえない脚力で跳ね上がり、親玉カエルに斬りかかった。
それをきっかけにしてか、残りのローズの言うところの「雑魚」がクローバーに襲いかかった。
「本当に死にたい」
こんなでっかい両生類の群れに襲われ殺されるなんて悪夢以外のなんだというのだろう。
死にたいけれど、カエルもどきに殺されるのも嫌だ。普通に老衰とかで死にたい。
クローバーは括りきれていない腹のままに、化け物の群れに悲痛な顔を露わに顔を挙げた。
*********
春風よつ葉は私立結城学園に通う結城小学校の四年生だ。
私立とはいうものの、よつ葉の住む町の学区の中では高くもなく低くもない小中高の一貫校で、特別人気のある学校ではない。ただ制服が可愛いということで比較的女子の人気は高いのかもしれない。よつ葉は単に自他各からの通学時間が徒歩で10分という近さだけで選んだのでそれ以外の理由はなかった。家庭としても両親ともに共働きで、私立に通っても問題ない程度の経済力はあったし、受験戦争を戦うような熱意のある娘でもないし、よく言えば控えめ、悪く言えば地味な印象の自分の娘がいじめに遭わないように、学区内のその手の話をよく聞く公立校よりそういった類の評判は聞かない私学を選択するのも一般的な話だろう。幼稚園の頃の友人は別の学区で公立に通っているが、いじめの話は聞かないというし、学校や人によるのだろうとよつ葉は思うのだが、勉学に必死になるような熱は確かに自分にはないし、そんな面倒を回避させてくれるなら有難く用意された道を選んだだけだ。
そんなよつ葉の通う結城学園であるが、小学校に上がると同時に上級生から誰かが仕入れてきたらしい噂話がクラスに蔓延した。
曰く、「結城学園には正義のヒーローがいる」らしい。
小学生男子の好みそうな話だとよつ葉は思ったが、それ以上の感想を持つことはなかった。
別に興味はなかったが、友人が言うは「ゆうき学園=勇気学園」に擬えたところだろうという話で、実に小学生の考えそうなところだと思うだけだった。これが従姉妹のいう「黒歴史」になっていくのかと。
残念ながらよつ葉は正義の味方に憧れたこともないし、素敵な王子様を期待するようなタイプではなかったのだ。幼いころからその手の「プリンセスストーリー」を読み聞かせられるたびによつ葉が持つ感想は「バカバカしい」という一言に尽きた。お姫様もだが、その相手の王子様の類も大概馬鹿であるし、そんなものに憧れる気持ちもわからなかった。無償で同情だけで助けられたつもりなのかと思うあたり、よつ葉は可愛げのない子供なのだが、それが一般的な子供でないことぐらいはよつ葉も理解していた。
そんな夢みたいなことは現実では起こらないし、仮に起こったしても裏があるだろう。関わらないことが一番平和なのだ。よつ葉は自分の名前の野草に相応しく「平和」的な考えだと自画自賛して道の片隅に蔓延る白詰草のようにひっそりと過ごす方が良いに決まっている。
話は変わるが、よつ葉いる学年は少子化の影響からか、4クラスしかない。
その学年の中で一際目立つ5人の少年少女がいる。
1組の勝山 茨
2組の飛沫 竜胆
3組の猪原 日向
4組の桜川 早百合
4組の美土代 漆
何が有名なのかと言えば一言でいえば見た目だ。一部キラキラした名前だからではない。というか、クラスに4,5人はキラキラしているような気のする名前が多いので気にしてはいけない。
とにかくこの5人はどいつもこいつも目立って見た目が良いのだ。桜川早百合とかいう子なんかは芸能業界に足を突っ込んでるそうなので納得の美しさである。ちら見程度しかしたことないが、全体的なイメージとしては百合の名の通り白く楚々とした印象の女の子だった。
ちなみによつ葉は1組で、勝山茨とクラスメイトになる。名前に相応しくツンケンした感じの女の子だ。どちらかというと大人しいグループにいるよつ葉とは違うクラスのリーダー的なグループでさらにはその中心人物なので、よつ葉が関わることは基本的にない。出席番号もカ行の茨とハ行のよつ葉では遠くはないが近いわけでもないので接点はやっぱりない。
そんなよつ葉と茨であるが、二人が2分以上話すことがあったのは、茨がクラブ活動の帰りにクラスに寄ったタイミングと、宿題のプリントを忘れて学校に取りに戻ったよつ葉のタイミングがかち合った時である。
時間としては18時を過ぎており、小学生としては人によって門限を超えるような時間なのだが、よつ葉は親に忘れ物をしたと告げているので問題ないし、茨も通常のクラブ活動の終了時間を少し過ぎたぐらいと、そんなに二人して急いでいることもなかった。
「あれ、春風さんも忘れ物?」
茨が机をがさがさと探し物を発掘している最中によつ葉が来たという状況のようだった。あまり話のしないクラスメイトと二人きりという状況はお互いに若干の気まずさがあるものの、状況は同じという妙な連帯感というか共犯のような感じで、よつ葉はどんな顔をすればいいのかわからなかったが、曖昧に笑って頷いた。
「うん、宿題のプリント忘れちゃって。明日一限目に提出だっていうし。勝山さんも忘れ物?」
「そーなんだよね。プリントは授業中に終わらせたからいいんだけど、ちょっと預かりもの忘れたからさすがにやばいなって」
「人から預かったものなら確かに危ないよね。盗む人なんてそうそういないとは思うけど万が一ってあるもんね」
「うん、盗まれると本っっっっ当ぉーにヤバいやつだから。あ、今見つかった」
どんだけヤバい物を持ってるんだこの小学生は。
よつ葉は突っ込むべきか悩んだがやっぱり曖昧な笑顔で同意して「みつかってよかったね」とありきたりな言葉をかけた。
ありきたりではあるが事実としてみつかってほっとした様子のいばらはよつ葉に笑顔を返して頷いた。その笑顔を見てよつ葉は確かに、学年の五本指に入る可愛さだと納得した。華のある人というのはこういう子のことをいうんだと普段直視することのない茨をみて一人ゴチた。
そんなよつ葉の様子を気にすることなく、茨は少し機嫌が良くなったのか見つかったものをよつ葉に見えるように持ち上げてみせた。
「それが勝山さんの忘れ物なの?」
「そ。似合わないでしょう」
茨が恥ずかしそうに照れ笑いしながら見せてくれたのは、可愛いもののちょっとかっこいい系の入る茨が持つには随分と可愛い金メッキらしきチェーンのネックレスだった。ルビーのような赤い石は実に茨に似合うと思うのだが、その赤い石を縁取る小花の装飾とチェーンに絡まる細いレースは少女趣味と言ってもよく、その部分だけでいえば桜川さんあたりは似合ったかもしれない。
似合わないと思っているものをわざわざ身に着けるようなタイプではないと思っていのだけれども、何か思い入れでもあるのかもしれない。どうでもいいけど。
大事なものだろうことはよくわかったが、趣味は合いそうにないなぁとよつ葉一方的に思っている中、いばらはネックレスを二重にして手首に巻き付けた。なんだ、ネックレスじゃなかったのか。
「本当によかったよ。忘れるなんて思ってもみなかったし。っていうか取れると思ってなくって。いつもはちゃんと身に着けてるはずなのに、おっかしいなとは」
思ったんだけど。
いばらがそう言い終わる直前に、茨が手首につけたネックレス…いやブレスレットか。それが舞台照明のように眩く光を放った。
あれか。おしゃれ(?)なアクセサリーと思っていたが、実はジョークグッズとかおもちゃの類だったのかもしれない。何かのイベントで使う予定で何か操作でも間違えたのだろう。
赤色の石から発光する以上は赤色の光だろうと思うのだが、なぜか光る色は緑だった。すごい仕様だ。さっぱり仕組みが分からない。小学生にわかるようなちゃっちなものではないのだろう。金持ちの金の使いどころは庶民にはわからない。
「このエフェクトすごいね」
光を放つ石を見ながらのんきに茨にそう声をかけたよつ葉だったが、ふと顔をいばらの方へ向けると、なぜか呆然としたような失望したような顔でよつ葉をじっと見ていた。
「嘘でしょ……っ?まさか、こんな」
「あの、勝山さん?」
「ありえない。よりによって”こんな何のとりえもない子”が!?」
茨は感情のままに叫ぶが、明らかによつ葉のことを言っているはずなのに茨の声が向けられているのは茨の手を飾るブレスレットなのだ。
「ふざけんじゃないわよ!何が選ばれた少女たちよ!?こんな有象無象と一緒くたに大量生産される一部扱いなんて冗談じゃない!!!」
よつ葉は茨がブレスレットと会話をするように罵っている姿を見て、しばらく状況を把握できなかったが、とりあえず自分が茨からは「何のとりえもない」「有象無象の大量生産品」として見られていることはわかった。別に、知ってるけど。というか、そういう人間を目指して生きていますからね。ナンバーワンにもオンリーワンにもなりたくないです。
それに人からどう思われようとブレスレットと会話するような電波よりはましだと思うの。人間ね、平凡が一番って死んだおばあちゃんが言ってたような気がする。会ったことないけど。
こんな状態の人間と会話をするのは危険だ。というかきっと話にならない。
ので、よつ葉はさっさと帰ろうと決めた。よつ葉の目的のプリントなら既に手にある。茨に明日から無視されたところで元々話をすることもなかったような関係なのだ。リーダー格と揉めるのはよつ葉の望むところではないが、茨とて自分の電波具合を知られるのは困るだろう。クラスを挙げたドッキリきもしれないが、こんな時間にすることではないだろうし。
「逃がさない」
色々と聞くに堪えない罵声を唱え続けることに熱中している茨に気づかれないようにそっとドアへと移動するよつ葉を留めたのはそんな声だった。
じゃらり
そんな音を立てる、正しく言えば足元だ。
知らない間に右足に絡まっていた細身の金のチェーンアンクレットには眩いエメラルドのような緑の石が輝いている。
いつの間にこんなものが。
なんていうホラーだと気持ちの悪い汗が背中を流れるのを感じながら、そっと屈んでチェーンを外そうとするも、なぜか留め具が見つからないそれは外そうと引っ張れば引っ張るほどきつく巻きついてくる。
なにこれ超怖いんですけど!?
よつ葉が必死になって足首に巻き付くそれと格闘していると、冷めた声が聞こえた。
「無駄よ。それ、取れないから」
声のする方へ顔を挙げれば、茨が冷めた目でよつ葉を見下ろしていた。
茨は無表情に自分の右手首を差し出してみせた。そこには先ほどまでネックレスと思っていたチェーンブレスレットがキラキラと嵌っている。
「これ、勝手にその人に合わせて縮んだり大きくなったりするの。気持ち悪いでしょ。基本的に悪意を持ってはずそうとすると取れないから」
「ちょっと、意味わからないですけど。なんていう嫌がらせ?いじめ? 」
「あんたみたいなつまんない子いじめほど暇じゃないわよ」
吐き捨てるように否定する茨はクラスでは見せることのないような怒気と苛立ちを無表情に乗せて、よつ葉を冷ややかに見降ろし続ける。
「馬鹿みたいとか思うだろうけど、それ、あいつらのマーキンググッズで変身グッズ。あたしのとはたぶん違うから細かい説明はできないからしないけど、あー面倒くさい」
聞いてて気持ちの良くない単語が二つも出た。
よつ葉は全力で帰りたくて仕方なくなってきているので、失礼とは思いつつも右足を少し上げてぶらつかせてチェーンアクセを主張させながら頼んでみた。
「面倒なら何もしないのでこれ回収してくれないかな」
「無理」
うん、雰囲気からして察してた。でも主張はするよ。こんなの要らないし。何かしらないけど。
茨は心底面倒くさい・不愉快・つまらないの3拍子揃ったような態度でよつ葉に説明した。
「たぶん春風さんも一度は聞いたことあると思うけど、結城学園にヒーローがいるって話。あれは本当の話。ヒーローってか私たちの場合はヒロインだけど、伝統的に「優秀」で「特別」な生徒が選ばれてなるものって聞いてる。で、今回はうちの学年から5人選ばれてるんだけど、まぁ誰かは省くわ。私含めて残り4人いるぐらいの気持ちで聞いていて」
「聞きたくないので帰っていいですか」
「帰ってもいいけどたぶん死ぬわよ」
「聞き捨てならないこと言われた!」
「本題はここからだから」
まぁ座って。私も面倒だし疲れるから。
茨が勧めるままによつ葉は適当な席に座った。茨はクラブ活動用に持ってきただろう水筒から何かを一口飲んでから座った。
「簡単に言えば、この学区内の平和を守るお仕事をするんだけど、別にそこらへんの変質者とか不審者を取り締まるわけじゃないの。そういうのは警察の仕事だし、地域の大人がすればいいと思う。
で、私たちがしていることは魔法少女になって怪人の討伐になるんだけど」
「は?」
「だから、怪人の討伐。魔法少女に変身して化け物を殺すの」
なんか物騒なこと言われた。
「すみません、殺人はちょっと」
魔女っ子とかとても恥ずかしいと思うんだよ。もう私たち小学四年生だよ。
変身ごっこが許されるのはせいぜい小学一年生ぐらいまでだと思うの。
そもそもそういう美少女戦士とかキュートだったりプリティな戦士にも憧れたことないけど。
それに怪人。怪しい人と書いて怪人。人類人化の類ならば是非とも殺害は遠慮したい。私はこの年で十字架を背負う気はない。
「気持ちはわかるけど、たぶん無理。”それ”がつけられた人間を積極的に狙うようにされてるらしいから、たぶんそのまま帰ろうとしたら下校中に襲われて死ぬよ」
「ごめん、さっきから話が全然見えない」
説明が面倒くさいと言っても程がある。
今わかってるのは化け物になぜか強制的に襲われるようになって、殺されないために殺せというぐらいしか把握できない。
徐々に落ち着いてきたのか、茨も憤怒を露わにしていた顔から微妙な顔にまでなった。微妙な顔でも可愛いって美人は得だな。
「悪いけど、私も全部わかってるわけじゃないんだわ。私も強制的になった類の人間だし、私の前任者の場合は殺されかけてたから、それこそ碌な引継ぎもなかったし」
「どういうことなのそれ」
「そのままだけど?」
ちなみに前任者は中学二年生ね。
良いのか悪いのか判断しかねるような追記を言われたが、この4歳の壁をどう受け取ればいいのかさっぱりわからない。
「色々言いたいことも聞きたいこともあるけど、二つだけいい?」
「わからないことも多いけど、どうぞ」
「これ、拒否したいんだけど」
「だからできないってば。簡単にできたら私も辞めてるし」
それもそうだろう。誰が好んで化け物に襲われたいと思うのだろうか。ここはどこだ、平和国日本だ。
「じゃあもう一つの質問だけど、これ、何?」
私はチェーンアクセを指差した。
先ほどよりかは多少は緩くなったが、それでも足から外せるほどの弛みはない。
茨は少し考えてから、自分のチェーンアクセの石をもう片方の手で持ち上げた。
「一言でいえば変身グッズ、というのがわかりやすいと思うの。基本的に怪人と戦う時はこれに向けて『チェンジブレイブ』って言えば一瞬で戦闘用の服にかわるようになってるから、私服とか制服が破損することはないのは利点ね。あ、ちなみにこのチェーン、切れないから。一度怪人の攻撃をチェーンで受けたんだけど切れないし危ないだけだからやめときなよ」
「…ちなみにその時の攻撃って何?」
「レーザービーム」
「何それ死んじゃう!」
「だから危ないって言ったじゃん」
どんだけ危ないことを小学生にさせる気なんだこの学園!こちとら幼女卒業してからまだ片手年内しか経ってないぞコラ!教育委員会とかその手の団体に届けたら絶対児童虐待で捕まると思うの、この学園。
「なんてこんな危ないこと小学生にさせるのかさっぱりわからない…」
「激しく同意するわ。ちなみに、怪人一体倒すごとに100万円出るから」
「は?」
「報奨金として出るのよ。正しく言うと、本体の怪人が100万円で、それを守る雑魚が1体2万円なんだけど」
「…どこから出てるのそれ」
「さぁ?でも通帳は学園が作ってくれたけど、面倒なことになった時はなんか偉そうな人たちが来たから国も関わってると思う」
小学生になんつー大金渡すんだ。
いや、人が命かけて戦うんだから正当な報酬なのかもしれない。高いのか安いのかわからないけど。
「ちなみに課税されるものらしいから、確定申告が必要なんだって」
「何それ」
「税金を国に治めなきゃいけないのよ」
何だかいろいろと理不尽を感じずにはいられない。
一応確定申告とやらは学園側が世話をしてくれるとか言われたがもうどうでもいい。
命は狙われるは大金出されるらしいとか変身コスチュームとかなんだよもう。
「本当になんなのこれ…」
「さあ?でも、誰にでもできることじゃないから」
「茨さんは、好きでやってるの?」
「うーん…どうかな。初めは嫌々だったけど、今は義務感もあるし、私でないとできないこともあるのかもしれないって割り切ってる」
やりたいこともあるし。
小さく茨がつぶやいた言葉はよつ葉にも届いたが、よつ葉はそれに触れることはしなかった。
「それじゃあもう質問はいいよね」
「え?わからないことだらけなんだけど」
「知らないわよそんなこと。とりあえず、春風さんが死なない程度に変身グッズの使い方教えるから」
忘れたら死ぬから一度で覚えてよ。
茨はさらりとそう言って、自分のチェーンアクセに向かって囁いた。
『チェンジブレイブ』
すると赤い光が教室中を照らした。それは正に一瞬だったけれど、その光で目がやられた。先に言え。
よつ葉が目をこすり、ようやく落ち着いたと目の前の茨を見た。
「…なによ」
全身赤色のロリータファッションの茨様がいました。
「あんたも似たような恰好になるんだから。もういいわ、あと2時間もしたらどうせあいつら出てくるんだから、このまま実践に行くわよ」
「え?」
晩御飯…
いや、その前に何の腹も括ってないんだけども。
「家になら担任から電話してもらうから」
茨は事も無げにそういって、鞄からサンドイッチ系の惣菜パンをよつ葉に投げ渡した。
担任とか、本当に学校ぐるみの犯罪か。
抗議なんかどれだけでもしたいけれども、目の前にドギツイ赤色の美少女が睨みつけてくるので、基本的に平和主義なよつ葉としてはこれ以上言う気力はなかった。
もうどうにでもなれ。
あんまりな情報によつ葉の頭の処理が追いつかないことをいいことに、茨はパンをもしゃもしゃと食べるよつ葉に操作方法を教え始めた。食後でいいじゃん。
この時のことを後によつ葉はこう語る。
「パン食べてる暇があるなら、死ぬ気で学園長室に乗り込んで直談判すればよかった」と。
*************
教室で強制的に変身させられたよつ葉は茨によって学校より強制的に最寄りの公園へ拉致られていた。
夜の窓に映る自分のロリータファッションはいっそ殺してくれと思う程度に似合ってなかった。だいたい緑色のロリータなんてほぼ見たことないし。このカラーリングは名前からなの?安易すぎやしないか。
色々セルフツッコミをしているよつ葉だが、公園中央の広場に到着した際に茨は苦々しくよつ葉に告げた。
「ここからはコードネームで呼び合うから。私のことはブレイブローズかローズと呼びなさい。ちなみに春風さんはブレイブクローバーだから」
「は?」
「命名権も意匠権もこっちにないから私に何か言われても困る」
一応茨も恥ずかしいという羞恥心は残っていたようだと妙な安心をしたよつ葉だが、肝心の自分がそんな羞恥心を掻き立てられるような行為をしている事実は変わらないのだった。
「基本的に日付が変わるぐらいにあいつらは私たちの周辺に寄ってくるわ。家族を巻き込みたくなかったら今日みたいにこっそり抜け出すことをお勧めする」
ちなみにこっそりといってはいるが、学校の四階から飛び降りただけです。
変身後の姿で無理矢理窓から突き落とされたのは絶対に忘れない。
怪我ひとつしなかったけど。
「ほら、きた」
あっちよ。と、茨が顎で指した先には20を超える160cmぐらいの人型の集団がぞろぞろとこちらへ向かってくるところだった。
無数の生き物は短い足と細長く黒い一本角を持つ生き物が大半で、それは濡れているのか近づくたびにぬちゃぬちゃした音が聞こえてきて、もうよつ葉はそれだけで気持ち悪くて仕方なかった。
「今日はカエル型か…じゃあ雑魚はおたまじゃくしってところかしら」
「か、勝山さん、カエルって」
「あいつらが怪人。化け物。形は決まってないけど、まぁだいたいあんな感じ」
人とは思えないでしょ、二足歩行はしてるけど。
鼻で笑って、茨は嘲るように前に進み出た。
「どうしても逃げたいなら逃げてもいいけど、その代わりにあんたの周りの人間が死ぬから」
私は助けないからね。
あんたのことどうでもいいし。
そういって茨はよつ葉を背に駆け出した。
手にはどこからともなく現れた赤い柄の細身の剣を握りしめて。
「こうやって殺していくのよ!」
よつ葉の前で、見せつけるように茨はその細い剣のどこにそんな威力があるのかと思うような威力で、目の前の推定・おたまじゃくし型怪人を真っ二つにした。切り捨てられた怪人は漫画みたいに爆発するでもなく煙のように消えるでもなく、黒い液体を垂れ流してそのままそこで息絶えた。
斬り捨てた者になんか興味はないとばかりに次から次へと真っ直ぐに進む茨を呆然と見ている間に、気が付けばよつ葉は自分が囲まれていることに気がついた。
「ぐああああっ」
泣き声らしきものを呻くように吐きながら近づくそれは、明確な殺意があった。
「やだ」
じりじりといたぶるように殺されるのだろうか。
「もうやだ」
殺されるのは嫌だ。でも死にたい。死にたくない。でも殺されたくない。死にたいのに。
茨から教えてもらった使い方も震える手でと一線を越えた頭では何もできない。
「クローバー!あんたがここを生き抜けたら、いいこと教えてあげる」
「ローズ…?」
親玉らしき赤黒いような緑のようなカエルと交戦しながら、茨はよつ葉に声だけ告げた。
「こんなバカみたいなことから抜け出せる方法、一つだけ知ってるの、私。
でも死ぬ人間に教えるなんて馬鹿なことはしないわ」
だから
「辞めたかったら殺しなさい」
こんなバカみたいな世界に片足突っ込んだんだから、それぐらいは仕方ないから巻き込まれなさい。
あんたみたいに何の価値があるのかもわからないような有象無象だけど、選ばれた以上、最低限の義務は果たしなさい。
「今日を生き残っていたら教えてあげるわ」
もう一度、そういって茨は目の前のカエルを4つに切り裂いた。
声もなくそれは汚い液体をまき散らして地面に転がったそれの頭部らしき部分を踏み潰して、茨はあとはもう関係ないとばかりに傍観の姿勢を取った。
「本当に!教えてくれるの!?」
「私はこんな嘘はつかないわ」
つまらなさそうにそういった茨を睨んで、よつ葉は目の前に迫った怪人を見た。
既に大分距離をつけられたことにようやく頭が追いついた。
だから、学校から飛び降りたみたいに思い切りジャンプして、茨の前まで一足飛びで移動した。
「ぐぇああ」
おたまじゃくしらしいだけあって、短い足では頭上を飛び越えるよつ葉を捕まえることもできないようで、あっさりとその距離はいくらか開いた。
茨は自分の目の前にきたよつ葉に自分は何もしないという態度を崩さずにいる。
今更よつ葉も茨を頼ろうとはしていない。逃げようとはしても始めから頼ろうとはしていないが。
「ブレイブクローバー」
よつ葉は声に出さないといけないってやっぱりただの羞恥プレイだよなと思いながらそうささやくと、自分が望んだ「物」が手の中に現れた。
本物に触れたことはないが、使い方なら知ってる。自分が望んだものなのだから、使い方は自分の思った通りだろう。
茨を一瞥したよつ葉は、手中のそれの一部を引き抜いて、目の前の「怪人」集団へと投げた。
「え?ちょ、それって!」
宙に舞うそれを視認して、茨はあっけにとられたように叫ぶもそれは既に放たれた後だ。
「どーん!」
数秒後によつ葉が明るく声を上げた直後、オタマジャクシたちの集団の中央に届いた「それ」は派手な爆発音とそれに相応しい爆発を起こした。
広場で基本的に遮蔽物のない空間ではあるものの、爆発後の広場は黒く焼け焦げ、オタマジャクシだったものの破片が飛び散り公園を彩る備品は軒並み全滅していた。
間一髪というところで広場から距離を取っていた茨はしばらく呆然とした後、やれやれといった感じで自分に近づいてきたよつ葉の胸倉をつかみ思いっきり揺さぶった。
「ちょ、か、勝山さん苦しいよ!?」
「ば、ばっかじゃないの!?なんで手りゅう弾なんか投げたのよ!!何考えてんの!」
「自分が殺されかけてるところに他のことなんか気に掛けられるわけないじゃん!」
「だからってどこに爆発物を持ち込む人間がいるのよ!」
「でもこれで一気に殲滅できたよ」
「この現状見てそんな態度とか何考えてんの?今更だけどおっかない子ね…」
ドン引きしたと言わんばかりの茨だが、よつ葉からみればいちいちちまちま剣で切り殺す方が非効率だと思うのだ。絵的には良いのかもしれないが、見世物でもないし。
「それで、勝山さん」
よつ葉は肉体的な疲労ではない何かに頭を痛めている茨に微笑んだ。
「こんなバカバカしいこと辞める方法って何?」
茨はよつ葉の笑顔を見て認識を改めた。
こんな惨状を起こしておいて、笑えるような女がまともで地味でつまらない有象無象な人間なわけがないと。
……面倒な人間を引き込みやがって。
そんな愚痴をここにはいない誰かに向けて毒を吐きながら、茨はよつ葉を見た。
どうやらこれだけ派手なことをしたものの、まだ処理班は近くまで来ていないようだ。
この話はあまり人に聞かれたいものではないから都合がいいだろうと茨は判断して、よつ葉を手招いて近くまで寄らせた。
「先に言っておくけど、確かな方法ではないわ。私が前任者から引き継いだ方法だから」
「方法なんて何でもいいから、教えて」
誤魔化しなんて許さない問い目線で強く強いるよつ葉に苦笑した。
何故わからないのだろうと。
そんな簡単な方法があるのなら、自分がいくら「特別」な存在だからといって、こんなくだらないことからさっさと逃げてるだろうに。
「自分が死にそうな時に、この学園の誰かにチェーンブレスを渡すこと。無理矢理でなく、ちゃんと納得させてよ」
「自分が死にそうな時だけなの?」
よつ葉の質問に茨は素直に頷いた。
「何ともない状態の時になら自分で確かめたから、これは確かよ。友人を売った形になるから、あまりおおっぴらに言えないんだけど」
「もしかして猪原くん?」
よつ葉は茨の幼馴染らしい同級生を挙げた。
彼も茨の隣に立って負けず劣らずの良い見栄えの少年だ。正統派イケメンとかいうやつだ。
茨は事も無げに肯定した。
「そうよ。あいつ、まだこの年でヒーローものとか好きでねー。変身グッズなんだけどいる?怪人と戦うことになっちゃうけどって言ったら二つ返事でOKもらったわよ」
確かに納得させているのかもしれないが、ある意味詐欺だ。
というか、こんな女性向けアクセサリーでよく同意したな。
「ちなみに、結果は?」
「被害者一名追加」
「うわあ…」
「たぶん、本人が継続できない事態って認識されないとダメなんでしょうね。私の前任者はその時私が引き継いでから2週間くらい入院してたし」
「それガチで命ヤバいヤツじゃん」
「だから言ったでしょう。確かじゃないって。これも推定に過ぎないし」
茨はチェーンアクセに向けて囁いて、私服に戻った。
面倒くさそうに体を伸ばしてストレッチをさせながら、よつ葉を斜め見た。
「辞めたければ死ぬ気で戦いなさい」
じゃあ、私先に帰るわ。
茨はそういってよつ葉に背を向けて公園の出口へと歩き出した。
気が付けば車の近づく音とライトが見えた。
そこでようやくよつ葉も私服に着替えた。
後ろを振り向けば相変わらず酷い惨状で悪臭もえらいことになっているが、茨の言うとおり、何とかされるのだろう。
よつ葉も公園に背を向けて家へと向かった。
こんな深夜に一人で歩くなんてこと、今までなかった。
点々と続く蛍光灯だけではどことなく不安な夜道を歩きながら、よつ葉は二度とこんなことしたくないと思った。
ただ、それはきっと当面無理だろうことはわかってしまった。
この日この時、彼女の死亡フラグ乱立計画は始まった。
いつ彼女の計画が成功するのかは、誰も知らない。
勢いだけで書き出したので伏せんなんかまったくもって回収していません。
こんなよくわからんことで死んでたまるかと死亡フラグ(死ぬ気はない)らしきものを片っ端から立てて、片っ端から他の魔法少女とか少年にフラグ立ってまわりばかり引退していって最後は自分一人きりになるとかそんなオチになりそうな気がします。
もともとヒーローものの悪役マドンナ様が無双する話を書きたかったはずなのにどうしたこうなった。
ちなみに巻き込まれた少年らはうっかりすると美少女ロリータワンピ姿になります。