拾われ少女と無気力勇者の冒険紀行
このお話は、
ど う し て こ う な っ た 感 溢れる
【勇者】が登場します。
勇者【が】登場します。
大事な事だからいっておきました。
健全(笑)なお話を目指しているので
このテンションに耐えられない方は
閲覧をお控えください。
「お前はどうしてこんな事をするんだ」
そう問うと目の前の存在は首を傾げてみせる。深々と被られたフードのせいで表情はよめないが、問いかけられた存在は更に皮肉めいた口調で返してきた。
「どうして…? ならばこちらも問う」
一瞬くすくすと人を小馬鹿にした笑いを漏らしたが、すぐにその事を忘れさせる威圧感を放ってきた。憤りの中に何か別の感情を押し殺しながらそれは叫んだ。
「何故、お前は私の邪魔をする…勇者!」
そう言うと【魔王】は何もない虚空から黒い焔を出現させ、殺気に満ちた目でこちらに襲いかかった。
………
???&勇者
木漏れ日の溢れる森の中。
鳥たちの声が微かに聞こえるだけの静寂な空間で私は眠りについていたようだ。
「おーい…大丈夫か君」
誰かに声をかけられたが、まだ意識は半覚醒状態で右からきた言葉を左へ受け流した。私の意識の底できっと今ムーディなお方が歌を歌っているにちがいない。
「おーい…おーいってばー」
ツンツンツンツン。
…何か硬い何かで頬を突かれている。それはもう現在進行形で。【ing】でです。少し尖ったそれで突かれ、流石に感じた違和感は左へ受け流せなかったので、仕方なく甘き惰眠を手放すことにした。
目を覚ますと、知らない男の人がいた。
少なめの装飾と申し訳程度の防具、右手にはロングソードを手にしているが…まさかあれで頬を突いていたわけではあるまいよな…?
と、ここで自分はある事に気づく。
この男の事も私はわからない…のだが。
そもそも私は…私って誰?
「……君、何も覚えてないの?」
少し訝しげに私を見る目の前の男の人。
確かにこんなあり得ない話、信じられないだろう。…当人である私だって信じられないのだ。私は必死にウンウン唸ってみる。何か思い出せないだろうか? だけど私の努力は空回りしてしまい、名前さえ記憶にあがらない。
「…えと…」
「あー…うん、よしよし。わかんないなら無理に思い出す事ないさ。…その内思い出すだろうし」
男の人は気を利かせてくれてたが、本当に今の私には何もない。そんな不安が私を襲う。
どうにもならない思考の波に晒され、周りが見えなくなる。
「あー…、俺は勇者…一応世界平和のために悪い奴を倒すのが仕事だけど、困った女の子助けるのも仕事だから…ね? だから、落ち着いて!」
「今なんていいました?」
「え、落ち着いてって」
「もっと前です! その…勇者の」
「世界平和?」
「それです!」
それでも、一つだけ心の中に何かがくすぶる感覚があった。それはそう、信条のような…夢というか…そんな感じの曖昧なものだが、それでも一つこれからの行動が決まった。
「世界を…平和にする…!」