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とある××の日常

 うとうとと、微睡の中で止まった時が経過するのをただただ身を任せて待つ。

 夢に沈み、目を覚ましお茶を一口飲んで、また夢を見る。

 胡蝶の夢、というものだろうか。どちらの私が私なのかわからなくなる。ここが現実で、あちらが夢なのか。それともここが夢で、あちらが現実なのか。少なくとも、あちらの私はこちらのことを知らないようであったけれど。


「いやあ見事」


 かけられた声に、眠気に溺れかけた思考がわずかに浮上する。そちらに顔を向ければ、褐色の肌を持つ帽子屋が、にやにやと人が悪い笑みを浮かべて紅茶を口にしていた。


「まさかここまで矛盾がありながら矛盾がない世界を創りあげるとはいやはや、予想外だった。流石は世界を紡ぐことを生業としていたというだけはあるということか」


 少しばかり首を傾げ、寝辛いので途中で戻す。相変わらず突拍子のないことを言いだす帽子屋だが仕方ない、彼は気違いなのだから。とりあえず合わせておけばなんとかなるものだと、どちらの私も知っていた。


「こんな面白いものを彼に燃やされてしまうのは惜しい。もう少し君には付き合ってもらうとしようか」


 わざわざヤマネに火をつけようとは、ひどい奴もいたものだ。そして付き合うもなにも、私に選択権などありません。だって帰る許可もなにもないじゃあありませんか。


「しかし、君は動かなくていいのかい女王?」


 今は冬で、ヤマネは寝るものですよ帽子屋。故に私は寝ているのです。たまに起きますが、しかしまあ終わらないものですね。


「失礼、眠りネズミの役を振ったのは私だったか。しかしまあ、彼女と違って君は寂しくないのかね?」


 不思議なことを言いますね。ここには貴方がいますよ帽子屋。それから三月ウサギも。お茶会は女王の許可が出るまで終わることはありません。ばらばらにされた時間だって、怒っているんじゃなくて女王の不興を買いたくないからこうしてずーっと時計の針が動かないんでしょうよ。


「つまり終わらないわけだね、君がここにいる限り。よくもまあそこまで見事に上位存在と下位存在とに己を分割できるものだ、ある種の尊敬に値する、とでも言うのかね?」


 さあ、どうでしょうね。仰ってる意味がよく分かりませんので。

 ああ、眠い眠い。すみませんが、また眠ってもよろしいですか?冬というのはいけませんね、どうしてこう眠いのでしょうか。時間が止まってるせいでずっと冬なんですもの、いくら寝ても寝ても眠くて眠くて。


「仕方あるまい、君は眠りネズミなのだからね。しかし君が寝てしまうと暇だな。彼らにちょっかいを出しにいくべきか――ああそうだ、君の夢を見せてもらってもいいかね?そこに【私】はいないんだろう?」


 ええ、なぜだか知りませんがいませんね。貴方や、つまりは×××××に関連するものが綺麗に存在しないと言いますか。


「ふむ、実に興味深い。つまりは私が干渉しなかった場合のある種の平行世界であるわけか」


 相変わらず帽子屋は脈絡もなく妙なことを言いますね。流石は帽子屋、ああ、眠い。夢を覗くのは構いませんが、荒らさないでくださいませんか。このだらだら続くお茶会の中での唯一の楽しみですのに、無茶苦茶にされてしまったらたまらない。


「仕方あるまい、この世界の主は私でなく君だからね、女王。そう命令されては従わざるをえんよ」


 相変わらずこの人は気が違っているなあ、可哀そうに。


「君は内向的かと思いきや、存外口が悪い上に行動的だなとつくづく思うよ」


 ふむ、言っている意味がわかりません。それではもういい加減寝ます、眠いです、おやすみなさい。


「ああ、おやすみ××××××」


 誰の名前を呼んでいるのかわからないが、どうやらだれかの名前を呼んでいるらしい。一体誰を呼んでいるのだろう、これだから気違いは。


 かちゃかちゃと食器が擦れる音がする。紅茶の香りがふんわり漂い、お茶菓子は尽きることなく皿の上に存在する。

 お茶会は終わらない。いつまでも、いつまでも。


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