一日目 日曜日 その2
「そ、そういえば、鬼塚さんは料理が得意なの?」
どうにもおかしな方向に話が進んでいきそうな雰囲気だったので、僕は無理矢理話題を変えることにした。ちょうど手元にはさっき拾った料理の本がある。
僕が料理の本を持っている事に気がつくと彼女は「あっ」と声をあげた。
「ごめん。見るつもりはなかったんだけど、袋から出ちゃってたから」
「気にしないでください」
袋に「よろこんでもらいルお弁当の作り方」を入れ直して彼女に渡した。
「料理は好きなんです」
少し照れくさそうに本を受け取って、大事そうに胸に抱えた。
「じゃあよく作ったりするんだ?」
「うちはお母さんがいないことが多いので、代わりに作ったりするんですよ。それにみんな喜んで食べてくれるからうれしいし」
鬼姫の口から普通にお母さんとかいう単語が出てくるのはなんだか妙な気分だ。
「へえ、そうんんだ。その本もお弁当の本だし、もしかして毎日学校に自分でお弁当作って持ってきてたりするわけ?」
コクリと彼女は一つ頷いた。そういえば昼休みに彼女がどこにいるのか知らなかった。教室にもいないし学食にいるわけでもない。どこかでお弁当を食べていたわけだ。
「すごいね。僕も最近ちょこっとだけ料理をするんだけど、料理が得意な人って尊敬するよ」
「そ、そんな尊敬だなんて」
「ほんとすごいって! 鬼塚さんの得意料理は何なの? 今度食べさせてよ」
軽い気持ちで言った。会話の流れからの自然な軽口だった。
特に深い意味はなかったし、社交辞令のようなものだ。
だけど彼女は衝撃を受けたように目を見開いていた。
あら?
「加藤さんは本当にわたしの料理を食べたいと思います?」
真剣な面持ちだった。
「も、もちろん思うよ」
あらあら?
それ以外に答えようがない。今さら食べたくないなんて言えないし、彼女の料理に興味があるのも本当だったりする。
でも。
そう、でもだ。
こうやって話していると普通の女の子みたいな感じだけれど、忘れるな僕。彼女の後ろには五人の物言わぬ屍が転がっているんだぞ。
「それなら、もしもわたしがお弁当を作ったら、食べてくれますか?」
よろこんでもらえるお弁当の作り方というタイムリーすぎる本をギュッと胸に抱え込んで、鬼塚姫乃さんは息せききるように身を乗り出して訴えかけるような表情で訊ねてきた。
あらあらあら?
どうしてこんな流れになっているのだろう。
この流れは変えられない。断るなんてことはできるはずがないじゃないか。
だから僕はこう答えた。
「も、もちろんだよ。すごい楽しみだな」
「わかりました。それでは今日のお礼もかけてお弁当作ってきますね」
笑うしかなかった。
お礼も何も彼女の勘違いなのだけれど、もう引き返せそうになかった。
「う、うん。楽しみにしているね」
「はい」
それにしても人の噂ほど当てにならないものはないものだ。
僕の中の鬼姫のイメージはすっかりと変わってしまっている。
本当に友達になるのも悪くないかな、と思ったりし始めていた。
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