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鬼姫伝説 ~僕の彼女は最強です~  作者: すずたけ
僕と彼女の一週間
12/21

三日目 火曜日 その2


 というわけで放課後、僕は姫乃と一緒に帰ることになった。

 女子と一緒に下校するというシチュエーションは胸躍る出来事のはずなのだけど、こんなに気まずい気持ちになるのはなぜだろう。

 それはあまりにも注目されてしまっている事が原因だった。

 帰りのホームルームが終わって僕と姫乃は一緒に教室を出て昇降口に向かった。一緒に靴を履き替えて、並んで校舎を出る。学校中の視線が僕たちに集まっている気がした。

 僕は自転車通学なのだけど、姫乃は徒歩なので彼女には校門のところで待っていてもらって自転車を取りに行った。

 一人になるとついついため息が出てしまった。

 ここまで注目されてしまうとさすがに気疲れがする。姫乃が悪いわけじゃないし、逆に注目するなという方が無理だということもわかっている。姫乃のお願いだし、別に一緒に帰るのが嫌というわけでもないのだけれど、やっぱりため息が出てしまう。

 注目されるのには慣れてないのだ。

 自転車を押して校門に向かうと、なぜか人だかりができていた。

 どうしたのだろうと近づいていくと、原因は姫乃だった。

 姫乃は校門の端の方でこちら側を向くようにして静かに立っていた。

 別に辺りを威圧するような態度でもないし、誰かを睨みつけているわけでもない。それでも姫乃の前を通って学校を出る勇気がある生徒はいないようだった。

 だからいつの間にか校門の近くには姫乃を遠巻きにする人だかりができてしまったようだ。

 そんな中を僕は自転車を押して姫乃に近づいていった。

注目度は抜群だった。

 僕の姿を見つけたようで無表情だった姫乃の顔がほんの少しだけ和らいだ。

 二人でお弁当を食べている時はもっと表情の変化は大きいのだけれど、教室や今みたいに人目がある時はあまり表情を変えない。今も他の人から見たら特に変化がないように見えたと思う。

「ごめんね、待たせちゃって」

 とりあえず人だかりは気にしないことにして姫乃に近づいて声をかける。

 姫乃は首を横に振って「気にしないでください」と小さく答えた。

 そして二人で並んで学校を後にした。

 後ろからどよめきが聞こえてきたけれど気にしない。気にしちゃいけないということがだんだんとわかってきた。

 姫乃の家は学校から歩いて15分くらいの距離にある。大きなお屋敷で昔から場所は知っていたし、有名でもあった。

ちなみに僕の家は姫乃の家から自転車で一〇分くらいだ。だから姫乃の家の方に向かうと少しだけ遠回りになる。

僕は自転車には乗らないで押して歩きながら、姫乃は両手で鞄をもって少しうつむき加減で、二人並んで歩いていた。

学校を出てからしばらくの間はお互い会話はなかったけれど、気まずい感じではなかった。

「そういえば、僕と姫って小、中、高校って同じ学校だったんだけど知っていた?」

 沈黙を破ったのは僕の方からだった。

姫と呼ぶのもだいぶ慣れてきた。

「はい、もちろん知っていましたよ」

 もちろんなんだ。

「クラスが一緒になるのは初めてだよね。僕ってそんなに目立つほうじゃないし、僕のことよく知っていたね」

 純粋に僕は目立つほうじゃない。自分を卑下するつもりはないけれど、僕はカッコイイわけでもないし運動で活躍したり勉強もとりたててできるわけでもない。よくいる普通の高校生だ。

 それに姫乃は他の生徒には無関心だったはずなのに、なぜ僕のことを知っていたのだろうっていうのは最初から疑問に思っていたことだ。まあクラスメートだからというのはわかるけど、僕と姫乃は今まで接点らしい接点もなかったはずだし……。などと思いだしていると、

「ちゃんと小学校のころから優太さんのことは知っていましたよ」

 と、姫乃が教えてくれた。

「へえ、そうなんだ」

 卒業アルバムを見たりすればすぐにわかることだけど、姫乃が知っていたのは驚きだった。

 意外に思ったのが顔に出てしまったみたいで、姫乃は小首をかしげるように微笑んでいたずらをとがめるような感じの口調で言った。

「優太さんとは小学生の時にお話したことがあるんですよ。覚えていませんか?」

「……え?」

 覚えていなかった。というか日曜日に話したのが最初だと思っていたし、お互いに認識したのもその時だと思っていた。だけれど姫乃の言う通りだとしたら、小学生の時から僕はしっかりと認識されていたというわけだ。

「やっぱり覚えていませんよね?」

「……ごめん」

「いいえ、気にしないでください。お話したといっても一度だけですし、それに今こうしてたくさんお話できるようになったわけですし」

 やっぱり思い出せない。小学生時代のことなんて細かく覚えていないし、よっぽど大きなイベントじゃないと記憶に残ったりしない。それでも鬼姫と話したなんて言う出来事はものすごくインパクトはでかいと思うのだけど、まったくもって印象になかった。

 歩いて一五分という距離は話しているとあっという間の道程だった。

 鬼塚邸は密集した住宅地からわずかに離れたところにあった。時代劇で見るような屋根のついている白い塀に囲まれている。正面にはお城の大手門というのは言いすぎだけど、それくらい立派な門構えをしていた。邸宅自体も立派な建物で、純和風の武家屋敷といった趣だ。

「送ってくれてありがとう」

 門の前に立って姫乃は笑顔を見せてくれた。

 けれどもどことなくさみしそうな名残惜しそうな雰囲気だ。

 歩いて一五分、距離にしたら一キロくらいか。

 僕も少し別れがたい気持ちになっていた。

 何だろうこの気分は。

「また明日ね」

 と言って僕は押してきた自転車にまたがって、手を挙げた。

「はい、また明日」

 姫乃も右手を胸の前まで上げて小さく振ってくれた。

 だけれど、自転車のペダルを踏みだすのをためらってしまった。もうちょっと一緒にいてもいいかなと思うのは、僕が姫乃に慣れてきたからか。慣れてきたというのは言葉が悪いけれど、僕と姫乃の距離が縮んできたのは間違いないかもしれない。

つまり仲良くなってきたというわけだ。

 人の縁というのはどこでどうなるか本当にわからないものだな。しみじみ思っていると姫乃の後ろの門の脇の小さな扉が開いた。

「お嬢、お帰りですか」

 顔を出したのは、紺の半纏を着た髪の毛が真っ白なおじいさんだった。手に竹の箒を持って

いるところをみると門の前を掃くつもりで出てきたようだ。

 ニコニコ笑って好々爺といった雰囲気で姫乃に近づこうとして、僕の姿に気がついて驚いたように動きを止めた。

 それから竹箒を持っていない方の手を頭の後ろにあてて申し訳なさそうにお辞儀をした。そのまま「お邪魔してすいません」みたいな感じで後ろに下がっていく。そして出てきた扉から門の中へと入っていった。

 扉が閉まった瞬間、全速力で走っていく気配が伝わってきた。

 僕は姫乃と顔を見合わせた。おじいさんの様子にどちらからともなく笑ってしまった。

 これがいいきっかけになった。

 あらためて自転車のペダルに足をかけて、僕は姫乃に声をかける。

「あっと、じゃあ帰るね」

 自転車を走らす。しばらく行ってから振り向くと姫乃はまだ門の前に立っていた。

 鬼塚邸から一般住宅の我が家までは、のんびりと自転車を走らせても一〇分ほどだ。夕方の住宅地だけど、車の通りも人通りも少なかった。

 住宅地のそれほど広くない道路の真ん中あたりをゆっくりとべダルをこいで自転車を走らせていると後ろから自動車のエンジン音が聞こえてきた。

 振り返って確認すると黒いワンボックスカーだった。

 ワンボックスカーが追い越せるように自転車を端に寄せる。

 それなのにワンボックスカーはなかなか僕の自転車を追い越して行かない。十分に余裕があるはずなのに、なぜか低速で僕の後をついてくる。

 運転手がものすごく下手くそで追い越せないのだろうか。

 もう一度後ろを確認すると、思った以上に近くにワンボックスカーが迫ってきていてびっくりした。しかも僕の自転車のスピードに合わせるようにして車を走らせている。

 少し不気味だった。

 フロントガラスにもわずかにスモークガラスを張ってあるようで、どんな人が運転しているのかもはっきりとわからなかった。

 なんなんだと思いながら、僕は自転車を道の端に止めてワンボックスカーを先に行かせることにした。これならどんなに運転が下手だったとしても追い越せるだろう。だいたいセンターラインはないけれど、そこまで狭い道じゃないのだ。車だって普通にすれ違えるくらいの幅もあるのだし、自転車を追い越すくらい簡単だと思うのだけど。

 黒いワンボックスカーはのろのろと僕の横を通り過ぎていく。

 窓のない車だった。現金輸送車なんかに使われていそうな自動車だけれど、真っ黒すぎるのがどことなく威圧感もあって不気味な感じだった。

 早く行き過ぎてくれないかなと思いながら見ていると、なんとワンボックスカーが幅寄せをしてきた。

「ちょ、危な!」

 無茶苦茶なことをしてくれる。避けようにも僕はできる限り道の端に寄っている状態だ。

 すぐ横はどこかの家の壁だった。

 ワンボックスカーはさらに寄せてくる。それどころか僕のいく手を阻むように斜めに車を寄せてきた。

「なんだよ? なんなんだよいったい?」

 ワンボックスカーと壁に挟まれて僕は身動きが取れない。しかも自転車に跨ったままだったからさらに動きが制限さてれしまっている。

 焦る僕に触れるか触れないかのところでワンボックスカーは止まった。

 ぶつからなくてホッとしたけれど、安心できるような状況ではない。

 文句を言いたいところだけど、その前にわけがわからないし、ちょっと怖いぞ。

 と、少しパニックになりかけている僕の目の前で、ワンボックスカーの横のスライドドアが勢いよく開け放たれた。



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