二日目 月曜日 その4
その後のことをちょっとだけ説明すると、教室に戻る途中で昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。
ちょっとだけ遅れて教室に入ると、クラス中の視線が僕たちに集中した。
わざとじゃないのだけれど、注目を浴びるような戻り方をしてしまった。
けれども姫乃が無表情のまま教室内を見回すと、全員が全員慌てたように視線を逸らして前を向いた。
やれやれ、さすがは鬼姫といった感じだ。
姫乃と別れて自分の席に戻ると、前の席の小野寺が何ともいえない表情を向けてきた。しばらく何か言いたそうにしていたけれど、結局何も言わないで前を向いてしまった。
「…………」
僕としては肩をすくめるしかない状況だ。
ため息ではないけれど、僕はゆっくりと息を吐き出した。
なんだかとても疲れた。
次の休み時間。
小野寺をはじめとするわりと中のいいクラスメートたちはお互いをけん制するように僕の様子をうかがっていた。
誰が僕に話しかけるか無言の駆け引きが行われている。僕を気にしてというより、教室内では姫乃が怖くて聞くに聞けないといったところだ。
なのでトイレ行こうと教室を出た瞬間、僕はクラスメートたちに拉致された。
連行されるようにトイレに連れ込まれる。
男子トイレなのに女子もいるのはなんでだろう。
「どういうことだ?」
代表して聞いてきたのは小野寺だった。
「鬼姫にお弁当作ってもらって、しかも一緒に食べたそうやないか! 学食から戻ってその話を聞いた時の俺の驚きといったらな。そりゃすごいもんだったわ! きっちりと説明せい!」
「友達になったんだよ」
正直に事実だけを答えた。
とたんに悲鳴やうめき声がそこら中から聞こえてきた。しかも信じられないという驚愕の雰囲気がトイレ中を満たした。
「まさか?」とか「本当に?」とか「うそでしょ?」みたいな疑問はある意味当然だとしてもだ。
「正気か」
とか
「死ぬ気か」
とか
「かわいそうに」
とか、とても不本意な呟き声が聞こえてくる。
「………」
小野寺は黙って僕の肩を叩いた。
他にも何人かが憐れむような表情で僕の肩を叩いていく。
ものすごく納得できない扱いだけれど、気持ちはわかるような気がする。
たぶん僕以外の誰かが姫乃と友達になったとしたら、僕も同じようなことをしたかもしれない。
でも姫乃と友達になることを決めた僕にはこの扱いは不当だ。
改めて思う。
姫乃と友達になるということは、彼女自身と付き合うことよりも周囲の人間の反応の方が大変だということだ。
休み時間が終わるまで僕は解放してもらえなかった。
まだ週の初めの月曜日だというのに、ぐったりとした気分だった。
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