偶然が重なって
神殿の経済状況は、綱渡りの所が非常に多い。
貧しき者からは奪うな、という教義を元に治療費を決めている為、
教国の成立から今日に至るまで、平民からの治療費は同額である。
その額、銅貨五枚。およそ一食分の食事代といったところだ。
言い方は悪いが、一番数の多い顧客である平民からの利益は小さく、
大半の神殿では貴族や裕福な商人、町の有志からの寄付頼みなのだ。
当然大都市や主要な町ではそうした者が多いため寄付額も多くなり、
主要街道から外れている町、あるいは辺鄙な村などでは少なくなる。
よって残念ながら、小さな村には神殿などない所も多いのだ。
そうした場所へ向かう神官も少なく、神殿を建てても維持が難しい。
体調を崩した者は我慢するか、最寄りの神殿がある場所まで行くか、
薬があるならなくなるまで薬に頼るか。
中には血迷って怪しげな祈禱に頼る者もいる。未だに、である。
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神殿側も、というか総本山の教国中央大神殿も憂慮はしている。
どこそこの神殿が収益改善したと情報が入ればそれを真似させたり、
あるいは有力貴族や資産家に働きかけて寄付の増額を持ちかけたり。
聖人や聖女の誕生日には生誕祭を行って集金を試みた事もあった。
しかしどれも一時しのぎや一部神殿のみの経営改善に終わっている。
なかなか決定打となるものがなかった。
そんな中、浴場を併設した小さな町の神殿が一定の成功をみる。
上手い方法だと飛びつき、各地の神殿に浴場併設を命じたのだが、
古来からの水利機構が整っていない地域には無理な号令であり、
神殿上層部も更なる経営改革案を模索していた。
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ところで、神官は別に配偶者を持つことは禁じられていない。
その配偶者、及び子女は神官でなければならない訳でもなく、
中には配偶者が何か別の職に就いている場合もあった。
そのうちのひとつ、あまり大きくはないこの町の神殿。
管理者の下級神官の妻は、農家から嫁いでいる。娘達も農民だ。
主に彼女達は麦を育てており、食料には困った事がなかった。
上の娘の夫は、収穫した麦を使って酒を細々と生産していたが、
ある日うっかり、酒の入った樽に薬草を落としてしまった。
ああもったいない事をした、と下級神官は嘆いたのだが。
樽の中を見れば、薬草から酒へと何かがじわり滲みだしている。
はて?この酒も薬として使えるのではなかろうか?と思い付き、
後日この薬草で治療する病を抱える老人へと飲ませてみた。
結果は期待を超えるものであった。
この薬草、実はそのまま粉薬として使った場合、苦く飲みづらい。
粉薬なので飲む際はむせてよく飲み込めない者も結構多かったが、
液体になったおかげか抵抗なく老人は飲んでいた。
まあ単に酒好きだったのかもしれないが。
そして理由は不明だが、粉薬を服用した時より効果が高かった。
しかも効き目が出るのが粉薬より圧倒的に早い。
薬草酒の予想もしなかった結果にこの下級神官も驚愕し、
彼はそれ以外の薬草でも効果が出るのか試し続ける事になる。
半年間、町の薬師とも協力して、薬草酒は完成にこぎつけた。
販売したところ、飛ぶように売れる。それなりの値段なのに。
協力していた薬師や酒蔵でも販売し、評判は瞬く間に広がる。
この成功体験は教国中央大神殿にも時を置かず伝わり、
各地の神殿でも競うように薬草酒造りに取り組む事となった。
あちこちの酒蔵もこれに乗り、薬草酒は各地へ広まっていった。
手掛けた神殿により風味も効果も異なるとあって、
各地の神殿を「巡礼」と称して飲み歩く「信者」も増加する。
神殿の経営状態は全体的に解決へと向かった。
まあ、二日酔いの患者が激増し、神殿に押しかけたのはご愛敬か。
決して患者数を増やすために手掛けたのではない。決して。
某炭酸飲料も、販売当初は薬局で売られていたそうですな。
中学校の時社会科見学で知りました。当時は炭酸抜きだとも。




