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ねこのゆめ  作者: 伯佐
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4 続・魔術師の夢

「その歳で、引退?」

 

 

流してもよかったのだが、見るところ彼はまだ二十代後半くらい。働き盛りだ。

引退とはどういうことか。

 

 

「いろいろあってな」

 

ルーシオは言葉を濁す。

ほほう、踏み入れる事なかれと。まあ誰しも触れてほしくないことのひとつやふたつ。

そう思い直しわたしは話題を変える。 

 

 

「・・・本って、やっぱり魔法の本なの?」

 

 

「ああ、専門書だ。・・・・・・いや、そんなことは今はいいんだ」

 

 

ルーシオは軽く首をふる。

コンコン、とノックの音がした。

 

 

「失礼します。お茶をお持ちしました」

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

わたしはまじまじとその人を見た。

 

じいさまだ・・・・・・。

 

皺のふかーい、厳しい目元の。なぜここに?もしやわたしが心配で心配で世界を渡っちゃった?いやいやいや。いや・・・・・・。

 

 

「アムルさん・・・・・・?」

 

 

その人はこちらに顔を向けお辞儀をする。

おっ、正解?

 

 

「驚いたな。二度会っただけでアムルに気付くなんて」

 

 

ルーシオが目を細くする。

まあ、じいさまがここにいるはずないものね。

 

 

じいさまの姿をしたアムルさんが紅茶らしき液体をカップに注いでくれる。

彼は燕尾服を着ていたので、わたしは燕尾服を着たじいさまをみることになった。凄まじく似合ってなくてなんとも複雑。

 

テーブルの中央にはおいしそうな焼き菓子と果物の籠。

 

勧められるもためらってしまう。

 

異界の食べ物。

異界人のわたしにどう作用するかわからない。必要に迫られない限り口にしたくないものだ。

 

 

「あ、そうだった。わたしの名前」

 

 

自己紹介の途中だったことに気がついた。

わたしは紅茶を飲むか飲まないか迷い、ちょうどお茶をいれてくれたアムルさんがでていったので結局手をつけないことにした。

 

 

「えっと、わたしの名前はえっと、うーん、じゃあネコです。ネコ。ネコと呼んでください」

 

 

さっき猫をみたからネコ。

あとそれと、教科書に載っていた外国の古典文学の一節を思い出したのだ。

たしか、『我が輩は猫である。名前はまだない。』。

 

偽名なんてこれで充分だ。

 

 

「じゃあって・・・・・・」

 

 

そういうとルーシオはおかしそうに笑った。笑うと少しだけ険が消える。目尻の皺も好ましい。うん、もっと笑えばいいのだこの人は。そうすればもっと怖くなくなくなる。うん、わたしが。

 

 

「・・・・・・。」

 

 

また違うところでわたしは考える。

 

わたしは小さい頃、家のでっかい倉のなかで遭難しかけ、なんとなくちらりと開いてみた書物で、うっかり異世界渡りをしてしまったご先祖様の話を読んだことがある。

 

そこにはなんどもなんども同じ様な経験をし、壮絶なる人生をおくってきたそのご先祖様が子孫に書き残した、『異世界にいってしまったときの注意事項』が連ねられていた。

 

 

 

一、 本当の名前を教えてはならない。

   名には力があり、名を知られるということは魂を掴まれるもおなじこと。

 

二、 その世界の食べ物は極力口にしない。

   かえってきたいのなら死ぬ気で食うな。その地の食べ物は人の体を土地に縛り付けてしまう。

 

三、 体を交わらせてはならない。

   交わることで体がその世界にとけ込んでしまう。

 

四、 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

受難な我が血筋よな・・・・・・。

我が一族が陰陽師なんかになったのは、単純に他よりあやかしが見え、あやかしに狙われやすかったからだ。かつてはカーラ神なんていなかったしこういう『影のあやかし』みたいなよくわからない強いあやかしとの接触もよくあったんだろうなあ・・・・・・。

 

 

でもどうやってかえったかという肝心要が思い出せないなあ。

 

 

・・・・・・。

 

 

うああああーっ!!

役に立たん!

 

 

ーーーしかし、物を食ってはいかんだなんて。

ネコは目の前の焼き菓子をじっと見る。ううーん、夕飯時だもんなあ。お腹がすく時間帯です。

 

遠い目をしていると、わたしが紅茶に手を付ける気配がないらしいと悟ったルーシオが口を開いた。

 

 

「はなしてもいいか?」

 

 

「あっ、はい。どうぞ!」

 

 

わたしはぴんと姿勢を正す。

まあ、きけばなにかしらわかるだろう。

 

関わった当事者だったからか、はたまたこの難儀な血のせいか、わたしは目の前の全身黒ずくめ美青年のルーシオが、わたしの足をつかんだ影のあやかしであることを確信していた。

それは本能のようなもので、確たる証拠もなにもない。

そして脳が心地よく受け止めるそのじじつだけではわたしの知的好奇心は満足しない。

 

話すというのであればきこうではないか!

ネコはじっ、とルーシオという青年を睨み上げた。

なかなか説明にはいれません・・・。

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