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003) 3900年

 紀元前一八二八年 クレタ島、初日。


 信じられないけれど、私は今、自分の生まれた時代から三九〇〇年ほどの隔たりを超えた場所にいる。


「私のことは、ソラと呼んでください」


 現地へ着いた私の他、六人の信者に向けて名乗ったのは、私と同じ二十歳くらいに見える男だった。目鼻立ちのハッキリした顔で、中肉中背のバランス良い背格好。少しウェーブのかかった黒い髪を一つにまとめている。


「『T・T・T』からメッセージを託された方はどなたですか?」


 ソラの言う『T・T・T』は旅行会社のこと。


 ただの旅行会社では無い。タイムマシンを開発した旅行会社だ。


「弊社はカルツァ・クライン理論から着想を得てタイムマシンを開発しました。カルツァ・クライン理論は多次元時空において重力と電磁場を統一させる理論です。重力を量子論へ組み込むことで、時空の移動が可能になるのではないか。それが創造の入口でした」


 出発前の案内人が言っていたことだけど、さっぱり意味が分からない。


 他の皆も同様だったようで、突っ込んだ質問の出来る者がいない場での解説は以上となった。


 現地案内人のソラは、私達がやってくるのを紀元前の世界で待っていた。現地に身を置いて、普段から旅行客の観光の足掛かりを作っているらしい。


 亜麻あま布で作られた上着の袖から伸びた腕は、こんがりと日焼けしていて、こちらでの生活の月日を感じさせる。


 無事に過去へ到着したと分かった時、私は腰が抜けてしゃがみ込んでしまった。


 そんな私に、ソラは手を差し伸べて優しく立ち上がらせてくれた。


 目が合った後、お礼も言えたか記憶が無い。信者達の一番後ろへと、隠れるように急いだ私を、ソラはどう思っただろう。


 活発な人からは距離を置くくせが付いている私。ソラのように見た目の良い男性は、特に苦手なのだから仕方ない。顔立ちの勢いは性格にも繋がると思うから。身構える理由としては充分なのだ。


「私です」


 ソラの問い掛けに、波江野はえの卓正たくまささんが前へ進み出て答えた。


 波江野さんは教団の幹部。小柄できびきびと動く。四十代後半だと言っていたから、ここにいる信者の中で一番の年長者になる。


「これを渡すように言われています」


 波江野さんがメモリチップのようなものをソラへ差し出した。


 あれには、私達がここへ来た目的とか個人情報、他に『T・T・T』の業務連絡が入っていると聞いている。タイムマシンで人の往き来は可能になっていても、未来と過去へは、手渡しでしか情報のやり取りができないようだ。


 私達がここへ来た目的。それは……。

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