第9話 はーい、だめですわ!!
「フランお兄様が生まれながらに完璧なのか、努力を重ねているのか、親衛隊の中でも解釈が別れ、時には喧嘩になる部分ですけれど……貴方とわたくしの解釈は一致していますわ!」
両手の拳をぎゅっと握り締め、リリアーヌが熱心に語り始める。こうなったリリアーヌは、フランシーヌでも止められない。
「確かにお兄様は生まれた時から世界の誰よりも、なによりも美しい存在ですわ! ですけど、それ以上に努力を重ねて日々、より『格好いい』お兄様になっていますの! そこが! とっても! とーっても尊いんですわ!!」
学園中に響き渡るのではないかと思うほどの大声で語ったリリアーヌを見て、クロードが頷いた。
明らかに引いている表情をしている。けれど再びフランシーヌを見つめたクロードの瞳は優しかった。
「理想の姿を目指し日々鍛錬を積む姿は、俺も格好いいと思う」
クロードの言葉に、よく分かっていますわね……とリリアーヌは感銘を受けたようだった。
そして、決意を固めた顔で深く頷く。
「クロード殿が、お兄様のよき理解者であること、そしてお兄様の魅力をきちんと理解している方であることは、わたくしが責任を持って親衛隊の皆様にお伝えしますわ」
「あ、ああ……よろしく頼む」
それでいいんだよな? と確認するような視線を向けられ、フランシーヌは頷いた。
どこかで自分が助けに入らなければならないだろうと思っていたのに、あっさりとリリアーヌを納得させるとは。
しかもこの男、それを狙って嘘を言っているようには見えなかったな。
「今後ともよろしくお願いいたしますわ、共にお兄様を愛する者として! ……その、うちの親衛隊は少々賑やかな子が多いですから、そこに関しては前もって謝罪しておきますわ」
そう言って頭を下げたリリアーヌに、分かった、とクロードが答えた。
「俺は賑やかなのは苦手だが……親衛隊がフランシーヌを見たい気持ちを邪魔する権利はない。それに、尋常じゃない熱量で人を応援できるところは、尊敬に値すると思っている」
クロードの言葉に、思わず、え? と口から声がもれてしまった。
まさか、こんな風に言ってもらえるとは思わなかったから。
「どうかしたか、フランシーヌ?」
「……いや、君が親衛隊のことを褒めてくれたから……」
「普通にすごいことだろう。フランシーヌのことをあそこまで愛している彼女達も、そこまで愛されるようなフランシーヌも」
クロードは、リリアーヌ達親衛隊のように熱狂的なフランシーヌ信者ではない。
それなのに、フランシーヌのことだけでなく、彼女達のことまで褒めてくれるなんて。
「……君は、いい奴だな」
「なにがだ?」
しかもクロードは、自分の言葉が持つ威力を分かっていないらしい。
もっとクロードと喋ってみたい。
異性に対してこんな風に思うのは、生まれて初めてだ。
クロード、と話を続けようとした瞬間、リリアーヌが大声で叫んだ。
「はーい、だめですわ!!」
二人の間に割って入った彼女の顔は、あまりにも必死だった。
「クロード殿がいい殿方だとは理解しました。ですが、お兄様といい雰囲気になるなんて、親衛隊隊長としても、妹としても、絶対に許せませんわっ!」
最後まで叫ぶと、リリアーヌは地面にうずくまって泣き始めた。
相変わらず感情表現が豊かな妹である。
「落ち着いてくれ、リリアーヌ」
「お兄様がわたくしのことを大好きだと言いながら抱き締めて頭を撫でてくれたら落ち着きますわ」
泣きながらも、自身の欲望に忠実なところも相変わらずだ。
「大好きだよ、リリアーヌ」
妹の要望に完璧に対応したフランシーヌを見て、クロードが引きつった顔で溜息を吐いたのは、仕方がないことなのかもしれない。
◆
「今朝は助かった」
昼休みになると、クロードを誘って校舎裏のさびれたベンチへ移動した。
相変わらずクロードの食事は、美味しさを度外視したものである。
「いや。あれから、親衛隊達の俺に対する態度も柔らかくなった気がする。俺としても助かった。お互い様だ」
お互い様、なんてはずはないのに、クロードはそう言って頷いた。
「あと、今日の放課後だが、フランシーヌと一緒に訓練はできない」
「……なにかあるのか?」
クロードの訓練に参加するようになって、こんなことを言われたのは初めてだ。
彼から誘われることもないが、拒まれたこともなかったから。
「今日は街に出かけるんだ。鍛冶屋に預けていた剣を受け取るついでに、いろんな武具や訓練器具を見て回ろうと思っている」
放課後ではなく休日に出かける生徒が多いが、だからこそ休日の街はいつも賑わっている。
人込みを避けるために、クロードは今日出かけることにしたのだろう。
「私も一緒に行っていいか?」
「は?」
「武具や訓練器具には私も興味がある。街に出かけても、普段は友人や妹の付き添いでカフェや本屋へ行くだけだからな」
自分の用事で街へ出かけることはあまりないのだ。
だから、クロードが言っているような店は知らない。
「頼む。いいだろう?」
「……構わないが」
悩むような素振りを見せて、クロードは一言だけ追加した。
「さすがに、親衛隊連中には黙っててくれ」




