第8話 クロードへの質問
「お前の親衛隊達が、俺に尋問をしたがっている……と?」
「ああ。彼女達は、私が君と親しくしていることが気になるようでな」
正直に事情を話すと、クロードはなんとも言えない表情になった。
「……具体的にそれは、なにを聞かれるんだ?」
「おそらく、私に関すること……いや、彼女達のことだから、クロード自身のことも根掘り葉掘り聞こうとするだろうな」
こうして話していると、フィリップに親衛隊について怒鳴られたことを思い出す。
親衛隊は皆彼を嫌っていたが、彼も最初の時点で親衛隊を嫌っていた。フランシーヌが褒められるたびに機嫌を悪くし、女らしくない、と数えきれないほど文句を言われたものだ。
「分かった。だが、せめて相手は少数にしてくれ。大人数に囲まれて、あれこれと騒がれるのは好きじゃない」
「……いいのか?」
相談してみたものの、おそらく断られるだろうと思っていた。
その場合はリリアーヌを始めとする親衛隊達に、ちゃんとその旨を伝えようとしていたのに。
「フランシーヌと話すようになってから、学内でもやたらと親衛隊とやらに見られてるんだ。話しかけてはこないが。……だったら、一度ちゃんと話をした方が楽だろう」
「……すまない」
フランシーヌが慌てて頭を下げると、クロードは不思議そうな表情で首を傾げた。
「なんでお前が謝るんだ?」
「彼女達は私の親衛隊で、そのせいで君が困っているから」
「困りはしたが、親衛隊連中は悪いことはなにもしていないぞ」
そう言うと、クロードはフランシーヌを真っ直ぐに見つめた。
「あいつらは本当に、フランシーヌのことが好きなんだな」
クロードの言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。そうなのだ。彼女達は心の底から、フランシーヌのことを慕ってくれている。
そんな彼女達のことをフランシーヌも大好きで、だからこそ、大切にしたいと思っている。
フィリップはこんなこと、一度も言わなかったな。
「フランシーヌ? どうかしたか?」
「いや……ありがとう、クロード。感謝する」
きっと親衛隊の子達も、彼のことを気に入るはずだ。
根拠はないが、フランシーヌはそう確信した。
◆
「はっ、初めまして、わたくしリリアーヌ・フォン・シュヴランでっ、ですわ……」
校舎裏にやってきたリリアーヌは、誰が見ても分かるほど緊張していた。
親衛隊を代表してクロードと話すことになった彼女の手には、分厚い紙の束がある。隊員達を対象に、クロードへの質問事項を募集したのだという。
「クロード・フォン・リファールだ」
ベンチから立ち上がり、クロードが軽く頭を下げる。リリアーヌは淑女らしく優雅に一礼した後、フランシーヌへ視線を向けた。
「大丈夫だ、リリアーヌ。緊張しなくていい」
軽く頭を撫でてやると、リリアーヌは勢いよく胸をおさえた。
「どうしましょうお兄様、どきどきで胸が苦しくなってしまいましたわ……!」
「……それは困ったな」
フランシーヌが悩み始めると、クロードがわざとらしく咳払いをした。さっさと本題に入れ、ということだろう。
なるべく人が少ない時間がいいということで、授業開始前にわざわざクロードを呼び出したのだ。
「も、申し訳ありません、クロード殿。今日は親衛隊を代表して、いくつか質問をさせていただきますわ」
「……ああ」
「まず……クロード殿は、お兄様のことをどう思っていますの!?」
一問目から直接的過ぎる内容である。だがクロードは真剣な表情で頷き、考えながらゆっくりと喋り始めた。
「根性がある奴だ、と思っている。俺の訓練に付き合うんだからな」
ここ最近、フランシーヌは毎日、放課後にクロードの訓練に付き合っている。
とはいえ相変わらず彼と同じメニューをこなすことはできていないし、フランシーヌと違って、クロードは朝や夜もさらに訓練をこなしているらしいのだが。
「そうですわよね、お兄様は努力家ですもの。他には?」
きらきらと瞳を輝かせながら、リリアーヌが身を乗り出す。
「……変わった奴だな、と」
「変わった!?」
「悪い意味じゃないぞ」
慌ててクロードが付け加えると、そうですわよね! とリリアーヌがにっこりと笑った。
「上手く言えないが……フランシーヌにはフランシーヌのこだわりがあるんだろう。きつい腕立て中ですら、女には優雅に手を振ろうとするんだからな」
「そうですのよ! お兄様には、一秒たりとも格好良くない時間なんてありませんもの!」
分かっていらっしゃいますわね! と大興奮したリリアーヌを見て、クロードが頷く。
「ああ。常にその状態を保つには、かなりの鍛錬が必要だったんだろう。俺も常に隙がない状態を保てるようになるために、かなり時間がかかったからな」
「……クロード殿。貴方、お兄様が『格好いい姿』を頑張って維持している、と思っていますの?」
リリアーヌの問いに、クロードは焦ったようだった。忙しなく視線を動かし、助けを求めるようにフランシーヌを見つめる。
なんとかしてくれ! と顔に書いてあった。だが、その必要はない。
リリアーヌはフランシーヌの親衛隊長であるが、それ以前に実の妹なのだ。
「貴方……本当によくお兄様を見ていますわね!?」
少々悔しいことに、フランシーヌが日々『格好良さ』を追求していることを、リリアーヌは誰よりも知っているのである。




