第3話 共通の問題
「あんな場面を見られてしまったからな。君には本音で話させてもらう」
「……ああ」
「君も知っての通り、私は格好いい。学園内で巨大ファンクラブができてしまうくらいにな。だが私にも足りないものがある。そのことに、私は君を見ていて改めて気づいた」
生まれた時から私は顔がよかった。
だが、それだけじゃない。『格好いい』と言われるためにひたすら美貌を磨き続け、優雅な所作を研究し、たいていのことはそつなくこなせるように頑張ってきた。
しかしまだ、私にも足りないことがあったのだ……!
「それは強さだ。単純な話だが、強い者は格好いい。私も剣術の稽古は受けてきたが……実践的な訓練が足りなかったのだと気づいた」
通常、貴族の令嬢は剣術の稽古など受けない。
父親に頼み込んで雇った剣術の教師は美しい型や剣さばきを教えてくれたが、実戦的なものではなかった。
それに考えてみれば、いつも剣を持っているわけじゃない。
丸腰でも、ああやって他人と対峙しなければならない時があるだろう。そんな時、なにもできないなんてダサすぎる。
「君は強いんだろう? 謙遜は不要だぞ」
クロードは困ったような表情を浮かべつつも、ゆっくりと口を開いてくれた。
「……俺は男爵家の次男で、将来は軍人になる予定だ。だから昔から、身体だけは鍛えてきた」
「つまりひたすら、実戦向きの訓練を重ねてきた、ということだろう?」
ずいっ、とフランシーヌが身を乗り出せば、クロードは一歩後ろへ下がった。
気まずそうな顔は、頷いているのと同じだ。
「私も強くなりたい。だから頼む。私を弟子にしてくれ!」
学園にも剣術や武術を担当している教師はいるが、女子であるフランシーヌは彼らの指導対象ではない。
そしてフランシーヌには、男友達も存在しない。女子には好かれるが、男子には遠巻きにされてきたのがフランシーヌの人生である。
「君しかいないんだ。頼む!」
勢いよく頭を下げる。しかし、いつまで経ってもクロードは頷かない。
顔を上げたフランシーヌとクロードが見つめ合ったまま、数十秒が経過した。
「……悪いが、無理だ」
「どうしてだい!?」
「誰かに教えるような柄じゃない。それに、女は苦手だ」
そこをなんとか、とフランシーヌがもう一度頼むより先に、クロードは走り去ってしまった。
重そうな身体の持ち主なのに、どうやら彼は足まで速いようだ。驚くべき身体能力である。
「やっぱり、彼以外に適任はいないだろうな」
頷いて、フランシーヌは頭の中で作戦を立て始めた。どうすれば、彼に弟子にしてもらえるのか。
フランシーヌの辞書に諦める、なんて単語は存在しない。欲しい物は手に入れる。それが『格好いい』生き方だ。
「待っていろクロード。絶対に君を私の師匠にしてやるからな……!」
◆
「お兄様! クロード殿をお連れしましたわ!」
翌日の昼休み。優雅にフランシーヌが食事を楽しんでいるところに、前後左右を女子生徒に囲まれたクロードがやってきた。
げっそりとした顔のクロードが、フランシーヌを見て溜息を吐く。
「……どういうつもりだ?」
「君と話がしたくてな。きっと君は、彼女達からは逃げられないだろうと思って」
目を合わせ、優雅な微笑みを浮かべる。周囲にいる女子全員が崩れ落ちていっても、クロードは立ったままだ。
クロードは昨日、女は苦手だ、と言っていた。
にも関わらずクロードは、フィリップに殴られそうになっていたフランシーヌを助けてくれた。
要するにクロードは、女が苦手だが、だからこそ紳士的な男でもあるのだろう。
だとすれば、大量に押し寄せる令嬢達の圧に屈するはずだ、と判断した。
「みんな、彼を迎えにいってくれてありがとう。助かったよ」
「お兄様のためなら、わたくし達親衛隊一同、なんだっていたしますわ!」
そうですわ! と令嬢達が口々に叫ぶ。ありがたいことに彼女達は、フランシーヌに心酔しきってくれているのだ。
フランシーヌがクロードを連れてきてくれと頼んだだけで、学園中を探し回り、こうして彼を連れてきてくれた。
「さて、と。私は君と話したいわけだが……どうする? 場所を移すか?」
クロードは周囲を見回し、諦めたように頷いた。
女が苦手なクロードは、大量の令嬢達に囲まれながら話すのは嫌らしい。
◆
「どういうつもりなんだ?」
図書館裏のベンチに移動すると、クロードはようやく口を開いた。フランシーヌを見つめる顔は、あからさまに迷惑そうである。
「昨日言った通りだ。私を弟子にしてほしい」
「……俺も昨日言った通り、断る」
「それは困る。私は諦めるつもりはないからな。これはお互い困ったな……」
「……」
フランシーヌは弟子入りしたいが、クロードはそれを断りたい。
両者の望みが反するが故に生じた共通の問題であるのだが、どうやらクロードはそんな風には思わないらしい。
だが、私は迷惑そうな顔をされたくらいで諦めたりはしないぞ。
「そこで、だ。私に提案がある」
「なんだ?」
「一日、私を弟子にしてみないか。一度試してみて、今後のことを考えるのはどうだ?」
「……断ったら?」
「これから毎日、君は令嬢達に囲まれることになるだろうな」
クロードは深い溜息を吐いた。
どうやらクロードも、この提案に納得してくれたらしい。




