表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男装令嬢は己の格好良さを極めたい  作者: 八星 こはく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/26

第25話 俺が出会った人間の中で

 動くたびに、全身から汗が噴き出てくるのを感じる。だが、それはお互い様だ。フランシーヌを睨みつけているフィリップの顔にも、汗が大量に浮かんでいた。

 運動量を比較すれば、フランシーヌが圧倒的に上だろう。だが、クロードとの特訓のかげで体力は前よりも格段に増えた。


 だから、なんとかまだいける。


「いつまで逃げてばかりいるつもりだ?」

「なんだ? 疲れたのかい?」


 あえて、この瞬間に煽るような言葉を返す。予想通り目を吊り上げたフィリップを見て、余裕そうに見える笑みを浮かべた。

 正直、フランシーヌも限界は近い。こうして微笑みを浮かべられるのは、もはや意地である。


 だが、私は意地を貫き通すためにここに立っているんだ。


 軽く息を吸って、フィリップを見つめる。赤くなった顔と止まらない汗が、彼の余裕のなさを物語っていた。


『相手の余裕がなくなるまで待て。体力が尽きそうになれば、あいつは必ず仕掛けてくる。その瞬間、最大の隙が生じるはずだ』


 クロードの言葉を思い出す。

 あと少し、あと少しだ。


 鉛のように重たい足で軽やかに飛び、鋭い突きを放ってすぐに引く。地面に足の裏をつけるたびに、鈍い痛みが全身に広がる。

 しかしそんなことは、絶対に顔には出さない。


「くそっ……!」


 焦ったように、フィリップが足を踏み出した。

 今度は逃げない。そして、フィリップが大きく剣を振り上げる。


 ―――今だ!


 全身の力を振り絞り、飛び跳ねるようにフィリップの背後へ回る。慌てて彼が振り向いた瞬間、狙うのはただ一ヶ所。彼が持つ剣の刀身だ。

 ぶつけるのではなく、渾身の力を込めて刀身を突く。

 甲高い金属音が響いて、彼の剣が宙を舞った。


「やめっ!」


 審判を務める学園長が叫んだのと、フィリップが拳を振り上げたのは同時だった。

 令嬢達が悲鳴を上げる。目が合った瞬間、フィリップは唇の端を吊り上げて笑った。


 なにを考えているんだ、こいつは……!?


 大勢の前でフランシーヌを殴れば、フィリップは間違いなく処罰されるだろう。この場には学園長だっているのだから。


 正気か!?


 慌てて逃げようとしても、上手く動けない。恐怖のせいではなく、疲れきった身体が限界を迎えたからだった。


 ぎゅ、と思わず目を閉じる。しかし、フィリップの拳がフランシーヌに届くことはなかった。

 代わりにフランシーヌの耳に届いたのは、殴り飛ばされたフィリップが派手に地面に転がる音だった。


 目を開けると、目の前にクロードがいた。確認しなくても分かる。たった今、クロードがフィリップをぶん殴ったのだ。

 殴り飛ばされたフィリップは意識を失っているらしい。観客の一人が、慌てて医者を呼びにいった。


「……クロード」

「勝負は完全に終わっていた。勝ったのはお前だ、フランシーヌ」


 だろう? と煽るようにクロードが周囲へ視線を向ける。人前で喋るのは、得意ではないはずなのに。

 最初に拍手をしたのはリリアーヌだった。そしてだんだん、その拍手が全体に広がっていく。


「お兄様ー! 信じていましたわ!」

「今日も世界一格好良かったですわー!」

「おめでとうございますわ、お兄様!」


 令嬢達だけではない。いつの間にか、まばらではあるものの、拍手をする令息達も現れ始めた。


「よくやった、フランシーヌ」


 微笑むと、クロードはフランシーヌに目線を合わせるために屈んだ。


「動けないだろう。寮の前まで運ぶぞ」

「……クロード」


 彼が、心の底からフランシーヌのことを心配してくれているのは分かる。それにクロードの言う通り、フランシーヌの身体は限界だ。

 正直なところ、こうして立っているだけでも辛い。


 ……だが。


「大丈夫だ、クロード。自分で歩ける」


 優雅な笑みを浮かべて言うと、クロードは目を見開いた。

 そして、ぽん、とフランシーヌの肩に手を置く。


「……格好いいな、フランシーヌは」

「だろう?」

「ああ。俺が出会った人間の中で、一番な」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ