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男装令嬢は己の格好良さを極めたい  作者: 八星 こはく


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第24話 蝶のように

 学園のグラウンドには、全校生徒が集まったのかと思うほどの人だかりができていた。

 グラウンドの中心に描かれた円の中央に審判役として立っているのが、聖ブリリア学園の学園長である。

 生徒間で行う決闘は全て、学園長が立ち会うルールになっているのだ。

 フランシーヌとフィリップが決闘をするという話を聞いた際、学園長は可哀想なことに白目をむいて倒れかけた、という。


 深呼吸をし、フランシーヌは円の中へ足を踏み入れた。その瞬間、フランお兄様ー! と黄色い歓声がグラウンドに響き渡る。

 一方でフィリップを表立って応援する生徒は極めて少ないものの、無言で見守っている男子生徒は多い。


 彼らからすれば、自分の想い人や婚約者がフランシーヌの親衛隊に属していることが面白くないのだろう。

 だからきっと、彼らはフランシーヌの敗北を望んでいるのだ。女であるフランシーヌがフィリップに負ければ、所詮ただの女なのだと、親衛隊達に理解させられるとでも思っているのだろう。


 そんなことくらいで、彼女達の気持ちが変わらないことを知らないのだ。


「フランシーヌ」


 クロードに名前を呼ばれ、振り向く。彼は真っ直ぐな瞳でフランシーヌを見つめていた。


「俺はお前を応援している。必ず勝て、フランシーヌ」


 周りの男子生徒なんて気にせずに、クロードだけがそう口にしてくれた。

 その事実が嬉しくて、つい顔が緩みそうになる。


 だがだめだ。笑うのは、勝利の後と決まっている。


「ああ」


 頷いて、フィリップに向き直る。彼がクロードへ向ける視線は鋭かったが、クロードが気にしている様子は全くない。

 それがいっそう、フィリップを腹立たせているようだった。


「惨めに負けるお前を見るのが楽しみだな」


 剣を構え、フィリップがにやにやと笑う。

 クロードのような剣の達人ではないが、フィリップも貴族の息子である。幼い頃から、人並みには剣を習ってきたはずだ。

 だからこそ、女なんかには負けないと思っているのだろう。


「そうか。夢で見られたらいいな。現実では一生、私に勝つことなどないだろうから」


 煽るように言い返し、剣を構える。

 そして、脳内で必死にクロードの教えを思い返す。


 単純な力勝負に持ち込まれたら危ない。剣の押し合いになったら逃げろ。軽い攻撃を何度も加えて相手の体力を削れ。体格差を忘れるな。


 大事なことを、クロードは何度も何度も教えてくれた。

 圧倒的な体格差のあるクロードとの実践訓練では、何度も悔しい思いをした。

 どうあがいてもクロードのようにはなれないのだと、戦うたびに実感させられたから。


 だが、クロードは言ってくれたのだ。


『フランシーヌには、フランシーヌにしかない戦い方がある』


 と。

 そして彼は、照れながらも言ってくれた。


『蝶のように舞って戦え。お前には、優雅な戦い方が似合うんだから』


 その言葉は、フランシーヌの胸の奥に強く刻まれている。クロードは現実を教えるだけではなく、フランシーヌの理想にも寄り添ってくれたのだ。


「改めて注意事項を確認します。私が止めに入ったらすぐに決闘をやめること。相手の身体に直接剣を向けないこと。どちらかが剣を地面に落としたら、その時点で動くのをやめること」


 厳かな顔で、学園長が注意事項を口にする。

 決闘についてのルールは、暗唱できるほど何度も確認した。戦いにおいて、ルールを武器にすることは大切だとレベッカが口を酸っぱくして教えてくれたから。


 ルールのない戦いなら、フィリップに勝つことは難しい。だが、この決闘は違う。

 命を落とす心配はないし、相手が剣を一度でも落とせば、フランシーヌの勝利が確定する。


「それでは―――」


 学園長が大きく腕を振り上げ、始め! という言葉と共に腕を下ろした。

 その瞬間、フィリップとは反対方向へ走り出す。


「はっ!?」


 剣を使った決闘だ。当然、真正面からぶつかってくると思っていたのだろう。

 驚いたフィリップに一瞬の隙が生じる。通常よりも長い剣を、離れた場所から彼に突き出す。


 自分より力の強い相手とはなるべく距離を置いて戦った方がいい。


 鍛冶屋の店主が、そう言って長い刀身をすすめてくれた。

 そして多額の金と引き換えに、長くても軽い剣をフランシーヌのために作ってくれた。


 撃ち合いが始まれば、すぐに後ろへ下がって身を引く。長時間の撃ち合いはフランシーヌにとって好ましくない。

 軽やかに、舞うように戦う。それがフランシーヌの戦闘スタイルなのだ。


「……くっ! 逃げるな、卑怯者が……!」


 煽りには応じない。鋭い一撃を放ち、反撃される前に距離をとる。ひたすら、その繰り返しだ。

 刀身の長さは圧倒的にフランシーヌが上だ。近づきすぎなければ、攻勢を保っていられる。


「おい……っ!」


 大きく剣を振りかぶったフィリップが一歩、足を踏み込んできた。それを左に避けてかわし、距離をとりながら剣先で半円を描く。


 一瞬だ。一瞬でいい。

 隙ができた瞬間、その剣を地面に落としてやる。

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