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男装令嬢は己の格好良さを極めたい  作者: 八星 こはく


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第23話 親衛隊からのエール

 とうとう、フィリップとの決闘を明日に控えた夜。

 そろそろ眠ろうかとベッドに横たわった瞬間に、控えめなノックの音がした。

 ベッドを下り、ゆっくりと扉を開ける。廊下にはリリアーヌを筆頭に、親衛隊のみんなが立っていた。


「なにかあったのかい?」


 令嬢達はフランシーヌと同じ女子寮に住んでいるが、こうしてフランシーヌの部屋を訪れることは少ない。

 フランシーヌに迷惑をかけないように、という彼女達の方針のおかげだ。

 だからこうしてみんながやってきたということは、なにかがあったのだろう。


「お兄様。これを」


 先頭にいたリリアーヌが、大きなノートを渡してきた。かなり厚みのあるノートはもはや辞書のようだ。

 開いてみると、そこにはびっしりと文字が書かれていた。


「わたくし達一人ひとりが、お兄様のために書いたメッセージですわ。文字の読み書きができない隊員の分は、他の隊員が代筆をしましたの」


 ぺらぺらとページをめくると、見知った名前がいくつも出てきた。

 聖ブリリア学園に通う親衛隊の皆はもちろん、卒業生や、街で暮らす平民の娘の名前もある。


「……みんな」


 親衛隊のみんなは、フランシーヌがフィリップと決闘することに反対していた。

 その裏で、まさかこんな物を用意してくれていたとは。


 ノートを最後まで見ると、最後のページにはレベッカの名前があった。

 親衛隊のメンバーではない彼女も、この企画には参加してくれたらしい。

 レベッカは誰よりも細かい字で、フランシーヌへの応援を綴ってくれていた。


「今でもわたくし達は、明日の決闘を棄権すべきだと思ってはいますわ。でも、それと同時に……わたくし達は、お兄様に勇気をもらいましたの」


 リリアーヌが目配せをすると、集団の中から、三つ編みの令嬢が歩み出てきた。


「お兄様。私は昔から、絵を描くことが好きだったんです」

「知っているよ。前に、私の肖像画を描いてくれたよね」


 彼女の絵は本当に巧みで、今でも彼女が贈ってくれた絵画は部屋にきちんと飾ってある。

 先程受け取ったばかりのノートでも、彼女のページにはフランシーヌの似顔絵が添えられていた。


「あ、ありがとうございますお兄様……!」


 興奮して早口になった後、彼女は気を取り直すように咳払いした。


「私は絵を描くのが好きなんですが……男性に、馬鹿にされたことがあります。女が絵を描いてどうするんだ、女に芸術が分かるわけないのに、と」


 貴族の令嬢が絵画を嗜むことも、自ら絵を描くことも珍しくはない。

 しかし芸術家と呼ばれる人間は大半が男なのも事実だ。


「前まで私はそう言われても、言い返すことができませんでした。俯くだけで……本当は小さい頃からずっと、画家になることに憧れていましたのに」


 大きく深呼吸をすると、彼女はにっこりと笑った。


「でも、お兄様に出会ってから、私は変われたんです。馬鹿にされた時は言い返せるようになりましたし、この前だって、大きな絵画のコンテストに応募もできました」


 彼女が言い終えると、私も! わたくしもですわ! と令嬢達が口々に話し始めてくれた。

 フランシーヌのおかげで、自分も勇気をもらえたのだと。


 私はただ、自分の『格好良くなりたい』という理想を貫いてきただけだ。

 それがただの我儘なのではないかと悩むこともあった。

 だが……それだけではなかったんだな。


「みんな。本当にありがとう。これは一生、私の宝物にする」


 彼女達の気持ちがこもったこのノートは、どんな宝石よりも尊い物だ。


「それから……明日、私は必ず勝つ。だから安心して応援していてほしい」


 私はただ、自分の理想のためだけに『格好良くなりたい』と思い続けてきた。

 その気持ちが変わったわけじゃない。

 けれど改めて、みんなのために頑張りたいと思えたのだ。

 私を見て私以外の誰かが自分のために一歩踏み出せるようになれるのなら、私が女に生まれたことに意味があったのだと思える。

 男に生まれたかった。そう思うのはもうやめたい。


「私が勝ったら私達だけで―――女達だけで、盛大に祝おう。寮でパーティーを開くんだ。男のいない、私達だけの楽しい宴を」


 フランシーヌの言葉に、令嬢達は瞳を輝かせた。

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