第22話 格好いいだけではなく
「フランシーヌ」
昼休みになると、クロードに呼び出された。
昼休みを共に過ごすのは珍しいことではないが、こうしてクロードから呼び出されるのは初めてだ。
「どうかしたか?」
「渡したい物があってな。ここだとうるさいから、いつものところにきてくれ」
すっかり二人で過ごす定番の場所になった図書館裏のベンチに移動すると、クロードは右手で持っていた木箱を差し出してきた。
受け取って開けてみると、中には一本の剣が入っている。
派手な飾りは一切ない。それでも、陽光を浴びて煌めく刀身は、この剣が通常のそれとは格が違うことを示していた。
「これは……」
「ああ。前に、鍛冶屋で注文した剣だ。完成したと聞いたから、俺が代わりに受け取りにいった。今は外出する余裕なんてないだろう?」
「……ああ。ありがとう」
クロードの言う通りだ。フィリップとの決闘を控えている今、外出する時間的余裕なんてない。
それでも自分で受け取りにいって感謝を伝えたかったな、と思っていると、クロードが不意に微笑んだ。
「決闘の後、改めて礼を言いに行けばいい。勝利報告と共にな」
「クロード……」
「絶対に勝て、フランシーヌ」
レベッカもリリアーヌも親衛隊達も、勝てなくてもいいのだと何度も言ってくれた。
絶対に勝て、なんて言ってきたのは、クロードが初めてだ。
「ああ。必ず勝つ。君がここまで稽古をつけてくれたんだ。負けるはずがないだろう?」
余裕たっぷりに見える笑みを浮かべ、フランシーヌは剣に手を伸ばした。
特注品なだけあって、手に馴染む。一般的な真剣より軽いところが、フランシーヌにとってはありがたい。
「……いい剣だ」
かなり高値ではあったけれど、それだけの価値がある。
職人は間違いなく、普段通りの仕事をしてくれた。貴族の令嬢が使う剣だからといって、手抜きなんてしていない。
「なあ、クロード。もし私が男だったら、どう思う?」
「なにがだ?」
「こうやって、仲良くなっていたと思うか?」
少しだけ考え込むような表情になった後、クロードはいつもと変わらない声で答えた。
「そうだろうな。まあ、もっと早くに出会っていたかもしれないが、それくらいの差だろう」
フランシーヌがなにも答えないでいると、クロードが慌てたように顔を覗き込んできた。
「悪い。気に障る発言だったか?」
「いや、そうじゃない。嬉しかっただけだ」
フランシーヌの返答にはあまりピンときていない様子で、クロードは不思議そうに首を傾げた。
仮に私が男だったとしても、クロードのことを格好いいと思っただろうな。
「私も、君が女だったとしても、変わらず親しくなったと思う」
「……それは、あまりしたくない想像だな」
苦い顔をしたクロードは、自分が女になった時のことを想像したのだろう。
確かに筋骨隆々のクロードが女だったら、という想像は難しい。
「お前は女でも男でも綺麗だろうが、俺は女なら、結婚相手なんて一生見つからなかっただろうな」
「そうかい? だったらその時は、私が君を妻にするよ」
口にした瞬間、今の発言はまずかったのではないか、と自分で気づいた。
そう気づいたのは、クロードの日に焼けた頬が、わずかに赤く染まっていたからである。
「……お前は男相手でも、そんなことを言うんだな」
「いや……」
頭に思い浮かんだ言葉をそのまま口にすれば、さらに誤解を招きそうな発言になってしまうことは間違いない。
けれど紛れもない本音で、だからこそ、他になにを言っていいかが分からなかった。
「たぶんだが、君以外には言わない」
フランシーヌは元々、男という存在があまり好きではなかった。
何の努力をせずとも、生まれながらにしてフランシーヌの欲しいものを持っている男のことが。
だが、クロードは違う。日々努力を重ね、理想の姿を目指すクロードは、他の男達とは全く違って見えるのだ。
「……これは俺の勝手な考えだから、言わないでおこうと思っていたが」
言いにくそうに口を開いたクロードの赤い瞳が、真っ直ぐにフランシーヌを射抜いた。
「俺は、着たくもないドレスを着て、あの男と踊るフランシーヌを見たくない。だから、絶対に勝ってくれ」
顔を真っ赤にしたクロードが、両手で顔を覆った。
「驚いた」
「……なにがだ?」
「君は格好いいだけではなく、可愛いところもあるんだな」
はあ、と深い溜息を吐いたクロードは、耳まで真っ赤に染まっていた。




