第21話 私の親友
「踏み込みが甘い。逃げ腰でどうする。動きが悪いぞ。そんなもの、素手でも対処できる!」
徹底的に、という宣言の通り、クロードの稽古は厳しい。
普段の『一緒にやる』だけの特訓とは別物だ。
「立て! みっともなく地面に座り込んだ姿をみんなに見せるつもりか?」
クロードに言われ、なんとか立ち上がる。何度も彼と剣を交わしたせいで既に腕はしびれているし、疲労で震える足では立っているだけで精一杯だった。
それでも、ここでやめるわけにはいかない。
「情けない姿は……絶対に見せられない」
フィリップと決闘するという話は、あっという間に学園中に広まった。おそらくフィリップが広めているのだ。
大勢の前でフランシーヌに勝利し、フランシーヌを『格好いいお兄様』と崇める令嬢達の目を覚ましてやる、と豪語していたのだとリリアーヌから聞いた。
決闘の話を聞いて、リリアーヌは泣いていたな。
泣いたところを見たことがないレベッカだって、涙目でやめるべきだと何度も言ってきた。
親衛隊のみんなだってそうだ。
心の底からフランシーヌが傷つくことを心配してくれていた。今からでもなんとかして棄権すべきだ、手伝うから、と何度も伝えてくれた。
でも、だからこそ、逃げたくない。
女だからフィリップには勝てないのだと認めるわけにはいかない。
「クロード。もう一度、基本から教えてくれ」
「ああ」
格好いい『フランお兄様』は、可愛い女の子に勝利を見せる必要があるのだ。
◆
「夕飯後、体力増強のために伝えてあるトレーニングをすること。剣の素振りも忘れるな」
クロードに直接訓練してもらえるのは夕飯前までだが、夕飯後にこなすべきトレーニングメニューもしっかりと言い渡されている。
連日筋肉痛だが、それも全てあの男に勝利するためだ。
「分かった。今日もありがとう」
手を振って、女子寮へ向かう。手足が鉛のように重く、今すぐ地面に寝そべって眠ってしまいたくなる。
これほどまでに自分を追い込んで訓練をするのは初めてだ。
もし私が男に生まれていたら、こんな思いをすることもなかったんだろうな。
男に生まれていたら、当たり前のように幼い頃から剣術の稽古を受け、当たり前のように次期当主として育てられ、当たり前のように男の制服を着て学園に通えたはずだ。
考えても仕方がないことだが、つい、考えてしまう。
女子寮に戻ると、不安そうな顔をしたレベッカが待っていた。
「フラシーヌ。貴女、本当に大丈夫なの? ぼろぼろじゃない」
「ちょっと疲れているだけだよ」
「やっぱり、今からでも中止にすべきよ。そもそも、決闘の話を受けたあの男が非常識なんだわ。女に手を上げるなんて、最低最悪の男よ」
レベッカは元からフィリップを嫌っていたが、最近は口を開くたびにあの男の悪口を言っている気がする。
「ああ。あいつは最悪の男だ」
女であるフランシーヌになら勝てるという判断で決闘に応じ、なおかつ、嫌がるフランシーヌに『ドレスを着せる』という勝利条件をつけてくる男だ。
「だから私は負けない。最悪な男に負けるなんて、格好悪いだろう?」
レベッカは困ったように溜息を吐いた。
それから、仕方ないわね、とフランシーヌの手に置く。
「こうなった貴女は頑固だから、全力で応援するわ。それから、勝っても負けても、あの男の悪評ができる限り広まるように動くつもり」
レベッカは頭がいい。きっとフランシーヌが気づけないような部分で、たくさん手を回してくれているのだろう。
「でも、覚えておいて、私が応援するのは、貴女が格好いいフランシーヌお兄様だからじゃないわ。貴女が、私の親友のフランシーヌだからよ」
レベッカは珍しく照れたような表情になると、背伸びをしてフランシーヌの耳元に口を寄せた。
「でも、私は知ってるの。私の親友が、世界で一番格好いいってこと」
すぐに背を向けられてしまったから、レベッカの表情は見えなかった。
「レベッカ!」
「なに?」
「君のためにも、絶対に勝つ。だから、信じていてくれ!」
はあ、と溜息を吐いてから、レベッカがゆっくりと振り向く。
「だから、勝てなくたって貴女は格好いいのよ、フランシーヌ」
そう言って笑ったレベッカは、思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。




