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男装令嬢は己の格好良さを極めたい  作者: 八星 こはく


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第20話 意地を張ってなにが悪い

「……はあ?」

「そう考えたら、君の行動に多少は納得がいく」

「お前……っ!」


 どれだけ互いに嫌い合っていたとしても、大々的に揉めていいことは一つもない。それなのにこれほど幼稚な行為に及ぶなど、頭が悪いとしか言いようがない。

 さすがにフィリップも、それが分からない男ではなかったはずだ。

 だからこそ婚約破棄も人前ではなく、フランシーヌを呼び出して宣言したのだろう。


 だが実際、この男はくだらない嫌がらせをしてきた。

 短期間のうちに、前よりもさらに馬鹿になったのか?


 最近は会話すらしていなかったから、フィリップの変化に心当たりはない。

 なにがきっかけでこの男は今さら私に矛先を向けているのだろうか。

 ……まさか。


 フランシーヌの頭の中に、一つの考えがよぎった。

 今までに想像したことすらなかったが、ある意味、納得はいく。


「フィリップ」

「なんだよ」

「もしかして君は、私が好きなのか?」


 フランシーヌと同様、フィリップもフランシーヌを嫌っているものとばかり思っていた。

 けれど、そうじゃなかったのかもしれない。

 わざわざ恋人を見せつけてきたのも、目障りな態度をとってきたのも、フランシーヌの気を引くためだったのかもしれない。


「はあっ!? お前、いい加減に―――!」


 反射的に振り下ろされそうになったフィリップの右手首を素早く掴む。

 思いっきり力を込めると、フィリップはみっともない悲鳴を上げた。


「ぐぇっ……!」


 苦悶の表情を浮かべるフィリップを見て、フランシーヌは確信した。


 クロードとの訓練のおかげで、力が強くなっているんだな……!


 それだけじゃない。殴られるかもしれないと思った時、とっさに身体が動いた。クロードが簡単な護身術を教えてくれたおかげだろう。


 呼吸を整えて、改めてフィリップを見つめる。

 仮にフィリップがフランシーヌに好意を抱いていたとしても、当然その気持ちに答えるつもりはない。

 くだらない嫌がらせのせいで親衛隊達を傷つけたことを許すつもりもない。


「フィリップ」


 私にとってもう、この男はただの他人だ。

 だからもう、二度と関わりたくない。


「決闘しよう。私が勝ったら、二度と私に関わるな」

「……は?」

「聖ブリリア学園ルールに従って、君に決闘を申し込んでいるんだ」


 聖ブリリア学園には、決闘に関するいくつかのルールがある。

 大前提として、決闘は互いに合意した生徒同士でのみ行われ、教師を通じて学園に申請することで開催が可能となる。

 武器の使用は可能だが、互いに深い怪我を負わせてはいけない。どちらかが武器を落とすか、降参だと叫べばそこで勝負は終わる。

 そして、決闘の勝敗に賭けるものは自由だ。


「本気で言ってるのか? 女のお前が、俺に決闘を?」

「別に、男女で決闘してはならんというルールはあるまい」


 とはいえ、前例がないことは確かだろう。そもそも決闘自体、フランシーヌが入学してからは一度も開催されていないはずだ。


「それとも、史上初の、女に決闘で負けた男になることが怖いか?」


 あえて挑発する。フィリップは盛大に舌打ちをしてフランシーヌを睨みつけた。


「やってやる。その代わり俺が勝ったら、そうだな……今度のパーティーに、ドレス姿で俺と参加しろ。いいな?」


 フランシーヌの自尊心を傷つけてやろうと企んでいるのか、本当にフランシーヌのことを好いているのかは分からない。

 どうでもいいし、知りたくもないことだ。


「いいだろう。私が負けるなんてことは、億が一にもあり得ないがな」


 クロードと共に訓練をするようになって、前より体力も力もついた。

 むろんクロードには遠く及ばないが、この男に負けるわけにはいかない。





「フィリップと決闘することになった? なにを考えてるんだ!?」


 事の顛末をクロードに話すと、彼は顔を真っ青にしてフランシーヌの肩を掴んだ。

 その痛みに思わず顔を顰めると、悪い、とクロードが慌てて頭を下げる。


「いくらあいつが軟弱でくだらない男でも、あいつは男だぞ!?」

「……分かっている」

「だったら……」

「分かっているから、戦うんだろう」


 父親に知られれば間違いなく止められるだろう。馬鹿な真似をするな、と叱られることも理解している。

 けれど今さら、引くわけにはいかない。


「女の私が、あいつに勝つことに意味があるんだ」


 意地を張っている、と言われればそれまでだ。

 だが、意地を張ってなにが悪い。


「クロード。決闘までの間、私に徹底的に剣術を教えてくれ。私は絶対に、あの男に勝ちたい」

「フランシーヌ……」


 決意を込めて、クロードを真っ直ぐ見つめる。

 クロードはゆっくりと溜息を吐いた後、迷いながらも頷いてくれた。


「分かった。徹底的に、俺が剣術の稽古をつけてやる」

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