第17話 いざ、パーティーへ!
フランシーヌが馬車を下りると、割れるほどの歓声が周囲を包んだ。
彼女がくるまで待機していた親衛隊の隊員達が勢いよく押しかけてくる。それでもフランシーヌの髪や服を乱さないよう距離を保っていることが、彼女達が淑女であることを示していた。
今日のフランシーヌは、青を基調としたタキシードに、フリルが袖や襟にあしらわれた青いブラウスという派手な出で立ちである。
自身の身体に合わせて作らせた特注品で、彼女のあまりにも長い足を強調していた。
「おっ、お美しすぎますわ!」
「わたくし達、こんなに美しいものを見てもいいのかしら!?」
「神様はわたくし達にあまりにも優しすぎますわ……これは寄付ですわ……」
と、相変わらずの騒ぎっぷりをみせる彼女達の背後には、婚約者をエスコートするために着飾った令息達が立っている。
彼らも十分に気合を入れてきたのだろうが、彼女達の目にはフランシーヌしか映っていない。
申し訳ないとは思うが……仕方あるまい。
もしフランシーヌが正真正銘の男であれば、ここまでの騒ぎにはならないだろう。婚約者がいる身で他の男をこれほど慕うなど、あってはならないことである。
だがフランシーヌは女なのだ。だとすれば、どれだけ騒ぎまくっても全く問題はない、というのが婚約者を持つ隊員の総意だ。
「ありがとう、褒めてくれて。君達も、今日は一段と可愛いね」
フランシーヌが微笑みを浮かべて令嬢達を褒めれば、ぎゃあっ! と悲鳴に近い歓声が上がった。
令息達はもはや諦めた表情で、自分の婚約者が落ち着きを取り戻すのを待っている。
しかしそんな中で一人の男だけが、にやにやと笑みを浮かべながらフランシーヌを見つめていた。
フィリップである。
パーティー開始時刻になれば、令嬢達はさすがに婚約者と共に会場へ入る。そうすればエスコート役のいないフランシーヌが一人寂しく入場することになる―――と、彼は思っているに違いない。
あの男がどんな顔をするか、見物だな。
フランシーヌが内心で勝利の笑みを浮かべたところで、人混みをかき分けて一人の男がやってきた。
令嬢達に混ざらなくても目立つ長身の男―――クロードである。
「悪い。待ったか?」
真っ赤なロングコートを羽織った正装姿のクロードは、いつもとはずいぶんと雰囲気が違う。
彼の耳には、普段なら絶対につけないであろう派手な耳飾りまでついていた。
「……見違えた。君は着飾ると、そんな風になるのだな」
「似合っていないのは分かっている。笑わないでくれ。エスコートする相手が見つかったと言ったら、家族がやたらとはりきったんだ」
「笑うわけがないだろう? 似合っているし、いつもと同様魅力的だぞ」
からかうように口にした言葉は、ほとんど本心だ。派手で高価な服を着ただけの貧相な身体つきをした男達の中で、クロードの逞しさは一際輝いている。
「……フランシーヌに言われてもな……」
「私が別格なだけだよ」
微笑んで、フランシーヌはクロードへ手を差し出した。
「さあ、私をエスコートしてくれ、クロード」
フランシーヌがそう言った瞬間、ぎゃああっ!? と悲鳴とも歓声ともつかぬ叫び声が上がった。
レベッカとリリアーヌ以外には、エスコートを彼に任せたことは伝えていないのだ。
「どっ、どういうことですの!?」
「いや見た目的にはかなりありというか美しくバランスのいい組み合わせではありますけれど……えっ、いや、でも!」
「だけど、元婚約者なんかよりずっとお似合いですわ!」
誰かがそう叫んだ瞬間、フランシーヌはついフィリップへ視線を向けてしまった。
顔を真っ赤にしたフィリップが、恐ろしい形相でフランシーヌを睨みつけている。
「フランシーヌ? どうかしたか?」
「いや、なんでもない。行こう、クロード」
クロードと手を重ねた瞬間、再び令嬢達が騒ぎ出す。後でちゃんとみんなとも踊るから、と手を振れば、ようやく彼女達は落ち着いてくれた。
「行くぞ」
「ああ」
手を重ねたまま、クロードと歩き出す。
まさか、こんな日がくるなんて思わなかったな。
私らしい姿のまま、こうやって誰かにエスコートされる日がくるとは。
「……ありがとう、クロード。改めて言わせてくれ」
「だから言っただろう。礼を言うのは俺の方だと」
顔を見合わせ、笑い合う。そんな些細なやりとりにほっとしながら、パーティー会場へ足を踏み入れた。
そこには、既に入場を終えていた両親の姿があった。
「フランシーヌ……!」
クロードと手を重ねたフランシーヌの姿を見て、父はいきなり泣き出した。母は父の横で、相変わらず父の顔に見惚れている。
「きっ、君の名前は!?」
「ク、クロード・フォン・リファールです」
シュヴラン伯爵の勢いに押されつつもしっかりと名乗ったクロードを見て、シュヴラン伯爵は何度も深く頷いた。
「ありがとう。これからも一生、末永く、永遠に娘のことを頼む」
そして伯爵は、フランシーヌが溜息を吐きたくなるような言葉を口にしたのだった。




