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男装令嬢は己の格好良さを極めたい  作者: 八星 こはく


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第13話 やかましい実家

「お兄様と一緒の帰省、わたくしはとっても楽しみでしたわ!」


 満面の笑みを浮かべ、薄桃色の華やかなドレスに身を包んだリリアーヌに連れられて、フランシーヌは渋々迎えの馬車に乗り込んだ。

 フランシーヌだって、実家が嫌いなわけではない。しかし今の時期に父親から呼び出された理由を想像すると、一気に足が重くなってしまう。


 フィリップとの婚約破棄。


 間違いなくそれが、フランシーヌを実家に呼び出した理由だろうから。





 馬車に揺られること半日、ようやく実家に到着した。長期休みではないため、明日の午後には出発しなければならない。

 馬車を下りた途端、使用人達が完璧な角度の礼で出迎えてくれる。相変わらず、しっかりとした家だ。

 これも全て、父であるシュヴラン伯爵の努力の賜物である。


 屋敷の中へ入ると、両親が待ってくれていた。

 父も母も、相変わらず年頃の子供がいるとは思えない美貌の持ち主である。


「よく帰ったな、フランシーヌ、リリアーヌ」


 穏やかな笑みを浮かべたシュヴラン伯爵は、誰が見てもフランシーヌの父だと分かるほど彼女によく似ている。


「……この度は、いったいどのようなご用でしょうか、父上」

「とぼけるな、フランシーヌ。フィリップとの婚約が破棄になったと、向こうの親から聞いたぞ」


 シュヴラン伯爵は重苦しい溜息を吐くと、鋭い視線をフランシーヌに向けた。その瞬間、リリアーヌがフランシーヌを庇うように飛び出す。


「お父様! それは全てあのゴミ男が悪いのですわ。そもそもわたくしは何度も、そりゃあもう何千回も何万回も、お父様に言いましたわよね? あんな男、お兄様には相応しくないって!」


 淑女らしからぬ勢いでリリアーヌが叫ぶ。父の一瞬のたじろぎを、リリアーヌは見逃さない。


「いいですか、お父様。今日はお兄様と、あの畜生からやり直すべき男が婚約破棄をしたことを祝うパーティーですわ! ねえ、お母様? そうですわよね!?」


 リリアーヌに詰め寄られ、母―――シュヴラン伯爵夫人・ナタリーは、温厚な微笑みを浮かべたまま頷いた。


「そうねぇ。わたくしも、あの男は愛しいフランに似合わないと思っていたの。旦那様がどうしてもと言うから、話は進めてしまったけれど……」


 言いながら、ナタリーはシュヴラン伯爵の腕に抱きついた。未だに恋愛結婚をした新婚夫婦のように熱烈な愛情を旦那に抱くナタリーは、隙あらばいちゃつこうとするのだ。

 そもそも二人の出会いは名門公爵家出身のナタリーによる一目惚れであり、実家の権力を最大限に使い、ナタリーはシュヴラン伯爵夫人の座を勝ち取ったのである。


「……お前達……」


 シュヴラン伯爵が疲れきった表情で、助けを求めるような眼差しをフランシーヌへ向けた。

 いつもなら母や妹をなだめ、苦労人である父の味方につくことが多いフランシーヌも今日は違う。


「父上や母上にはあえて報告することはしませんでしたが、あの男は私という婚約者がありながら平民の女に手を出し、堂々と愛人を作るような男でしたよ」


 その話を聞いた瞬間、シュヴラン伯爵の顔色が変わった。

 ナタリーやリリアーヌほどではないにせよ、彼もまた、フランシーヌを深く愛しているのである。


「そんなクズ男、今すぐ沼に沈めてしまえ!!」


 珍しく激昂したシュヴラン伯爵を見て、ナタリーはうっとりとした眼差しで呟いた。


「怒った旦那様も、世界一素敵だわ……!」





「……実家に帰ると疲れるな」


 溜息を吐いて、大きなベッドに寝転がる。実家のことも家族のことも大切だが、他の家と比べると、シュヴラン伯爵家はやかましすぎる。

 もっとも数多の親衛隊を持ち、外を歩けば一秒ごとに女性達の歓声を浴びるフランシーヌとて、そのやかましさの要因ではあるのだが。


 あと少しすれば、夕飯の準備が整ったと広間に呼ばれるだろう。

 フランシーヌとリリアーヌの好物だけを集めた夕飯は楽しみだが、やかましい時間になることは確定だ。


「……はあ」


 フィリップが平民の女に手を出したことを親に伝えなかったのは、親に告げ口する行為を格好悪い振る舞いだと思ってしまったからだ。

 婚約者に浮気され、それを両親に泣きついて解決してもらうという行動が、フランシーヌの美学に反したのである。


 それにどうせ、父上はすぐに別の候補を探し始めるに決まっている。


 今日だって、それがフランシーヌを呼び出した目的だろう。

 貴族の令嬢としての務めだと言われれば、フランシーヌは反論できない。けれど嫌なものは嫌なのだ。


 現実逃避にフランシーヌが目を閉じた瞬間、部屋の扉がノックされた。


「お兄様! 夕飯までの間、一緒に庭でティータイムにしましょう?」


 リリアーヌである。

 可愛い妹の誘いに答えるため、フランシーヌはベッドから下りて優雅な微笑みを作ったのだった。

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