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男装令嬢は己の格好良さを極めたい  作者: 八星 こはく


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第10話 街へお出かけしよう

 クロードが用意した馬車に乗って、街へ移動する。

 馬車は学校側の所有物で、申請さえすれば自由に使うことができる物だ。


 昔は生徒個人が所有する馬車を使用していたらしいが、馬車の大きさや作りによって実家の裕福さを自慢する争いが生じたことから、現在では個人の馬車を持ちこむことは禁止されている。

 とはいえ毎年長期休暇の時期になると、それぞれの実家から豪華な馬車で迎えがやってくるのは恒例行事だ。


「街へはよく行くのか?」


 窓外の景色を眺めながら尋ねると、クロードがああ、と頷いた。


「定期的に剣の手入れは必要だからな」

「それなら、持ってきてもらうこともできるだろう?」


 金はかかるものの、頼めば学園まで荷物を届けてくれる店は多い。

 だからこそ生徒の外出はカフェやレストラン、舞台観劇といった、届けてもらうことができない店を目的とすることが多いのだ。


 もちろん街歩き自体を楽しむ生徒も多いけれど、クロードはそうは見えない。

 訓練時間を確保するために、買い物は取り寄せで済ませるようなタイプかと思っていたから、少々意外だ。


「ああ。だが俺としては、街の様子を定期的に見たくてな」

「街の様子を?」

「そうだ。貴族の次男以下が、将来どんな生活をするかは知っているだろう?」

「息子のいない家に婿入りするか、軍人や聖職者として働くか……だろう?」


 中には一生結婚もせず働きにも出ず、実家で放蕩生活を続ける者も存在するが、極めて少数派だ。


「俺は軍人になるつもりだ。軍人になれば、俺は市井で暮らす人々を守ることになる。なんというか……将来自分が守ることになる大切な存在を、確認しておきたくなるんだ」


 そう言うと、クロードはもどかしそうに頭をかいた。


「悪い。なんだか、上手く説明できていない気がする」


 言葉にするのは苦手なんだ、とクロードは付け足したけれど、なんとなく彼の意図は分かった気がする。

 同時に、市井で暮らす平民達を『守るべき存在』と称したところに惹かれた。


「では、後でゆっくりと話を聞こう。せっかく街へ出かけるんだ。たまには外食でもどうだい?」


 外食、という言葉にクロードが難しそうな表情を浮かべた。

 興味はあるものの、栄養的に気になる……と言ったところだろうか。


「多くの人にとって、食事は日々の癒しだよ。『守るべき存在』の癒しを自ら体験してみるのも、悪くないと思わないか?」

「……確かに」

「実のところ、私の単純な好奇心でもある。こんな見た目でも、一人で気軽に出入りできる場所は限られているからな」


 街を歩いている際、大繁盛している酒場やレストランに興味を引かれることはよくある。

 しかし、男のような見た目をしていたとしても、フランシーヌは貴族の令嬢だ。気軽にそんな店には入れない。


 実家がある領地でもそうだった。少しでも領民達のことを知りたいのに、女であるフランシーヌには危ないから、という理由で制限された行動がいくつもある。


 ……まったく、嫌になるな。自分ではどうしようもないことで、制限を受けるのは。


「分かった。たまにはいいだろう。その分、明日の訓練量を2倍にする」


 さらっと恐ろしいことを口にしたクロードの表情は明るく、フランシーヌもつい笑みを浮かべたのだった。





「ここが、いつも剣の手入れを任せている鍛冶屋だ」


 街の奥まった通りに、一軒の鍛冶屋があった。外装は地味だがしっかりとした造りの建物で『ご予約のお客様のみ』と看板が出されている。


「代々、鍛冶屋を営んでいる家でな。俺の家も代々世話になっている」

「なるほど……」

「だが、少々気難しいところもある。『使える剣しか売らない』というのがこの店の流儀らしくてな。そのあたりは気をつけて話すようにしてくれ」

「分かった」


 軍人でなくとも、貴族の男性であれば剣を所有するのが一般的だ。

 宝石を埋め込まれ、様々な細工を施された宝剣は褒美として下賜されることもあり、また、装飾品として扱われることもある。


 しかし宝剣は実戦向きではなく、剣としての性能が微妙なものが多い。

 ここの店主は、そういった剣は作らないということだろう。


 目を合わせた後、クロードが入口の鈴を鳴らす。少しすると、作業着姿の若い少年が出てきた。

 そして、クロードを見てきらきらと瞳を輝かせる。


「クロード様! お待ちしておりました! 師匠も今日は、クロード様がくると朝から嬉しそうになさっていましたよ」


 どうやらこの少年は、ここの主に弟子入りをしているらしい。


「それから……あの」


 困惑したように、少年がフランシーヌを見つめた。

 第一印象は大事だ。とびきり優雅に見えるよう鏡の前で何度も練習した微笑みを浮かべ、フランシーヌは右手を差し出した。


「クロードの友人、フランシーヌ・フォン・シュヴランだ。よろしく頼むよ」


 フランシーヌの手をうっとりした顔で握りつつ、少年は首を傾げていた。

 おそらく目の前にいる完璧な美青年と『フランシーヌ』という女性の名前が結びつかないのだろう。

 初対面の相手にはよくあることだ。


 少年が困惑していると、奥から白髪の男が姿を現した。

 両手に、あり得ないほど大きな剣を持って。

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