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下見かそれとも本番か

作者: ウォーカー
掲載日:2026/02/08

 時見ときみ正義まさよし。10歳の男の子。

正義は時見神社の宮司の一族の子だ。

その正義が、時見神社の節分の豆を20個食べた時。

なんと正義の体が20歳の体になった。

「よーし、これで大人の遊びを全部できるぞ!」

正義は早速、酒を買って一気に飲み干した。

体がカッカと熱くなり、目が回る感じがした。

次は大人の怪しい店が、正義を誘っていた。

正義は誘われるがまま、大人の店に入っていき、大人の体験をする・・・。



 節分の日。

正義の家の時見神社は、節分祭で大忙し。

祖父も両親も神社の仕事で駆け回っている。

だから、誰も正義の相手をしてくれず、正義は退屈していた。

豆撒き自体には参加を許されてはいるが、

背の高い大人たちにほとんど豆を取られてしまうだけだ。

だから正義は、家族の分の豆に目を付けた。

時見神社は節分祭で撒く豆以外にも、

家族が歳の数だけ食べる分の豆も用意してある。

木の四角いますに山のように豆が積まれている。

神事のために清められた、特別な豆だ。

それを見て、通りがかった父親に声をかけた。

「ねえお父さん。節分の豆、食べても良い?」

すると父親は正義の方も見られないほど忙しそうに答えた。

「正義、後で家族みんなで食べようよ。」

「それまで待てない。ちょっとだけだから、食べさせて。」

「しようがないなぁ。ちょっとだけだぞ。

 それと、自分の歳の数の豆10個は、後のために取っておくんだぞ。」

「はーい。」

正義は父親に言われた通り、10歳だから10個の豆をポケットに入れた。

それから豆を5個ほど口の中に入れた。

ポリポリポリ。

節分の豆は香ばしい味がした。

それから退屈した正義は、家の床にゴロリと横になった。

「お祭りまで、ちょっと寝ようかな。」

重いまぶたが下りてきて、正義は眠りについた。


 トントントントン。

台所から料理をする音が聞こえる。

外からはスズメたちの囀りが聞こえる。

正義はまぶたをうっすらと開けて目を覚ました。

何だか体が軽い。というか、小さい。

小さな手のひらを見て、正義は声を上げた。

「なんだこれ!?体がちっちゃくなってる!」

正義の声に、台所から母親がやってきた。

母親の顔がいくぶん若くなっているように見えた。

「おはよう、正義。もうすぐ朝ごはんができるからね。

 朝ごはんが終わったら、お父さんとお母さんは節分祭の準備をするから。」

笑顔でのんびりと答えた母親に正義は泡を食って言った。

「お母さん、そんなこと言ってる場合じゃないよ!

 見てよ!僕の体がちっちゃくなってる!」

体をぐるぐると回して見せる。

しかし母親は首を傾げるばかりだった。

「正義の体は元々小さいでしょう?

 子供はこれから成長して大きくなっていくのよ。」

「そういうことじゃなくて!

 僕の体、とても10歳の体じゃないよ!

 どうなってるの!?」

「どうもなにも、正義は今5歳でしょう?」

母親の答えに、正義は愕然とした。


 それから正義は考えた。

そして、事のからくりに気が付いた。

体が小さくなったのは、きっと節分の豆を食べたせい。

時見神社の節分の豆は、特別に清められた豆だから、

余分に食べた分、体に変化が現れたのだろう。

歳は、豆を食べた数の歳。

つまり今回は豆を5個食べたので、5歳になった。

豆を食べて眠ると、時間が飛ぶ。

目覚めると、豆を食べた数の歳の、節分の朝になるらしい。

その証拠に、ポケットには、

あの10歳の時にポケットに入れた10個の豆が入っていた。

「よかった。

 このポケットにある10個の豆があれば、

 いつでも元の歳に戻ることができるだろう。」

試しに正義は10個の豆を食べてみた。

すると今度はすぐに眠気がやってきて、正義は眠りについた。

そして目を覚ますと、そこは時見神社の中。

あの節分の豆を食べる日の朝に戻ってきたのだった。

「やった!元の時間に戻って来る事ができたぞ。

 ということは、この豆を食べて年齢を自由に変えられるってことか。

 よし、じゃあ次は大人になってみよう!」

正義は今度は20個の豆を食べ、眠りについた。


 そうして節分の豆を20個食べて寝た正義は、

目が覚めると予想通り、20歳になっていた。

そして20歳の体を使い、大人としての遊びを満喫するのだった。

前から飲んでみたかった酒を飲み、タバコは好きではないので吸わなかった。

財布には大人に見合った額のお金が入っていたので、

大人の店にも入ってみた。

「あら、いらっしゃぁ~い。お客さん、初めて?」

言われるがまま、正義は店のおねえさんに手を引かれていった。

そして個室に案内され、この世のものとは思えない体験をした。

「はぁ~大人っていいなぁ。

 こんなに気持ちがいいことばっかりだなんて。

 きっと大人はいじわるして、子供には禁止してるんだ。」

大人の店を数件ほどまわって、今度はあやしい店に入ってみることにした。

汚い雑居ビルの一角、何かの葉っぱのマークが書かれた店だった。

そこで売っているのはタバコ。それと、お菓子のような粉だった。

「あんちゃん、今なら上物があるぜ。やるだろう?」

「う、うん。」

わけも分からず、言われるがまま、正義はお菓子のようなものを口にした。

すると目の前がぐるぐると回り始め、天にも上る気持ちになった。

「わぁ、なんだこれ・・・なんか・・・目の前が変。」

「なんだあんちゃん、初めてだったのか。飛ぶだろう?」

「うん、なんか体が飛んでるみたい。でも、ちょっと気持ち悪いかも。」

こんな時はあれだ。正義には節分の豆がある。

ポケットの中の節分の豆は、今回も用意されていた。

それを食べて、正義は気を失った。


 目が覚めると、正義はやっぱりあの日の朝にいた。

あの妙なお菓子のようなものを食べた感覚もきれいに消えていた。

「よかった。今回はちょっと無茶をしすぎたかな。

 今度はもうちょっと先を見てみよう。

 戻るときも豆をすぐに食べるんじゃなくて、数日経ってから食べてみよう。」

試しに正義は25個の豆を食べて眠りについた。

そして目を覚ますと、体はきっかり25歳の世界にいた。

ポケットにはいつもの10個の豆がある。

今度は豆をすぐに食べずに、しばらく大人の生活を体験してみた。

しかしそれは予想とは違って、ちっとも楽しいものではなかった。

朝は早くから満員電車に揺られ、会社に出勤。

昼ご飯を食べる時間も惜しんで、夜遅くまで働く。

そしてまた夜の満員電車で家に帰る。

家に帰っても疲れて何もする気が起きず、

コンビニで買った弁当を食べて眠るだけ。

ただその繰り返し。

「これが大人の生活?全然楽しくないよ。

 こんなのだったら、僕、大人になりたくないなぁ。」

大人の生活に嫌気が差した正義は、

ポケットの豆を食べて10歳の時の時見神社に戻った。

そうして正義は、大人の生活の楽しさだけでなく、厳しさも知った。

「そうだ。今度はもうちょっと先を見てみよう。」

正義は今度は35個の節分の豆を食べて眠りに付いた。


 目が覚めるとそこは、10歳の時見神社の中だった。

「あれ?あれぇ?

 35個の豆を食べたのに、戻ってきちゃった。

 なんでだろう?」

何かイレギュラーでもあったのだろうか。

次に正義は、試しに30個の節分の豆を食べて眠りについた。

今度は無事に30歳の世界に目覚めた。

しかしやはりそこでも、朝から晩まで会社で働く生活は変わらない。

会社を終えて家に帰り、いつものコンビニ弁当を食べようとした、その時。

急に胸に刺すような痛みが襲った。

正義は苦しそうに胸を抑え、床に倒れ込んだ。

これはただごとではない。体に何かが起こっている。

「このままじゃ死んじゃう・・・!

 そうだ、あれを・・・!」

正義は薄れゆく意識の中で、ポケットの中の10個の豆を口に入れた。

ポリポリと豆を噛んでいる最中に、正義の意識は途切れた。


 ガバッ!と目を覚ますと、そこは時見神社の中だった。

正義の体は10歳。どこにも異常はない。

どうやら無事に元の10歳の時見神社に戻って来られたようだった。

「あー、びっくりした。急に具合が悪くなるなんて。

 あのまま死んじゃうかと思った。

 いや、多分、僕はあの時に死んでいたんだろう。

 だから、その先の35歳の世界に行こうとして、失敗して戻ってきたんだ。」

節分の豆による時間跳躍。

その結果、正義は、30歳で自分は死んでしまうことを知ってしまった。

体がガタガタ震えて止まらない。

「どうすればいいんだろう?」

幸い、正義が体調を崩す日時はわかっている。

そこで正義は賭けに出ることにした。

「もう一度30歳の世界に飛んで、具合が悪くなる前に病院に行けばいいんだ!」

上手くいくだろうか。一抹の不安が襲う。

「上手く行かなければ、また豆を食べて10歳に戻ればいいだけさ。

 瀕死の状態でも、10歳の世界にはちゃんと戻れたんだから。」

決意の結果、正義はもう一度、30個の豆を口にした。


 微睡みの後、正義は目を覚ました。

ハッと手を見る。ちゃんと30歳の体になっている。

「よし、30歳の世界にきたぞ。

 僕が死ぬのは、明日の夜だったっけ。

 今日は会社を休んで、明日行く病院を探しておこう。」

そうして正義は、比較的近所にある大きな救急病院に当たりをつけた。

次の日、正義は朝からその救急病院の中にいた。

「今日はどうしました?」

看護婦の言葉に、正義は答えに窮した。

そして、ありのままのことを告げることにした。

ただし、時間跳躍のことは伏せて。

「えっと、今日は体調がなんだかおかしいんです。

 夜辺りに、死ぬほど体調が悪くなるかも・・・。

 お願いです、助けてください!」

「じゃあ、一応検査してみますか?」

看護婦に言われるがまま、病院で一通りの検査を受けてみた。

その結果。医者にはこう言われた。

「心臓に異常の兆候が見られますね。

 緊急に処置をしたほうが良いでしょう。

 このままでは最悪、倒れてしまうかも知れない。

 いやあ、倒れる前に病院に来られるなんて、運がいいですよ。」

「そうですか!よかった!」

こうして正義は、30歳の世界の死ぬはずだった日を、

病院で無事にやり過ごすことができた。

翌日、目が覚めるとやはり病院。

しかし医者が言うには、このまま治療を続ければ、

そう長くかからずに退院できそうだという。

「病院でこれ以上、痛い思いをするのは嫌だな。」

そこで正義はズルをすることにした。

ポケットの中の10個の豆を食べ、10歳の世界の時見神社に戻った。

それから35個の豆を食べて寝て、35歳の世界に飛ぶことにした。

豆を食べて眠り、目を覚ますと、

今度はちゃんと35歳の世界で目覚めることができた。

「やった!30歳の僕は、ちゃんと病気が治ったんだ!」

服の胸を広げてみると、大きな手術痕が残っていた。

これで正義は、死の恐怖から逃れることができた。

しかし、別の考えが浮かんでくる。

自分は何歳まで生きられるのだろう?

いっそ節分の豆を100個ほど食べてみようか。

しかしそれは恐ろしくて、10歳の正義には無理だった。

自分がいつ死ぬのかなど、大人でも知るのは恐ろしいことだから。

だから、正義は、別の方法を取ることにした。


 あれから正義は、11歳から一年ずつ、

節分の豆を食べて未来の世界を見ていくことにした。

未来の世界で生活を続けて、未来の世界で1年間無事に過ごせたら、

その次の歳の世界を試していく。

もしも死んだり致命的な出来事があれば、

ポケットの中の豆で10歳に戻りやりなおす。

10歳に戻って、今度は同じ歳の問題を解決し、その次の歳に飛んでみる。

それを繰り返して、自分が何歳まで生きられるのか、

何歳まで生き延びられるのか試していった。

結婚や子を設けるといった幸せにも恵まれながら、

時には大きな病気で倒れて、1年をやり直して凌ぐということもあった。

そんなことを続けて、もう90回ほどにもなっただろうか。

その世界では年老いた正義は、家の縁側で椅子に揺られていた。

もう老衰で満足に動くこともできず、

今は家の庭で孫たちが元気に遊んでいる声を聞いている。

「はて、今の私は、節分の豆を食べた世界の自分だったか?

 それとも、本当の世界の自分だったか?」

節分の豆を食べて1年ずつ無事を確認することを何十回も続けて、

年老いた世界の正義にはもう、それが時間跳躍か現実かの区別も曖昧だった。

今日は節分。孫たちが節分の豆を撒いている。

「鬼は外ー!福は内ー!」

年老いた正義は、震える手でポケットの中をまさぐった。

そこには今でも、10個の節分の豆が入っていた。

それを歯の抜けた口にゆっくりと運びながら、思った。

「私の今までの人生は、本当に現実だったのだろうか?

 それとも、節分の豆で見た夢の・・・」

正義の体から力が抜け、手がだらりと垂れ下がった。

縁側に節分の豆が散らばる。

ポケットの中の10個の豆を食べきること無く、正義は事切れた。

特にどこが病気ということもない、老衰の末の死だった。

これでもう、10歳の時見神社に戻ることはできない。

この世界が時間跳躍の世界なのか、それとも現実なのか、

正義の疑問に答えられるものは誰もいなかった。



終わり。


 自分はいつ死ぬのだろう。

それは誰もが興味があり、でも知りたくはないことです。


節分の豆の魔法で未来の世界に時間跳躍する事になった子供が、

自分がいつ死ぬのかを知り、それを回避することに成功しました。

そこまではよかったのですが、今度は次にいつ死ぬのかが気になって、

結局、寿命を迎えるまで時間跳躍を続けてしまいました。


やはり自分がいつ死ぬのかなど、先に知っておくのは恐ろしい事だと思います。


お読み頂きありがとうございました。


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