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闇に響く声  作者: まきの・えり


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8/13

       8

 映画の出演者は、全員そろっていた。マイケル・ランバートの初めての主演映画だ。撮影の前に、顔合わせが行われた。

 プロデューサーのトーマス・ビクスンは、顔を見せなかった。

 トゥエイン・ライトは、その他大勢のエキストラの一人だった。前の日のトミーのことばが耳を離れなかった。

「これでお別れだ、トゥエイン」とトミーは言った。

 自分の耳が信じられなかった。ずっとトミーを待っていたのだ。二週間の間ずっと、彼のことだけを考えてきた。いつも彼の視線を意識し、彼に気に入られようとダイエットを続け、完璧なプロポーションを維持していた。何もかも彼のためだった。

「嘘だと言って、トミー。いけないところは直すわ。何でも言うことを聞くわ。死ねと言われれば、死んでもいいの」

「いい子だ、トゥエイン。私は今、絶望のどん底だ。私の妻のスキャンダルは知っているだろう」

 トゥエインは、うなずいた。マダム・ビクスンのスキャンダルは、トゥエインをある意味で喜ばせもしたのだ。

『毒婦エミリー』

 確かに美しい女性だった。しかし、トミーに忠実ではなかった。自分なら、決してトミーを裏切るようなことはしない。

「私は死んでしまいたい。妻を愛しているんだ」

「トミー、私がいるわ」

「優しいトゥエイン。私は、マイケルが憎い。何とかして、彼から妻を取り戻したいんだ。力になってくれ、トゥエイン。君にしかできない」

「どうすればいいの? 何をすればいいの?」

「マイケルと結婚するんだ」

 トゥエインは、一瞬目の前が暗くなるのを感じた。

「本気じゃないんでしょう、トミー? 本気で言ってるんじゃないんでしょう?」

「私の役に立ちたいんだろう、トゥエイン? 私のためなら、死んでもいいんだろう? 今、君だけが、私を救うことができるんだ。長いことじゃない。一年だ。私は、一年の間、君を待っている。君は、エミリーからマイケルを奪い、エミリー以上の女だということを、私に証明して見せるんだ。いいね、トゥエイン」

 自分が、なぜうなずいたのか、トゥエインには分からなかった。

「いい子だ、トゥエイン。一年なんて、すぐ過ぎて行く。一年だけのお別れだ。君との最後の夜だ。美しい夜にしよう」

「ほんとに一年だけね、トミー。また会ってくれるのね」

「それは、君次第だよ、トゥエイン。君の魅力がマイケルに通じなかったら、それまでだ。私は、永遠に妻に囚われて、生きていくだろう」

「自信がないわ、トミー」

「自信を持たせてあげるよ、トゥエイン。マイケルは、一目で君に恋するだろう。君は、こんなにも美しく、奇麗な身体を持っている。君は、ミセス・ビクスン以上に、私を喜ばせる。その若さと忠実さで」

 前日の快楽の名残りが、身体中に残っている。トミーのことを思うと、身体がうずいた。トゥエインは、彼を愛していた。

「そこのエキストラの女の子、聞いているのか」

 助監督が怒鳴った。

 皆がいっせいにトゥエインを見た。

 マイケルもトゥエインを見ていた。

 トゥエインは、マイケルをにらみつけた。トミーの敵、一年だけの恋人を。

 トゥエインは、立ち上がった。胸を張り、心持ち顎をあげて。

「すみません。考え事をしていました。これから気をつけます」

「いいから、座れ。生意気だね、反省の色もない。名前は?」助監督がたずねた。

 彼も監督も、トミーから命令されていることがあった。トゥエイン・ライトを徹底的にマークすること。田舎の両親が、女優になることに反対している、と聞かされていた。見込みが無ければ、国に帰った方が彼女のためだった。

「それで逃げ帰るようなら、見込みはない。彼女のためだ。徹底的にしごいてやってくれ」とミスター・ビクスンに命じられていたのだ。

「トゥエイン・ライトです」

「ぼんやりしているようなら引っ込めるから、そのつもりで」

 トゥエインは唇を噛んで、座った。周りのエキストラ達は、彼女より年長だった。意地の悪い目で、彼女を見ていた。彼女は、会社の偉い人に身体を売って、マイケルの映画に出演した、という噂が流れていた。次は主役をもらうらしい。そういえば、奇麗な女の子だった。それに、まだ若い。

「汚い女ね、自分だけ目立とうとして」

「ちょっと奇麗だからって、生意気だわ。助監督も彼女を嫌ってるみたいよ」

「ポルノの主役でももらうつもりじゃないの?」

「そうよね。体当たり演技でね」

「フフフフ」

 マイケル・ランバートの初めての映画に並行して、トーマス・ビクスン作の二本のシナリオが、同時進行していた。

 一本は、マイケル・ランバートとトゥエイン・ライトのラブストーリー。

 もう一本は、エミリー・ビクスン主演の毒婦物語だった。

『マダム・ビクスンの異常な夜』

『スキャンダルの女王エミリー・ビクスン。次のお相手は、大統領補佐官! ヒューリー氏、辞任か?』

『毒婦エミリー、マイケルとの愛の終焉』


 マイケルの苦悩は大きかった。

 エミリーにとって、自分は大勢の愛人の一人だったのか。あれは、遊びだったのか。

 ミスター・ビクスンに頼まれはしたが、エミリーとの一夜は、抑えることのできない愛情の表出だったのだ。

 エミリーを愛していた。

 彼女が望むなら、全てを捨てる用意があった。スキャンダルも平気だ。

 永遠に、社会から葬り去られたかった、彼女と共に。

 撮影は遅々として進まなかった。マイケルは全てのせりふを覚えていたが、演技ができなかった。

「とんだ大根だ」と監督は陰で愚痴をこぼしていた。

「演技以前の問題だ。やる気がまったくないんだから」

 撮影が長引くにつれて、撮影所内にコーラス隊のようなものができていた。マイケルは、エキストラの女の子達と撮影の合間に、よく歌を歌っていた。女の子達は、マイケルに夢中だった。彼の歌は心の奥にまで入り込んでくるのだ。

「見ているだけでもポーっとなるのに、歌われたら、もうダメだわ」

「ステキ。優しいし、親切だわ」

 トゥエイン・ライトもマイケルの歌が好きだった。彼の歌は、彼女の孤独を、わずかの間忘れさせてくれた。

 トミーとは、ずっと会っていなかった。一度思い切って、会社に電話をかけた。彼は出なかった。

 自宅にも電話してみたが、知らない男の声が、ミスター・ビクスンは不在だと告げた。不安で、胸が痛くなった。直接会いに行くことも考えたが、思いとどまった。トミーに嫌われることが怖かったのだ。彼はトゥエインを見知らぬ人間のように見るかもしれない。彼を失望させたくなかった。でも、どうすれないいのだろう。

「トゥエイン・ライト、何をぼんやりしているんだ! フィルムを無駄にするつもりか」

「すみません」

 トゥエインは、唇を嚙んで、持ち場を離れた。

「どこへ行くつもりだ、トゥエイン・ライト」

 助監督の怒声を背中で聞いていた。もう耐えられなかった。彼女は独りぼっちだった。友人は一人もいなかった。自分の悩みも苦しみも、一人で抱えなければならなかった。誰かにすがって、思いきり泣いてみたかった。彼女は地面にしゃがみこんで、下を向いた。涙が次々に地面に落ちていった。

 誰かが肩に手を置いた。優しい手だった。

「どうしたの、トゥエイン」

 マイケルの声だ。

 トゥエインは立ち上がり、マイケルの胸に顔をうずめた。マイケルは、トゥエインの背中をたたいた。

「大丈夫だよ、撮影は休みだ」とマイケルは言った。

「もう映画になんて、出たくない」

 自分がマイケルに甘えているのがわかった。

「もう死んでしまいたい」

「だめだよ、トゥエイン、そんなことを言っては。君が死んだりしたら皆が悲しむよ」

 トゥエインはヒステリックに笑った。

「誰も悲しむ人なんていないわ。皆、私が嫌いなのよ。私なんか、誰も愛してくれないわ」

「僕がいるよ、トゥエイン。いつも君のことが気になっていた。君は、僕の知っている人にとても良く似ている。君の姿は、ずっと僕を苦しめていた」

「その人の代わりなの? 私は、その女の人の身代わりなのね。その人を愛しているの? どれくらい? 死ぬほど?」

「死ぬほど愛していたよ。でも、もうお終いだ。彼女は、僕に会おうともしない」

 トゥエインはマイケルを見上げた。彼は自分と同じ苦しみを味わっていた。

「キスして、マイケル。その人の代わりに。私が代わりになってあげる」

 マイケルは、トゥエインの肩をつかんだ。彼の腕が震えていた。彼は、怖いくらいに真剣な目をしていた。

 トゥエインの心の中で何かが壊れた。トミーへの愛だ。マイケルに惹きつけられるのを感じた。

「君は、誰の身代わりでもない」とマイケルは言った。

「君を愛してしまったんだ、トゥエイン」

 マイケルはトゥエインを強く抱いた。トゥエインには、何も考えることができなかった。マイケルの唇は若く、弾力があった。一瞬トミーの顔が頭をよぎったが、すぐに消えて行った。

 彼女の世界には、今マイケルだけがいた。彼の唇を通して、幸せだけが伝わってくるようだった。

 それからしばらくして、二人は結ばれた。二人のラブストーリーは完結した。

 トゥエインにとって、トミーは過去の男になった。


 エミリー・ビクスンは、一人でブランデーをなめていた。朝から飲むことも珍しくなかった。

 苦痛の多い日々だった。アルコールの助けを借りて、トミーの命ずる相手とベッドを共にしてきた。カメラのフラッシュにも慣れてしまった。新聞や雑誌の記事も、興味なしに読み過ごすことができた。昼と夜の区別がおぼろになり、曜日や月日の観念も、確かではなかった。

「また飲んでいるのかい、ダーリン」

 トミーの声が聞こえた。

「すっかり酒びたりだね」

「今度は誰なの? 大統領? 美少年?」

 エミリーはトミーの方を見ずに言った。

「ダーリン、聞いてくれ。最高の女優の話を」

「新しい恋人? それとも、今度は女が相手なの?」

「安心しろ。君のスキャンダルには、エンドマークが打たれたよ。最高の女優だよ、あのトゥエインは。みごと、マイケルのハートを射止めたんだ。二人は結ばれた。ハッピーエンドだ」

「そう。おめでとう」

 エミリーのグラスを持つ手が揺れていた。覚悟はできていたはずだった。

「さすがの毒婦も、動揺は隠せないようだね。昨日のことだ。場所は、トゥエインの安アパートの中。

 トゥエインはマイケルに食事を作り、マイケルは感激して、トゥエインを抱いた。エミリー・ビクスンの若き日にうり二つの女優を。彼らの行動は、私には筒抜けなのさ。

 マイケルは、トゥエインにポロポーズし、トゥエインは、それにオーケーした。近いうちに婚約発表だ。二人の愛は、今最高潮だ。もっと聞きたいかい、ミセス・ビクスン」

「興味がないわ」

「過去の男には?」

「いつまでも、あなたの忠実な妻よ、私は。あなただけが好きだわ」

「それは光栄です、マダム」

「悪趣味ね」

「マイケルに似ていたかい? 愛しているよ、トゥエイン」

「やめて、トミー。何をするの」

「私もトゥエインがいなくて淋しいんだ、ハニー」

「お願いよ、トミー。いやなの、触られたくないの」

「哀れな夫にも、毒婦の味を教えてくれ」

 トミーは、エミリーの苦痛を楽しんだ。

 嫌がる彼女を押し倒し、マイケルとトゥエインの話をささやき続けた。

 エミリーは、本当に魅力に満ちていた。多くの男との交渉が、彼女を美しく彩っていた。彼女を醜く変える代わりに、新しい魅力を加えていた。

「君は不思議な女だね、ダーリン。男に生まれれば良かったのに。永遠に美しい男に。マイケルのような男に。君を見ていると、女の方が美しいのではないか、という錯覚にとらわれそうになるよ、愛するエミリー」


「彼女を初めて見た時、心に電流が走るのを感じました。その時の印象は強烈でした。撮影の間中、彼女から目を離すことができませんでした」

 マイケル・ランバートは、婚約発表の記者会見で語っていた。エミリーはテレビで二人を見た。トゥエイン・ライトは幸福に輝いていた。美しい女性だった。

「マイケルのどんなところに惹かれたんですか、ミス・トゥエイン」

「優しいところです。優しくて誠実で」

「結婚のご予定は?」

「映画がクランクアップしたら、すぐに。内輪だけの式ですけど」

「まだ早いですが、赤ちゃんは何人ぐらい欲しいですか」

「何人でも。マイケルは子供がたくさん欲しいと言ってるんです」

「本当ですか、マイケル?」

「ええ、本当です。僕にもトゥエインにも兄弟がいませんでした。大家族に憧れているんです」

「ハネムーンは?」

「多分、ずっと先になる予定です。撮影が長引いていますので、スケジュールが消化しきれてないんです」

「じゃ、撮影の間が、ハネムーンのようなものですね」

「そうもいかないでしょうが、できるだけいい映画にしたいと思っています」

「まったく、記念すべき作品ですものね。今日は本当にありがとうございました」

 若く、美しく、幸福なカップルだった。

 エミリーは、手にしていたグラスをテーブルに置いた。

 彼女は決心していた。二人の幸福を守らなければならない。彼らの幸福は、果たせなかった自分の幸福でもあった。彼と彼の愛する者を何としても守りたかった。

 エミリーの目から涙が流れた。まだ、マイケルを愛していたのだ。


 映画のクランクアップを待って、マイケルとトゥエインの結婚式が行われた。ささやかな式だった。

 二人とも両親とは死別していた。兄弟もいなかった。ビクスン夫妻と、トゥエインの遠縁にあたる夫婦が親代わりを務めた。記者の取材を避けるため、トミーの自家用ジェットで、遠くの協会に飛んだ。

 プロダクションの撮影技師が同行し、結婚式の一部始終をフィルムにおさめた。

 素晴らしい結婚式だった。荘厳なパイプオルガンの音楽が奏でられ、神父が神の御前で、二人を結びつけた。全員で賛美歌を歌い、マイケルの声は、トゥエインの声に調和し、たとえようもなく美しいハーモニーを奏でた。本当に美しいカップルだった。若さと幸福と愛情に輝いている。

「おめでとう、トゥエイン。おめでとう、マイケル」

 エミリーはマイケルに近づき、頬にキスをした。もう震えることはなかった。

 トゥエインはエミリーに微笑んではいたが、得意な気持ちを隠さなかった。

「ありがとうございます、ミセス・ビクスン」

 トゥエインは、はっきりした声で、エミリーに礼のことばを返した。トミーも完全に父親代わりになりきっていた。

「幸せに、トゥエイン。私とマダムからの結婚のプレゼントだ」

 トミーは、一束の鍵を二人に贈った。

「後で案内しよう。君達の新居だ。きっと気に入ってもらえると思う。何人子供が生まれても大丈夫だ。メイドやコックも選んである。プロダクションにも近いし、今、フェンスを作らせている。二人のプライバシーが守れるように。ガードマンも雇ったよ。誰も入って来られないように」

「ありがとうございます」


『歌っていない時は、ただの大根だ』

 批評家には酷評されたが、マイケルの初めての主演映画は、空前の大ヒットを記録した。映画館の周りを警官隊が警備しなければならないほどの盛況だった。その収益はプロダクションの資産を何割も増やした。結婚も、マイケル・ランバートの人気には、影響を及ぼさなかった。ファン達は、彼の結婚を温かく祝福しているようだった。

 彼の映画の試写会の模様はニュースにもなった。フランシス・メイヨ夫人は、その時の模様を次のように語った。


 試写会には、あまり気が進みませんでした。子供達はマイケルのファンでしたが、夫や私は彼の顔も知りませんでした。本人が姿を見せるということと、プロデューサーのトーマス・ビクスンが夫の友人だということで出かけて行ったのです。ひどい交通渋滞で、途中からは歩いていかなければなりませんでした。マイケルが姿を見せるということで、若い男の子や女の子達が会場の周りに集まっていました。

「まったく税金の無駄遣いだ」と夫が腹を立てていました。私も同感でした。大勢の警官が警備にあたっていたのです。

「これでは、マイケル・ランバートも命がけだね」

 試写会の会場の中で、私達はそんな冗談を言って笑っていました。まだその時には、もっと大勢のファン達が至る所から、この会場を目指して集まりつつあることを知らなかったのです。

 時間を追うにつれて、会場の外の騒ぎは不穏なものに変わっていきました。不気味な振動が、会場全体を揺さぶっていました。まるで、暴動か何かの前触れのようでした。

 一人の婦人が、ついに気を失いました。救急車を呼ぼうとした人が叫びました。

「電話が通じない。電話線が切断されているんじゃないか」

 ちょっとしたパニック状態でした。泣き出す夫人もいました。皆の顔は一様に蒼白でした。映画どころではありませんでした。

 警官のハンドマイクの音が聞こえていました。

「マイケル・ランバートは、今日の出演を取りやめました。マイケルは来ません。今日は、マイケルは来ません。速やかに帰宅してください。今日は、マイケルは来ません」

 しかし、期待に反して、外の騒ぎは、ますます大きくなっただけでした。ファン達は却って、興奮しだしたのです。

『ウイ ウオント マイケル!』

『ウイ ウオント マイケル!』

 大合唱が会場を揺るがせ、私も神の名を唱えました。

「諦めたほうが、良さそうですわね」とエミリー・ビクスンが言いました。物事に動じない女性でした。まだ三十代の前半だというのに、終始落ち着き払っていました。

「そりゃあ、ミセス・ビクスンは、かまわないでしょう」

 ミセス・カーティスが皮肉な声で言いました。品のないことに、マイケルと彼女との噂をあてこすったのです。

 その時でした。

 大音響が地面を揺るがせました。また、何人かが気を失いました。グループで泣いている人達もいました。

「皆さんに、カクテルを」と主催者のトーマス・ビクスンが言いました。カクテルが皆に行き渡りました。もう、世間体など、かまってはいられませんでした。私も何杯か、カクテルのお代わりをしました。お陰で、気分が落ち着くのを感じました。心なしか、外の騒ぎも、おさまりつつあるようでした。

「お待たせいたしました。ただ今から、試写会を始めます」

 司会者が現れました。

「マイケルは?」とエミリー・ビクスンが尋ねていました。

「申し訳ありません。マイケルは、会場に入ることができませんでした。乗っていた車を置いて、プロダクションのヘリコプターで会場付近までやって来たのですが、どのビルの屋上もファンに占拠されておりまして、ヘリをつけることができませんでした。

 先ほどの大歓声は、マイケルがヘリコプターから手を振った時のものです。彼の姿を見ることのできたファン達は、徐々に引き上げていきました。こんな騒ぎは、私も初めてのことです。

 では、ごゆっくりとお楽しみください。マイケル・ランバート、初の主演作品です。この映画の中で、彼は六曲歌っております。タイトルソング『優しさは海のごとく』そして……」

 私は、ぼんやりと画面を見つめていました。気が抜けたのと、アルコールのせいで、私は、知らない間に眠ってしまったのです。映画は全然覚えていません。でも、歌の場面だけは、どういう訳か覚えているのです。

 あの場面で、マイケルは奥さんになる人に出会ったんですってね。だから、きっと、よく覚えているんでしょう。






 

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