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闇に響く声  作者: まきの・えり


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3/4

私のお師匠様、エルヴィス・プレスリーに捧げます。

あなたのお陰で、私は望みを叶えました。

「どうぞ」と静かな声が聞こえた。

 エミリー・ビクスンだ。私は、唾を飲み込んだ。

「エミリーおばさん」

 コンスタンスは、ドアを開けると同時に、エミリーの方に進み、彼女を抱擁した。

「コニー、コニー」

 私が居場所を失うほど、エミリー・ビクスンの声には、コンスタンスに対する愛情がこもっていた。

「ミスター・トーマス・ハンスベリー。ミセス・エミリー・ビクスン」

 コンスタンスが、私達を紹介した。

「おかけになって、ミスター・ハンスベリー」とミセス・ビクスンは言った。

「マイケルのことでいらしたのね。そういう時期だと思っていましたわ。コニー、そうなんでしょう?」

 窓はアルミホイルでおおわれている。

 エミリー・ビクスンは、濃いサングラスをかけ、薄暗い部屋の中で、何かの影のように見えた。

「ええ、エミリーおばさん」

 コンスタンスは、私がハッとするほど冷静な声で答えた。

「私も知りたいの」

 エミリー・ビクスンは、サングラスを外すと、優しい目でコンスタンスを見た。

 二人はとてもよく似ていた。まるで、本当の親子かと見まがうほどだ。

 エミリーの髪には白髪が混じり、顔には幾多のしわが刻まれている。

 しかし、年齢的な差異にもかかわらず、二人には非常に似通ったところがあった。

 それは雰囲気であり、二人に共通する何らかのエネルギーだった。

 そして、それは、私が聞いたマイケルの歌のエネルギーでもあった。パワーと言いかえてもいい。

 部屋中に、目には見えない力が満ちているようだった。

「ありがとう、エミリーおばさん」

 コンスタンスの声は優しかったが、まるで作り声のように感情が無かった。

「おばさんには、感謝しているわ。私は、父についても母についても何も知らない。私が知っているのは、おばさんが私を育ててくれたということだけ。

 マイケル・ランバートというのも、私にとっては、遠い名前。でも、素晴らしい人だったのね。おばさんを見ていればわかるわ。マイケルの話をするおばさんは、本当にきれいなんだもの。

 でも、この世で一番大切な人は、私が一番よく知っている人よ。わかるでしょう、エミリーおばさん」

 エミリー・ビクスンは、片方の手をコニーに預けた。動きが鈍かった。まるで、作り物の手のようだ。

 しばらくの間、彼女は黙って、コニーを見ていた。

「時期が来たのでしょう」と彼女は言った。

「マイケルが死んで、もう二十年以上の歳月が流れました。いつかは、こんな日が来るような気がしていました」

 彼女は、しばらくの間、黙って自分の手を見つめていた。

「今日は、朝からマイケルの歌を聴いていました。力が必要でした。自分と戦う力が。

 私の人生は、コニーを抜きにしては考えることができない。私の話を聞いた後、果たして私のコニーは、今まで通りに私を見てくれるでしょうか。……辛い戦いでした」

 沈黙が訪れた。

 コニーは、エミリーと同じ表情で微笑んでいる。

 再びエミリーが話し始めるまで、私にとっては、永遠に近い時が流れた。

 私にとっても、つらい戦いが始まったのだ。

 私は、自分の小説の主題を、実話によって発見することになった。

 悪魔とその帝国。

 エミリーの話の足りない部分は、新聞雑誌で得た知識と、私の『想像力』で補った。

 これは、最初で最後の、私の『作品』でもある。


『私の夫トーマス・ビクスンは、レコードや映画のプロデュースをしていました。

 私達は仲のいい夫婦でした。少なくとも、世間では、そう思われていました。

 夫には、本当の意味での女性に対する関心というものがなかったのです。夫と私とは、何ページにもわたる契約書で結ばれた夫婦だったのです。

 プロダクション所属の歌手や俳優と同じ、私は会社の資産の一部だったのです。

 パーティーでの一流のホステス、社会的信用の基礎となるパートナー、そして、本当のトーマス・ビクスンを隠すカムフラージュとして、夫は私を必要としていたのです。

 大部屋女優だった私には、代償として、上流階級へのパスポートが与えられました。

 夫は、品物を検分するように、私を調べました。

 容貌、体重、プロポーション、衣服のセンス。

 笑顔の一つ一つまで、冷たい目で見回すのです。正直、心臓の凍る思いでした。

 夫の希望で、子供を作ることは、許されませんでした。夫婦とはいっても、形だけのもの。

 彼は、一人の女としての私には、興味も関心もなかったのです。

 餌でした。

 夫は、愛玩動物にエサを与えるように、私にセックスを与えました。

 愛の交歓には程遠い、哀しいほどに索漠とした行為でした。

 残念なことに、私は、夫を、愛していました。

 彼の残酷さ、非情さにも関わらず、彼に惹かれていたのです。乞食のように、彼の愛情を待っていたのです。

 表面的には、何不自由ない平穏な生活でした。夫は、有能なプロデューサーと評されていました。

 異性に対する無関心は、仕事に対する情熱で埋め合わされていました。

 彼の性癖は、まだ、私を含めてごく一部の人間しか知りませんでした。

 ある日、夫は、息せき切って帰宅しました』



私のダーリン(ザ・サンのこと)にも。

ダーリン、毎日毎日ありがとう。

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