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闇に響く声  作者: まきの・えり


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2/3

 時には車、時には飛行機で、私はマイケルを知っている人間を探した。

 アメリカ横断の旅だ。

 行き詰まると、私はステュワートに連絡を取った。

「マイケルは孤児らしいよ。どこで生まれたかわからない」

「………」

「二ヶ月連続で、ナンバーワンヒットを飛ばしている」

「知ってるよ」

「ステュワート、これ以上、無理だよ」

「P&Fカレッジ」

「え?」

「マイケル・ランバートの娘が通っている」

「コンスタンス・ランバート?」

「そうだ」

 私は、不愛想なステュワート・カートに内心毒づきながら、飛行機でカリフォルニアに飛び、ロサンジェルス郊外にあるカレッジに向かった。

 飛行機、この鉄の塊、落ちるなら、調査の後で落ちてくれ。


「こんにちは」とコンスタンス・ランバートが言った。

 世界経済を専攻している才女という印象には、ほど遠い美女だった。

「私がコンスタンス・ランバートですけど、私のおじさんって、あなたなの?」

「は、はじめまして」と私は慌てた。

「その、何か、口実が必要だと思ったもんだから」

 赤褐色の髪に、深いブルーの瞳。

 光線の加減で、その髪は、黄金色に輝いた。父親譲りの美貌だ。

「お父さんにそっくりだね」と私は思わず言った。

「エミリーおばさんみたいなことを言うのね。で、あなたは、誰?」

「あ、僕は、トーマス・ハンスベリー。君のお父さんの記事を集めているんだ」

「トーマスっていうのね。フフ、変なの」

 コンスタンスは、おかしくてたまらないという様子で笑っていた。

 私は、奇妙な思いにとらわれた。

「君は、エミリーおばさんにも、似ているんだね」

「え?」

「ごめん。何でもないんだ。僕の持っているおばさんの写真の雰囲気が、今の君に似ているように思ったもんだから」

「そう? ずっと一緒に暮らしていたからかしら?」

「そうだね」

 私は戸惑っていた。質問されることには、慣れていなかった。

「そうかもしれない。僕の母も、近所のおばさんに似てるんだ。小さい時、一緒に住んでいたから」

「あなたって、変わってるわね」

 彼女はクスクス笑い、私は真っ赤になった。女の子とは、あまり話したことがないのを思い出した。

「エミリーおばさんに会えるかな」

 自分の動揺を隠そうと、私は、話のほこさきを変えた。

「だめよ」彼女は即座に答えた。

「おばさんは忙しいのよ。最近、身体の調子がよくないし、誰にも会いたくないの。それに、昔のことは嫌いなのよ」

「なぜ?」

 コンスタンスは、謎めいた微笑みを浮かべていた。

「さあ、なぜかしら」

 私は、自分が一歩前に踏み出したのを感じた。

「君は、お父さんについて、何を知っているの?」

「何も」

 彼女は、遠い目をして答えた。

「何も」

「知りたいとは思わないの?」

 彼女は、形容不可能な表情を顔に浮かべていた。

「なぜ、父のことを知らなければならないの? なぜ?」

 私は、返答に窮した。

「…だって、自分の父親じゃないか」

「そうね」と彼女は言った。

「そうよね、自分の父親ですものね。知るべきよね」

 彼女は、私に微笑んだ。

「ありがとう、ミスター・ハンスベリー。これで、決心がついたわ。さあ、行きましょう、エミリーおばさんのところへ」

 彼女は、私の手を取り、正直、私は、ドギマギした。


 まるで、映画のワンシーンだった。

 私達は、手に手を取って走っていた。車の中でも、バスの中でも、私は、その現実離れした気分を拭い去ることができなかった。

 はっきり言えば、私は、完全に、夢見心地だったのだ。

 雑誌のグラビアで見たことのある、広大なビクスン・カンパニーの敷地の前で、私はかなりの気おくれを感じていた。

 とてつもなく無謀な戦いをしているように思えたのだ。

「何してるの? こっちよ」

 ウロウロしている私を、彼女は慣れた様子で導いた。

 ガードマンが彼女に会釈し、うさんくさそうに、私を見ていた。

「ミセス・ビクスンのお客様よ」とコンスタンスは、いたずらっぽく言った。

 門が自動的に開いて、閉じた。

「こっちよ」

 私の胸は、慣れないことをしている不安で、押しつぶされそうだった。

「本当に、いいのかな」

「何を言ってるの。始めたのは、あなたよ。おじけづいたんなら、ここから帰ったら?」

 私は、なけなしの勇気を奮い起こした。

 彼女の剣幕に、怖れをなしたのだ。

「今時分に珍しいですね、ミス・ランバート」

 敷地内のビルにも、ガードマンが詰めていた。厳重な警戒ぶりだ。

「もう休暇なのよ、ハリー」

 エレベーターで、最上階まで上がって行った。

 ドアが開いた。

 廊下には、ダークグリーンのカーペットが敷き詰めてある。歩くたびに、靴が沈んだ。

 コンスタンスは、ドアの前に立って、私を見ていた。

 ノックの音が、どこか遠い所から聞こえてくるようだった。




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