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時には車、時には飛行機で、私はマイケルを知っている人間を探した。
アメリカ横断の旅だ。
行き詰まると、私はステュワートに連絡を取った。
「マイケルは孤児らしいよ。どこで生まれたかわからない」
「………」
「二ヶ月連続で、ナンバーワンヒットを飛ばしている」
「知ってるよ」
「ステュワート、これ以上、無理だよ」
「P&Fカレッジ」
「え?」
「マイケル・ランバートの娘が通っている」
「コンスタンス・ランバート?」
「そうだ」
私は、不愛想なステュワート・カートに内心毒づきながら、飛行機でカリフォルニアに飛び、ロサンジェルス郊外にあるカレッジに向かった。
飛行機、この鉄の塊、落ちるなら、調査の後で落ちてくれ。
「こんにちは」とコンスタンス・ランバートが言った。
世界経済を専攻している才女という印象には、ほど遠い美女だった。
「私がコンスタンス・ランバートですけど、私のおじさんって、あなたなの?」
「は、はじめまして」と私は慌てた。
「その、何か、口実が必要だと思ったもんだから」
赤褐色の髪に、深いブルーの瞳。
光線の加減で、その髪は、黄金色に輝いた。父親譲りの美貌だ。
「お父さんにそっくりだね」と私は思わず言った。
「エミリーおばさんみたいなことを言うのね。で、あなたは、誰?」
「あ、僕は、トーマス・ハンスベリー。君のお父さんの記事を集めているんだ」
「トーマスっていうのね。フフ、変なの」
コンスタンスは、おかしくてたまらないという様子で笑っていた。
私は、奇妙な思いにとらわれた。
「君は、エミリーおばさんにも、似ているんだね」
「え?」
「ごめん。何でもないんだ。僕の持っているおばさんの写真の雰囲気が、今の君に似ているように思ったもんだから」
「そう? ずっと一緒に暮らしていたからかしら?」
「そうだね」
私は戸惑っていた。質問されることには、慣れていなかった。
「そうかもしれない。僕の母も、近所のおばさんに似てるんだ。小さい時、一緒に住んでいたから」
「あなたって、変わってるわね」
彼女はクスクス笑い、私は真っ赤になった。女の子とは、あまり話したことがないのを思い出した。
「エミリーおばさんに会えるかな」
自分の動揺を隠そうと、私は、話のほこさきを変えた。
「だめよ」彼女は即座に答えた。
「おばさんは忙しいのよ。最近、身体の調子がよくないし、誰にも会いたくないの。それに、昔のことは嫌いなのよ」
「なぜ?」
コンスタンスは、謎めいた微笑みを浮かべていた。
「さあ、なぜかしら」
私は、自分が一歩前に踏み出したのを感じた。
「君は、お父さんについて、何を知っているの?」
「何も」
彼女は、遠い目をして答えた。
「何も」
「知りたいとは思わないの?」
彼女は、形容不可能な表情を顔に浮かべていた。
「なぜ、父のことを知らなければならないの? なぜ?」
私は、返答に窮した。
「…だって、自分の父親じゃないか」
「そうね」と彼女は言った。
「そうよね、自分の父親ですものね。知るべきよね」
彼女は、私に微笑んだ。
「ありがとう、ミスター・ハンスベリー。これで、決心がついたわ。さあ、行きましょう、エミリーおばさんのところへ」
彼女は、私の手を取り、正直、私は、ドギマギした。
まるで、映画のワンシーンだった。
私達は、手に手を取って走っていた。車の中でも、バスの中でも、私は、その現実離れした気分を拭い去ることができなかった。
はっきり言えば、私は、完全に、夢見心地だったのだ。
雑誌のグラビアで見たことのある、広大なビクスン・カンパニーの敷地の前で、私はかなりの気おくれを感じていた。
とてつもなく無謀な戦いをしているように思えたのだ。
「何してるの? こっちよ」
ウロウロしている私を、彼女は慣れた様子で導いた。
ガードマンが彼女に会釈し、うさんくさそうに、私を見ていた。
「ミセス・ビクスンのお客様よ」とコンスタンスは、いたずらっぽく言った。
門が自動的に開いて、閉じた。
「こっちよ」
私の胸は、慣れないことをしている不安で、押しつぶされそうだった。
「本当に、いいのかな」
「何を言ってるの。始めたのは、あなたよ。おじけづいたんなら、ここから帰ったら?」
私は、なけなしの勇気を奮い起こした。
彼女の剣幕に、怖れをなしたのだ。
「今時分に珍しいですね、ミス・ランバート」
敷地内のビルにも、ガードマンが詰めていた。厳重な警戒ぶりだ。
「もう休暇なのよ、ハリー」
エレベーターで、最上階まで上がって行った。
ドアが開いた。
廊下には、ダークグリーンのカーペットが敷き詰めてある。歩くたびに、靴が沈んだ。
コンスタンスは、ドアの前に立って、私を見ていた。
ノックの音が、どこか遠い所から聞こえてくるようだった。




