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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

闇に沈む野獣

作者: ミミン

「闇に沈む野獣」


田所浩二。


かつては普通の大学生だった彼の人生は、とあるビデオへの出演によって地獄へと突き落とされた。


1999年、浩二にはのどかという名前の彼女がいた。

しかし彼女はある日、突然重い病にかかった。

彼女は貧しい母子家庭で育ち、手術費や治療費を満足に支払えずに容態は日々悪化していった。


浩二は彼女の治療費を稼ぐためにホモビデオへの出演を決意した。学生だった彼が早急にお金を作るにはビデオに出演するしかなかったのだ。


「お前の事は俺が守る、心配すんな。」


浩二はそう言うと彼女を抱き締めた。


そしてビデオに出演し、彼はカメラの前でぎこちなく笑った。ギャラを稼ぐために一生懸命に迫真の演技をし、監督の指示に従った。


「いいよ来いよ!!胸にかけて胸に!!」

「イキスギィ!!ンアーーーーッ!!」


彼のビデオ男優としての素質は開花、圧巻の演技を披露した。


何度かビデオに出演し、ようやく手術費を稼いだ浩二は


「これで彼女を救える!助けられる!」


と安堵した。


しかし彼女の様態は急激に悪化した。

浩二がビデオのギャラを持って病院で入院する彼女の元へと駆けつけると、のどかはちょうど息を引き取っていた。


浩二は青白く冷たくなった彼女の亡骸の前で泣き崩れた。


「俺がもっと早くホモビデオに出演していれば‥!!お前を守ってやれなかった!!俺はなんて無力なんだ‥!!」


浩二はのどかの死と己の無力さに絶望しつつも、長い月日をかけてようやく少しずつ前に進み始めた。



それから10年後の2010年

浩二がビデオに出演した映像はネット上で話題になり、映像は流出、彼の人生は終わりを迎えた。


浩二にはネット民達から「野獣先輩」という名前が付けられ、彼の映像は日本に留まらず世界中に拡散。


掲示板、SNS、動画サイトで彼の顔と声はミームとして消費され、嘲笑の対象となった。


学生時代の友人たちは彼を避け、職場もクビになった。家族からも見捨てられ、彼は家からも追い出した。


「お前なんか…田所家の恥だよ…!」


母親の冷たい言葉が、彼の心に突き刺さった。


「俺がいったい何をしたっていうんだ‥」


鏡に映る自分の顔を見るたび、彼は吐き気を覚えた。

そこには、かつての明るい彼の姿はなく、ただ疲れ果てた亡魂のような男が映るだけだった。


「俺は彼女を救いたかっただけなのに‥」


耐えきれなくなった浩二は、都会を捨て、誰も知らない山奥の集落へと逃げ込んだ。

そこは地図にも載っていないような場所で、山の中に朽ちかけた一軒家がぽつんと佇んでいた。


「ここなら…誰も俺を知らない…ここなら生きていける…」


彼はそう信じたかった。


彼は人目を避け、昼間は畑で最低限の食料を育て、

夜は薄暗い部屋で古いラジオを聴くだけの生活を送った。

電気も水道もない家で、彼はただ生きているだけの存在となった。


時は再び流れ、2025年

彼は未だにネット上の一部でネタにされ続けてはいたが、少しずつブームは去り、野獣先輩の存在を知る人は少なくなりつつあった。


(そろそろ少しだけなら町に買い物に行っても大丈夫だろう‥)


そんなある日、浩二は近くの町で食料を調達していると、若い男が彼を見て目を丸くした。


「うわっ、マジで野獣先輩じゃん! 生きてたんだ!」


男はスマホを取り出し、写真を撮り始めた。浩二は買い物かごを落とし、逃げるように家に戻った。


「やめてくれ…!頼む…もう俺を…見ないでくれ…!」


彼はドアを閉め、床に崩れ落ちた。だが、その日から彼の存在、写真、居場所は再びネット上で大きく拡散された。


Google検索ワードでは常に「野獣先輩」というワードが1位に。「野獣先輩」はかつて無い程の大注目を浴びた。



「野獣先輩が山奥に隠れてるってよ」


「マジ? 見に行こうぜ、面白そうじゃん」


好奇心旺盛な若者やYouTuber達が、面白半分で彼の家を訪れるようになった。


夜な夜な家の周りで笑い声が響き、窓に石が投げ込まれた。


「出てこいよ、野獣先輩! 俺たちにあの迫真の演技を見せてみろよ!」


若者たちの嘲笑が、彼の心を切り裂いた。


「俺は…人間じゃないのか…? ただの…玩具なのか…そっとしておいてくれ‥!」


彼は膝を抱え、暗い部屋の片隅で震え続けた。


毎晩、彼は悪夢にうなされた。

カメラのフラッシュ、嘲笑する声、そして「野獣先輩」という名前が頭の中で響き続ける。


人々に居場所を知られてしまった浩二は夜中に家を飛び出した。

さらに一目がつかない暗い森の奥にあるボロの小屋へと逃げ込んだ。


「もう…終わりたい…」


彼は古いロープを見つめ、何度も首にかけてみた。だが、死ぬ勇気さえ彼にはなかった。


「俺には…生きる勇気も無い…死ぬ勇気もない…」


彼の声は、闇の中でか細く消えた。



そんなある日、家のすぐそばから小さな人の足音が聞こえてきた。


(まさか‥また俺の居場所は見つかってしまったのか‥!?)



浩二は恐る恐る閉めきったカーテンを少し開けて外を覗き込むと、そこには一人の少女が立っていた。ボロボロの服を着た、10歳程度の子だった。


彼と少女は目が合った。


「おじさん…お腹すいた…」


少女は怯えた目で彼を見上げていた。


(ファ!?この顔、どこかのどかに似ている‥!)


浩二は一瞬戸惑ったが、少女のやせ細った姿とのどかの面影を見て、思わず家に招き入れた。


「…少しだけだ。食ったら帰れよ」


彼は冷めたインスタントラーメンとアイスティーを出し、少女に渡した。


少女の名前は真夏。親に捨てられ施設で暮らしていたが、施設内で酷いいじめや虐待を受け続け逃げ出し、何日も前に森に迷い込んだという。


彼女は浩二の過去を知らない。ただ、目の前にいる「おじさん」として彼を見ていた。


「おじさん、ありがとう…。また来てもいい?」


真夏の無垢な笑顔に、浩二の心は一瞬だけ温かくなった。


「…しばらくここにいろよ。」


彼はそう呟き、初めて自分以外のために何かをする意味を感じた。


真夏とのささやかな交流は、彼に希望を与えた。

彼女に読み書きを教え、畑で育てた野菜を一緒に食べる日々。


「真夏、大きくなったらおじさんと結婚する!!」



浩二は真夏に好かれ、幸せな日々を過ごした。

だが、その希望はあまりにも脆かった。



二年の月日が流れ、真夏と浩二が共に山から降りて山菜採りをしていたところを若者達に目撃された事で事態は急変した。


「野獣先輩が子供を誘拐していたらしい!」


「野獣先輩が山で幼女を襲っていたらしい!」


「やばいな!!警察呼ぼうぜ!」


事実無根の噂が広まり、村の人々や野次馬達が彼の家を取り囲んだ。


「出てこい、変態野郎! 子供を返せ!」


「人間のクズがこの野郎!!」


人々の目は冷たく、彼を怪物としか見ていなかった。

怒号と罵声の中、浩二は真夏を抱きしめた。


「おじさんッ!真夏、施設にはもう戻りたくないよ!おじさんとずっと一緒にいたい!!」


「大丈夫だよ、おじさんが絶対に守るから!」


浩二は靴も履かずに裸足で裏口から逃げ出した。

彼女を抱えたまま全力で森の奥へ逃げた。


「おじさん…ごめんね…私のせい…?」


真夏は泣きながら謝った。浩二は首を振った。


「真夏は…悪くないよ。」


村の人々は浩二と真夏を追いかけた。


「待ちやがれこの変態が! 子供に何をした!」


少しずつ縮まる二人と村人達の距離。

それでも浩二は真夏を抱えながら必死に走り続けた。


(今度こそ‥!!今度こそは絶対にお前を守ってみせる!!)


しかし追いかける村の人々の一人が投げた石が浩二の額に当たった。血が滝のように流れ、視界が赤く染まった。

それでも彼は諦めずに必死に走り続けた。


額から大量の血を流し、裸足で真夏を抱えながら走り続けたが、彼の体力は既に限界を超えていた。


倒れた枯れ木に足を引っ掛け、浩二は激しく転倒した。

迫り来る村人達。浩二はもう逃げきれない事を確信し、己の無力さに再び絶望した。


(俺は…また大切な人を、たった1人も守る事ができないのか…いや、今度こそは絶対に守ってみせる…!)


「もう俺は駄目だ‥!真夏…お前だけでも逃げろ!…走れ!!」


真夏は泣きながら森の奥へと走った。


浩二は遠退いていく真夏の背中を見送ると最後の気力で立ち上がり、彼女が逃げる時間を少しでも稼ぐために、あの時のように野獣と化して村人達を食い止めた。


「うおおおおおおおおおおお!!!」


しかし全盛期を過ぎ、疲労で弱り果てた彼が大勢の村人達に敵うわけもなく、あっさりと突き倒され、蹴られ、殴られ、スコップや枝で激しく叩かれ続けた。


彼の体はボロボロになるまで殴られ、叩かれた。


「野獣先輩だろ!? お前みたいな奴は生きてる価値ねえよ!う○こ野郎!!人間のクズが!!」


彼には既に抵抗する気力も残っていなかった。


「俺は…何も…悪いことはしてない…どうしてこんな目に‥ただ、静かに暮らしたかっただけなのに‥」


彼の呟きは、誰にも届かなかった。

全身から流れる血と共に彼の意識は遠のいた。


その後、彼は警察に引き渡されたが証拠不十分で釈放された。

真夏はすぐに保護され、施設に再び送られたという。


「真夏…ごめん…俺はまた何も守れなかった…!」


傷だらけの彼は数週間かけて再び山の奥にあるあの小屋へ戻った。


真夏と一緒に育てた畑の野菜の数々はすっかり枯れ果てていた。

小屋の中の日の当たらない暗い場所で丸く座り込み何日も絶望し続けた。


数日後、浩二は山の奥深くへとよろよろと入っていった。


「俺は…何のために…生きてるんだ…?」


彼はそう呟き、錆びた古いナイフを手に持った。刃先が月明かりに光り、彼の手は震えた。


「もう…いいよな…?」


彼はナイフを自分の腕に押し当てた。


「これで‥やっと楽になれるのな‥」



それから数年後、真夏は施設で成長し、立派な女性へと成長し、施設から離れた。

施設に戻されてからも彼女は酷いいじめを受け続けたが、再び浩二と会う事だけを希望に強く生きていた。


施設を出た彼女は彼を探し続けた。


そしてある日、森の奥で朽ちかけた懐かしい小屋を見つけた。あの時、彼と一緒に住んでいた小屋だった。


「おじさん‥!」


小屋に入るとそこには、浩二が残した一枚のメモがあった。


「真夏へ。あの時、守ってあげられなくてごめん。俺はもういません。どうか強く生きてください。幸せになってください。野獣のおじさんより」


真夏はメモを握りつぶし、大粒の涙を流し泣き崩れた。


「私はあの時、おじさんに救われなければ山の中で餓死していた。私はおじさんに救われた、たくさん守ってもらったのに‥!お礼の言葉も言えずに‥もう会えないなんて‥おじさん、ありがとう…」


真夏は彼との懐かしい思い出を胸に、涙尽きるまで泣き続けた。

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