第16話:宮本玲奈
――こんなの、ズルいよ。
直也が「逢いたくていま」を歌い出した瞬間、胸の奥から何かがこみ上げてきて、私は涙を抑えることができなかった。
歌詞の一つひとつが、まるで直也自身の心を代弁しているようで。
(……サンタローザの丘……)
あの場所で、直也が語った過去を思い出してしまった。
亡くなった母親、そして透子さん。
二人の祈りのような思いが、直也にとっての大きな呪縛となってきたことを知った時の、あの哀しみ。
「もう二度と逢えないことを 知っていたなら〜♪」
あの言葉が、胸に突き刺さる。
きっと直也が“本当に逢いたい”のは、母親と透子さん。
そして、その呪縛を解くかのように、まるで慈母のように直也を抱きしめていた保奈美ちゃんの美しい姿まで脳裏に浮かんできて――涙が止まらなくなった。
(保奈美ちゃん……あなたは、やっぱり特別なんだね)
でも、それでも。
直也の声は私の心にもまっすぐ届いてしまう。
「ねぇ 逢いたい 逢いたい〜♪」
嗚咽が漏れそうになって、必死で唇を噛んだ。
なのに、思い出してしまったのは数日前のあの瞬間――。
米国大統領の演説。
『私は、そのような立派な若者が、米国の同盟国である日本にいることを――心から誇りに思う』
そう言われた直也の姿。
……本当なら、その言葉を一番伝えたいのは、きっと母親と透子さんのはず。
その思いを抱えて歌う直也を思うと、胸が張り裂けそうになった。
(……こんなの、ズルいよ。直也)
私は冷静で、分析的で、誰よりも直也を“知っている”つもりだった。
でも今は、その冷静さなんてどこにもない。
心のすべてを――直也に持っていかれている。
涙でにじむ視界の中で、私はその事実を受け入れるしかなかった。