第15話:新堂亜紀
――反則だよ。
だって、この歌詞。
「初めて〜出会った日のこと 覚〜えて〜ますか〜♪」
「ねぇ逢いたい 逢いたい〜♪」
……こんなの、直也くんが本気で歌ったら、泣かないわけがないじゃない。
気付いたら、涙が頬を伝っていた。
隣の玲奈をちらりと見ると、彼女も同じ。声を押し殺しながら、震えて泣いていた。
(……やっぱりそうだよね、玲奈)
直也くんが“今、本当に逢いたい”のは――きっと、自分の母親。そして、あの透子さん。
先日、あのサンタローザの丘で語られた直也くんの過去。
優しい風が吹いていた、あの丘の光景が蘇ってしまった。
「もう二度と逢えないことを 知っていたなら〜♪」
嗚咽がこぼれた。
だって、この歌はまるで直也くんの心そのものみたいだったから。
マイクを握るその横顔は、観客を意識しているんじゃない。
もっと遠くに――もう手の届かない人に、必死に呼びかけているように見えた。
(直也くん……)
胸が苦しい。
聴いているだけで、心が張り裂けそうになる。
「逢いたい〜逢いたい〜♪」
あの歌声は、私の奥底にしまっていた感情まで一緒に震わせてしまう。
気付いたら、タンバリンを握る手も震えていた。
(……優しい風が吹く、あのサンタローザの丘に、直也くんと一緒にまた行く機会があればいいな……)
涙でにじむ視界の中、私はただその願いを繰り返していた。