親友
今日は金曜。「金曜 女のドラマシリーズ」です。
きっかけは小学校3年の時、授業中に真知子が落した消しゴムが私の足元辺りに転がって、それを拾ってあげた事。
昔から気が小さく、どちらかと言えばグズなあの子は……そういうきっかけが無かったら、気にも留めない存在だったはず……だって消しゴムを手渡した時、あんまりにもビビリンだったから……その様が当時の私の目には『珍獣マスコット』的に映った。
一番最初に真知子を守ったのは、ドッジボールの男子から!
真知子を『犠牲のヤギ』にしようとボールで追い回した奴らを返り討ちにしてやった。
中学の時はテストのたびに世話を焼いた。
真知子は綺麗にノートをとる事で満足しちゃうコだったから、肝心の頭を中は“抜け”だらけで
「ほら! ちゃんとノートには書いてあるでしょ!!」との指摘に終始した。
真知子は相変らずの“陰キャ”で友達も少なかったから、必ず私の“グループ”に入れてあげたけど
「私、美優が友達で居てくれて本当に良かった」と微笑むばかりで……
彼女の事が気掛かりでならなかった。
「私が付いていてあげなきゃ!!」と母を通じて真知子のお母さんを説得して、私が受験する女子大付属高を彼女にも受験させた。
幸い真知子は補欠合格で、一緒の高校へ進学できた。
ところが、アルバイトは禁止!男子との浮いた話はご法度の有名女子高で、事もあろうに真知子は……隠れてやっていたアルバイト先の男の子と噂になった。
ちょうど私、生徒会長だったから……
「私のお友達にあらぬ噂を立てないで!!」とボヤになる前に消し止めたけれど……
あの子のカレシの事では他にも散々!!
あの子の『初めての人』はろくでもなかったし、それからのオトコ関係は相当乱れていた様だし……
あの子、女子大には内部進学したのだけど、大学生になってもそんな素行が止まなかったので……この就職難の折でも、さすがにお父様のコネを使うのは躊躇われた。
結局、真知子は、せっかく出た“有名女子大”の学歴をふいにするような会社に就職した。
それでも、私は彼女を見捨てずに事あるごとに連れ出し、私の知人へ紹介した。
「私の親友なの!!」って……
それなのに!!!!
寄りのも寄って!!
私のダンナに手を出すなんて!!
こんなにもしてあげた私になんの恨みがあると言うの??!!
◇◇◇◇◇◇
美優と初めて話したのは小3の時。
「これ!あなたのよね!」と消しゴムを突きつけられた時は、睨まれているみたいで怖かった。
その頃から美優は“お嬢様”で……事あるごとに呼び付けられた私は侍女みたいな立ち位置になってしまって……美優の目の届かないところでよくいじめられた。
いつだったかドッジボールの的にされた時は、美優が逆ギレして男の子達にボールをぶつけたものだから……その日の帰り道に待ち伏せされた男の子達の集団に取り押さえられて、私はスカートの中に手を突っ込まれて『ずり下ろされた』
これが私の受けた最初の凌辱で……こんな事、誰にも言えなかった。
中学になってからは、二人でよくテスト勉強をした。
まだコピー機でコピーする時代だったけど、美優は私のノートを見る端から覚えていくと言う頭の良さで、自分の必要な個所だけ携帯で写真を撮っていた。
こうして覚えて行った事を咀嚼して「ここはテストに出そうだから」と私に教えてくれた。
こんな効率の良いテスト勉強は他には無いので、私は授業中に全部を理解しようはせずに専らノートをとる事に努め、結果、そこそこの成績を収めた。
ただ、厄介な事が起こった。
美優がウチの母を説得し、私は有名私立の女子高を受験する事になってしまった。
有名私立ともなると、学校納付金から始まって寄付金などなど、授業料以外にも大変な金額が掛かる。
幸いと言うか入試は「ダメだった」と言う手ごたえだったのに!!
私は補欠合格してしまい、やむなく進学、そして女子大へと……
元より裕福な家の生まれでは無い私は、高校大学と奨学金を利用したのだけれど、その返済額たるや……
とても“お遊びのバイト”では返せる額では無いので、高校時代から際どいバイトに手を出した。一度、クラスメイトにバレそうになった時には美優に助けてもらったけれど……
その当時
美優には恩を感じながらも、もっと楽な高校生活を送りたいと願ったものだ。
「美優はお嬢様だから仕方ない。悪気は無いのだから」
そう自分に言い聞かせたのは、彼女が初めて恋に落ちた時!
心の内の吐露したがっているに違いない彼女の瞳を見るたびに……適当に話を合わせる器用さを持ち合わせていない私は、無理無理つまらないオトコに自分の“初めて”を投げ出した挙句、随分と酷い“仕込まれ方”をされた。
美優がオトコと別れると聞き、こちらもソッコーでオトコと縁を切って身入りの良いバイトに本格的に手を出した。
この地味な顔立ちもやりようによっては化粧映えがしたし、何よりその手の仕事では有効な“胸”に私は恵まれていたから……
この私の特性を、私は自分の為だけに使っていたわけではない……一種の消去法で、私はそれとなく美優のお相手の“開拓”をしてあげた。
私になびく男共とは違う世界の男を見つけるべく。
美優が華やかなOL生活を僅か3年で辞め“玉の輿”というステージに進んだ頃、私は返済金額を三分の一に減らしていた。
もう少しの辛抱で、人並みの人生に辿り着ける。
そう思った矢先、母が転倒事故で車いす生活となってしまった。
母は元々が気弱な性格で、父も頼りにはならない。
今の会社は家からも遠く、介護との両立は難しい……さりとて資格など何も持たない私では……
会社にナイショの仕事は
まだまだ止められそうにない。
私の心をモクモクと暗雲が立ち込める。
そんな時に限って
「ウチのダンナが浮気している!!意趣返ししたい!!」
と美優から喚きと怒りの電話が掛かって来た。
私が厳選して段取りしたあのカレがそんな事をする訳は無いと思ってはいたが……美優とはあまり関わりたくなかったので、後腐れ無さそうなオトコを適当に紹介しておいた。
◇◇◇◇◇◇
「この見慣れない番号は嫌な予感しかしない」
そう思ったのにリダイヤルをタップしてしまった。
出たのは聞き覚えのある声
美優のダンナ……
長い話はしたくなかったので、遅い時間のホテルのラウンジでカレと待ち合わせた。
二人のコーヒーカップの真ん中に置かれた数枚の写真には……良く見知っている女と“過去に一度だけまぐわった”男が仲睦まじく写っている
「すべて私が悪いんです!! ほんの冗談のつもりだったんです!! まさか本当に!!」
心と裏腹の言葉に添えて涙を流すと、ハンドバッグから私のを出すより早くカレのハンカチが顔に当てられた。
「失礼! 女性が泣くのを見ていられなくて……」
「でしたら、美優の……奥様の涙も見ないで居てあげて下さい」
「……そうはしたいが……私も男だ!!」
思わず声を震わせるカレに私はこんな言葉をあげた。
「こんな不遜な物言いをどうかお許しください! そのお心の無念を美優に代わって私がお受けします。 もちろん、私なぞは“掃いて捨てる女”ですから……あなたは髪の毛1本ですら汚れる事はございません」
時刻は夜10時
ホテルのラウンジは間もなく引ける……行く先は、もう“上の”フロアーしか無かった。
翌朝……
美優に義理立てするつもりはさらさら無かったけど、高嶺の“華”と憧れていたカレとこんな形で同衾してしまったのはカレに対して本当に申し訳なく思えた。
だから私は「私との事はどうか忘れてください!!」と今までの私の行状を包み隠さずに告白した。
そしたらカレは
「罪深いオレの心をこんな風に軽くしようとしてくれるキミをもう手放せない!!」
と私を抱き上げてくれた。
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美優は根っからのお嬢様気質だ。
オトコに傅かれる事に慣れてしまうと、それ無しには居られなくなり……結果として、彼女は全てを失った。
美優と離婚した康則さんは、
「5年間、真知子だけを愛し慈しみ続けた」との言葉に添えて、私の左の薬指に、美優が捨てた物より素敵な指輪を贈ってくれた。
私はこう思う。
「お金さえあれば、噓なんていくらでも付く事ができる。 でもそれでいい。私は借金から完全に自由になれたし、その恩義で私はカレに尽くすことができる。私の全てで……」
それにもしこの先……カレが不実を犯す事が有ったら……その時はお金でカタを付ける。
だって! お金は嘘を付かないから……
それはそれで……楽しみだ。
そうなったら……
お互いを憎み合いながら……
美優とお酒が飲めるかな
だって私達
親友なんだから。
おしまい
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