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第1話 『うんこしたら『異世界転移』して美少女に会った』

 光が止む。


 空気椅子。

 

 確かに出したはずだ。

 なのに。


 腹痛が続いていた。


 「くっ! ここは!?」


 俺は状況確認のために周囲を見渡す。

 ぐるぐる言ってるお腹を押さえ、その場にズボンを下ろしてしゃがみ込みながら。


 「くそ! 森の中じゃねぇか!」


 見事に森。

 びっくりするほどの森林。

 マイナスイオン。

 

 「トイレ・・・トイレはないのかぁ」


 自分でも情けない声だと思う。

 大の大人が。

 36才にもなるおっさんが腹を押さえてトイレが無いことに絶望する。


 くそ!

 野グソなんてガキの頃以来だ!

 くそ!

 うんこだけに!

 やかましいわ!


 俺は痛みで変なことを考えてる事に絶望しながら、諦めてこの場所でうんこをする覚悟を決めた。

 

 和式便所でするのが苦手だった俺が、この体勢で糞をするなんて!


 「ぐぬぅおおおおっ!」


 痛みは酷くなる一方。

 なりふりなんて構ってられない。

 息む。

 と。


 ぽんっ!


 「ふおっ!?」


 今回はあっさり出た。

 が。


 「あれ~?」


 景色が回りはじめた。

 ぐにゃぐにゃと回る世界でなんとか葉っぱをちぎって尻を拭く。 

 なんとか立ち上がってズボンを上げた。


 「あ」


 途端に力が抜ける。

 うつ伏せに倒れ込む。


 なになになに?

 なんで!?


 俺は立ち上がろうともがくが、体を仰向けにするので限界だった。


 ものすごい眠気。


 空はあんなにも晴れ渡って青空が広がっているのに。


 「・・・あぁ。 きっもちわる」


 と、回る視界の端で何かがにょきにょきと伸びているのが見えた。


 なんとかその方向に視線を送ると、そこは先ほど俺がうんこをしたところだった。

 うんこもしっかりある。

 しかし、そのうんこの下にあった雑草が急成長を始めていた。

 伸びていたのは雑草の茎。

 どんどん増えていく葉。

 心なしかキラキラと輝いている。


 回らない頭で考える。

 まさか、俺のうんこで成長してる?


 なんてバカなことを考えていると限界がきた。


 「大丈夫ですか!?」


 落ちていく意識の中に声が聞こえた。

 可愛らしい女性の声。

 焦ったような声音。


 なんとか目蓋を開ける。


 霞む視界。

 青い空を遮るように黒いとんがり帽子を被った、空と同じ綺麗な青色の髪で黒いローブ姿の少女が俺を覗き込んでいるのが見えた。

 視界が霞んでいるため、顔は良く見えない。

 

 もう、げん・・・かい。


 意識が落ちた。


 ○


 「はっ!」


 目を覚ます。

 体を起こす。


 ベッド?


 周囲を見渡す。

 木造建築の、RPGとかに良く出てくる一階建ての一軒家。

 ボロボロですきま風が吹き込んだり、クモの巣が張っていたりしているおんぼろ住宅だった。

 部屋の広さは12畳と言った所だろうか?

 ワンルームとなっていて台所も玄関も全てが一つの部屋に集まっていた。

 あっちの扉はトイレだろうか? もうひとつ扉があるが風呂か?

 と、こちらに背を向ながら中心の丸テーブル前の椅子に座り、本を呼んでいる少女で目が止まった。

 俺の事を何度も確認してくれていたのだろう、振り返った美少女と目があった


 「おや? 目が覚めましたか?」


 ゆったりとした優しく可愛らしい声で俺に聞いてくる美少女。

 黒いとんがり帽子を被り、黒いローブに身を包んだ魔法使いのような少女だった。

 年は、中学生くらいだろうか?

 ジト目のような無気力な青い目が特徴的で、色白。 透明感のある肌と整った相貌が彼女を美少女足らしめている。

 初めて見る空のように青く、腰下まで落ちる大きな三つ編みの美しい髪にここが異世界なのだと実感する。

 

 俺は、状況を確認することにした。


 「ここは・・・」


 「私の家です」


 彼女はテーブルに乗っていたコップを持ってきた。

 

 「そ、そうか。 助けてくれたのか?」


 「まぁ、放っておけなかったので。 飲めますか? おそらく、『魔素』の欠乏症だと思いますのでこのマジックポーションで元気になると思います」


 俺はコップを受け取る。

 よく見るとちょっと紫がかった飲み物だった。


 「・・・マジックポーション」


 早速『異世界』の物を見ることができて内心喜ぶ。


 『ポーション』。

 前の世界で言えば有名な回復薬だ。

 飲んだことのない物のため少し抵抗感があるが。


 よし。


 俺にはどうせ失うものはないのだ。

 思いきって挑戦してやろう!


 「いただきます!」


 一息に口をつけ、飲み込む。

 お。


 「うまい! これは、ぶどう?」


 口に広がる赤ワインのような風味と苦味。

 赤ワインも嫌いではなかったから、とても美味しく感じた。


 「はい。 普通のマジックポーションは無味無臭で苦いだけですので味をつけてみました」


 「よくわからんがいいな! うまい!」


 残りをがぶ飲みする。


 「うおっ!」


 力が漲ってきた。

 今ならなんでも出来そうだ。


 「効いたようですね。 良かったです」


 ゆったりとした話し方。


 よし。

 まずは自己紹介だな。

 

 「えと、俺は埴岡(はにおか) 幸彦(ゆきひこ)と言う。 幸彦で良い。 年は36。 そちらは?」


 俺からコップを受け取った少女が、ゆったりと話し始めた。


 「私は『ソフィア・ロクサーヌ』です。 ソフィアで構いませんよ。 年は、21歳になりますかね?」


 「え、21!?」


 見た目との差に思わず驚く。


 「む。 ちっちゃくてわるかったですね。 ドワーフの血が混ざってますのでこれが限界なんですよ」


 ドワーフ!?

 いるのかこの世界にはドワーフが!?


 おっとと、唇をとんがらせているのを見るに怒らせてしまったようだ。

 失礼だったな。


 「あぁ。 失礼だった。 すまない」


 「まぁ、良いですけど。 そう言われるのは慣れてますので。 さぁ、体調が戻ったのならそこに置いてあるご飯を食べてください。 貴方を見つける前に用意していた物なので冷えてますが。 『魔素』は食事でも補充できますのでしっかり食べてくださいね」


 ため息を着いた後、コップを台所に持っていくソフィアと名乗った美少女。

 彼女が去り際に目を向けた先にあった丸テーブルには白いご飯と味噌汁。 野菜炒めが置いてあった。

 ずいぶんと和風なことに驚いたが、良い匂いに腹が鳴った。

 立ち上がって椅子に座る。

 食具は箸だ。

 慣れ親しんだ物で食事できるのは嬉しいな。


 「いただきます!」


 「どうぞ」


 言いながら戻ってきたソフィアさんの手にはぬるいお茶が入ったコップがあった。

 

 「こちらも」


 「ありがとうございます」


 「いえ」


 俺の対面に座るソフィアさん。


 俺は早速味噌汁に、口を着けた。


 「うまい」


 冷えてしまってはいるが、うまい。

 具材は葉野菜だけだが、魚介の出汁がしっかり出ていてとても美味しい。


 白米も1口食べる。


 「おぉ・・・」


 冷たく、前の世界ほどではなかったが、噛む度にしっかり甘さが広がった。

 うまい。


 続けて野菜炒め。


 「うっま」


 これも冷たくなっているし、味付けも塩のみなのだろう。

 だが、野菜が新鮮なのかしゃきしゃきで甘く、塩加減も良い感じでうまい。


 「・・・美味しそうに食べますね」


 「いや、美味しいんで。 それに、ご飯食べるのが好きなんで」


 「そうですか。 喉つまりは気を付けてくださいね」


 「ありがとう」


 俺はお茶を飲む。

 ぬるいがこれは・・・。


 「・・・麦茶?」


 「はい。 緑茶は高いので」


 「いや、俺は食事には麦茶が恋しくなるんでな。 嬉しいですよ」


 「そう・・・ですか?」


 「そうそう。 いや~。 うまい」


 俺は食事の手が止まらずあっという間に平らげてしまった。


 「ご馳走さまでした!」

 

 「お粗末様です」


 「いやいや! お粗末なんて事はないぜ! めっちゃうまかったわ!」


 「・・・そうですか。 それはよかったです」


 一瞬固まって俺を見つめてきたがなんだったのか。

 

 いや、しかし。

 こんなに良くしてくれるなんて。


 「えっと・・・ソフィアさん?」


 俺のお皿を片付けようとしているソフィアさんに声をかける。


 「片付けくらいやります」


 「いいです。 あなたは病人なのでベッドに戻ってください」


 「いやいやいや! 見た感じあれはソフィアさんのベッドですよね!? それに、あんまり言いたかないけど俺はいい年のおっさんだ! ほいほいとベッドにいれちゃダメだろ!」


 「・・・? なぜですか?」


 本当にわかっていないのか?


 「いや、俺男! 君は可愛い女の子だ! もっと警戒心を持ちなさい!」


 おっさんの面倒くさい説教を始めてしまいそうになる。


 「ですが、あなたは倒れてましたよね?」


 「だとしても、俺みたいなおっさんに良くする理由がないだろ!」


 そう、放っておけばいいのだ。

 それが一番自衛に繋がる。

 俺みたいな身元不明のおっさんは切り捨てるべきなのだ。


 助けて貰ったことはとても嬉しいが、俺なんかを助けたところで彼女にメリットは無いはずなのだから。


 俺の言葉を聞いて顎に人差し指を当てて「んー・・・」と悩んだ後、彼女は無気力な青い瞳で俺を射貫きながら。

 

 

 「誰かを助けるのに理由がいりますか?」



 と、某RPGの主人公みたいなことを言った。

 しかし、彼女はそれを知らないはずだ。

 つまり、今の言葉は彼女の本心の言葉。


 ソフィアさんの優しさを知る言葉だった。



 「すごく良い人だ! 感動した! あんたは恩人だぜ!」



 こんな良い人がいるなんて、感動だ!

 前の世界ではこんなに良い人に巡り合えるのなんて奇跡だからな!

 思わず涙ぐむ。


 俺のテンションに若干引き気味のソフィアさん。

 まぁ、おっさんが涙ぐんで恩人だぜ! とか言い出したらそりぁ引くわな。


 ふと、1度ため息を吐いたソフィアさんがひび割れた窓から外を見た。


 「良い人・・・。 そうですね、だからこんな所に住んでるんですけどね」


 無気力な目で遠くを見ながら呟く。


 ・・・訳ありか?


 まぁ、今日会ったばかりの俺が聞くべきではないか。

 誰にだって触れられたくない過去がある訳だし。


 よし。


 一食一飯の恩義だ。

 貰ったものはしっかり返す。


 人が自然の恵みを貰って食べて力にした後、うんこにして自然に返して力にして貰うように。


 礼には礼を返すように。


 恩人には恩を返すとしよう。


 「よし、して貰ったからには何かお返しをさせてくれ! 俺に出来ることはないか? 何でもやるぞ! 掃除、洗濯、ご飯の準備。 何でもこいだ!」


 一人暮らし18年の家事力をなめるな。


 「・・・お返しですか?」


 「おう! して貰ったらお返ししないとな!」


 俺の返答に固まる。

 そんな変なことを言っただろうか?


 「・・・そうですか。 では、そうですね。 お昼は食べたばかりですし、お掃除でもお願いしようかな」


 目を泳がせて色々考えた後、そんな可愛いお願いをしてきた。


 掃除は俺の得意分野だ!


 「おう! まかせろ!」


 「では、私は『調合室』に籠りますので、お願いします」


 言いながらテーブルに置いてあった草をもって奥の部屋に行こうとする。

 あっちの扉は『調合室』という部屋だったのか。


 ん?

 ソフィアさんが持っているあの草。

 心なしか輝いて見える草。


 見覚えがあった。


 そう、あの、俺がうんこした所でめっちゃ成長した草である。


 「それって・・・」


 俺が草を指差して声をかけた途端、ぐるんと首を回してこちらを見る。

 うわっ! ビックリしたぁ!


 ずんずんとこちらにやって来る。


 「わかりますか!? こちらはポーションを作るために用いられる『下級薬草』です! なのですが!」


 どんどん近づいてくる。  

 無気力だった目がかっぴらかれてキラッキラッしてる。

 話し方も饒舌だ。

 先ほどまでのゆったりした雰囲気はどこへ?

 俺の目の前にたどり着いて、ばっと自慢げに『下級薬草』とやらを掲げながら話を続ける。


 「これほどまでに立派に育った『下級薬草』は久しぶりに見ました! 見てくださいこの大きさ! 立派な幹に、美しい色の葉! これは間違いなくハイクオリティの『下級薬草』です!! これを使えばノーマルの下級ポーションから抜け出し、ハイクオリティの下級ポーションを作ることが出きるんですよ!」


 「お、おう」


 圧にたじろぐ。

 おそらく、薬草かポーション作りか、はたまたどちらもかは分からないが、とにかく大好きなのだろう。

 好きなものを語るオタクの目をしている。


 さっきのマジックポーションも自分で作ったみたいな話をしていたな?

 そういえば。


 さて、気になるのはその『ハイクオリティ』の『下級薬草』とやら。


 「ちなみにそれはどこで?」


 恐る恐る問う。


 「え? 倒れてたあなたのすぐ近くですよ?」


 「おぉ・・・」


 やっぱりかぁああ!

 言えない!

 俺のうんこで育ったなんで絶対に言えない!


 「『魔素』が変な集まり方をしていたのを感じたので薬草採取のついでに見に行ったら、あなたと、この『下級薬草』があったのです」


 「な、なるほど」


 「では! 次こそ、調合に入りますのでお掃除をお願いしますね!」

 

 満足そうな笑みを浮かべた後、振り返って嬉しさが伝わってくるような足取りで奥の部屋に向かっていく。

 可愛い人だな。


 「了解!」


 と、俺が言い終える前には、部屋に籠ってしまった。


 よ、よし!

 とりあえず掃除だ掃除!


 落ち着いて部屋を見回すと、うーむ汚い。


 散らばったゴミ。

 カビ。

 蜘蛛の巣。

 舞う埃。

 少量ではあるが雑多に積み上げられた本。

 水に浸けたままの食器類。


 これはやりがいがありそうだ!

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