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最終話 『うんこしたら異世界スローライフを手に入れた』

 街を出てしばらく歩き続けた。

 日はすっかり落ちて夜。

 森の中、ほんの少しだけかけた綺麗な月が道を照らしていた。


 荷車を引く俺。

 荷車の上で、小窓から空を見上げるソフィアさん。

 俺たちの横をウズメさんを抱えながら真剣な顔で歩くイグニスさん。

 抱えられたウズメさんの両目は諦めを孕んでいた。


 「・・・ハニオカさん。  そろそろ、答えを聞いても良いですか?」


 後ろのソフィアさんに問われる。


 答え。


 それは、ソフィアさんから一緒に働いて欲しいと言う提案への答えだ。


 答えは決めている。

 あの時も言おうとはした。


 だが、こうして改めて言うとなると不安がよぎる。


 「ソフィアさん。 俺は『異世界人』だ」


 不安を口に出す。


 「知ってます」


 「歳は36歳で良い年したおっさんだ」


 止まらない。


 「分かってます。 年上も素敵です」


 「・・・俺は、頑固だ」


 止められない。


 「それは私も同じです。 義理堅い所も同じですよね?」


 「だが、ソフィアさんのように優しくはない」


 だって俺はおっさんでこの世界の人じゃない。


 「ふふっ。 あんなに一生懸命私を助けてくれたあなたが優しくないわけ無いじゃないですか」


 「・・・あれは、ソフィアさんだからだ」


 「ふふっ。 嬉しいですが、ハニオカさんは村人も助けてます。 あなたは皆に優しいですよ」


 「・・・だが、俺は、『清め人』だ。 だから」


 何かに巻き込んでしまうかもしれないし。

 俺がいることでなにか迷惑がかかってしまうかもしれない。


 「今日みたいに『穢れ人』との事に巻き込まれるかもしれないですか? 上等ですよ。 大切な人が知らないところで居なくなってしまうより何倍も良いです」


 「俺は、ポーション作りで役に立てないぞ?」


 迷惑ばかりかけて、彼女の仕事で役に立てなかったらいよいよ立ち直れない。


 「なに言ってるんですか、ろ過装置を作り、『肥料』を作り、薬草探しにも一緒に行ってくれる。 これ以上に役立つ人が居てたまりますか。 それに私は、役に立つとかそう言うの以前にハニオカさんと一緒にお店に立った事が楽しかったんですよ」


 俺が何を言っても肯定してくれるソフィアさん。


 「・・・えと」


 「ハニオカさん。 はっきり言ってください。 あなたがはっきり言わないなら私が先に言いたい事を言いますよ?」


 「え?」


 「良いですか? 私は貴方と一緒に居たいんです。 貴方が貴方自身の事をあまりよく思っていないのはこのひと月でよく分かりました」


 「それは、ソフィアさんもだろ?」


 「えぇ、そうです。 私とハニオカさんは似ています。 だから私は、ハニオカさんが良い」


 足を止めて振り返る。

 俺を見下ろす、月明かりに照らされた優しい微笑み。


 心臓が跳ねる。


 

 「年上で、頑固で、義理堅くて、優しくて、私なんかの為に一生懸命になってくれる。 一緒にいて楽しくて暖かい気持ちになれる。 そんな貴方だから一緒に居たいんですよ」



 心が洗われるようだった。

 

 俺に、ここまで優しい言葉を掛けてくれる人が居ただろうか。

 父も母も幼い頃に離婚し、母の再婚相手からひどい仕打ちを受けた。

 逃げるように施設に入り、育てて貰ったが、ここまで俺ひとりの為に優しい言葉を掛けてくれた人は『あの人』くらいだった。

 学校内では目立つこともなく、人を信じることが苦手だった俺は友達もほとんど作れなかった。

 社会に出るといよいよひとりだ。

 真面目に働いたところで誰からも評価されないのが当たり前の社会。

 ひとりで孤独に過ごすだけだった。

 気がつけば36にもなって、独身。

 孤独はますばかりで、行き詰りを感じていた。


 そんな、何もない。

 特徴どころか特技だって無かった。


 そんな俺を彼女は認めてくれた。


 女神から貰った『土の加護』ではなく。

 俺の性格と行動を認めて、ともに居た時間を喜んでくれた。


 あぁ。

 こんな人と一緒にこの世界を生きられたらどれだけ幸せか。


 俺は、頭を下げる。

 多分この先も、ソフィアさんには何度も頭を下げるだろう。



 だけど、俺はソフィアさんと一緒に居たい。



 「ソフィアさん。 ふつつか者ですが末永くよろしくお願いします」


 「・・・ふふっ、なんですかそれ」


 顔を上げる。

 その先にいるのだ。

 涙目で、頬を赤らめながら、嬉しそうに笑う。


 月明かりに照らされた美しい女性が。


 彼女の優しさと言う美しさがこの先も続くように支えていきたい。

 そう、思ったのだった。


 「良いねぇー。 熱いねぇー。」


 遠い目のウズメさんがちゃちゃを入れてきた。


 「な! やめてください!」


 ソフィアさんが慌てる。


 「ね? イグニスちゃん?」

 

 イグニスさんは空を見ていた。


 「ウズメ・・・」


 どうやら俺たちの会話は聞こえていなかったらしい。

 月を見上げながらウズメさんの名前を呼んでいた。


 「ん? なに?」



 「月が、綺麗だな」



 「あははっ! なに? 愛の告白? 死んでも良いわってね!」



 ・・・なんだって?


 「あぁ、すまない。 そう言うつもりじゃなかった。 ふんっ。 でも、私の気持ちは分かっているだろ?」


 「それはこっちの台詞だよ。 わざわざ言葉にしなくても伝わってるでしょ?」


 「ウズメ」


 「イグニスちゃん? 人が見てるよ?」


 「・・・わかってる。 でも、今日のは少し怖かったんだ」


 「あははっ! 甘えたいのは私じゃなくてイグニスちゃんだったか!」


 「次こそ、貴女に無茶はさせないわ。 必ず守ってみせるから」


 「うん。 でも、イグニスちゃんを守るのは私の役目だからね」


 甘い雰囲気。

 って、ちょっと待て!


 2人がそう言う関係なのはこの際どうでも良い。

 誰が誰を好きになろうが関係ない。


 しかし。


 「え? 今の月が綺麗ねってやつのくだり、この世界にもあるの?」


 俺が2人に問う。

 ウズメさんが俺を見る。


 「まぁ、『レイノ王国』『初代国王』は『清め人』で、その人のラブロマンスはオリエント大陸では、有名な『恋愛小説』になってるからね? タイトルは確か『業火』だったかな? その中にあるんだよ、このくだり」


 俺は、ソフィアさんの家を掃除した時の本を思い出す。

 あの中に『業火』と言う本があったような気がする。


 と、言うことは。


 俺はソフィアさんを見る。


 顔が少し赤かったがすましたような表情だった。


 「あの、あの夜の話って」


 俺が意を決して真意を問う。

 が。


 「・・・どうでしょうね?」


 それだけ言って荷車の中に戻ろうとする。


 「ちょっと待ってくれよ! ずるいぞ!」


 小窓の扉に手を掛けて俺を見る。

 べっと小さい舌を出して言うのだ。


 「いつものお返しです」


 なんて、悪戯な笑顔で。


 「ソフィアさん!」


 パタンと絞められた小窓に俺の叫びが遮られてしまった。


 ○


 あの後、イグニスさんとウズメさんは俺たちを送り届けたあと『王都』に戻っていった。

 ソフィアさんの月が綺麗ですねの話は結局あやふやになったままだ。


 家に着いたソフィアさんは、荷車から降りると疲れたとそそくさと家の中に入っていった。

 俺もさすがに疲れがあって荷車の中ですぐに眠りに落ちたのだった。


 その日は、なんだか不思議な夢を見た。

 ソフィアさんとイグニスさん、ウズメさんとともに暮らしていて、他にも見たことの無い人たちと一緒に美味しいものを食べていた。

 そこに、『天の使い』を名乗る女の子がやって来て悪魔を倒しに全員が連れてかれるのだ。

 多分、前の世界の記憶とこの世界の記憶がごっちゃになった夢だったのだろう。

 だけど、楽しい夢だった気がする。

 

 目を覚ました俺は、この日からソフィアさんと2人で『スタジオ・ソフィア』の営業を本格的に始動した。


 借金はもう無いのだ。

 ウズメさんに注意された『神水』を使わないように気を付けながらソフィアさんがポーションを作り、出来たポーションは周辺の村や町に売り歩いた。

 そして、売り続けたことで話題になったのだろう、工房に買いに来る人が出てきたのだ。

 俺は土の『魔術』を使って、ソフィアさんが住んでいた家と工房を繋げるように家を改築した。

 元々の家の中を整えて店にして、看板もそっちに移した。

 そうして店を始めると、これが中々良い勢いで売れていく。

 あっという間に毎月の生活には困らず、少し良いものを食べたり買ったりすることが出来るようになった。


 しばらくしてイグニスさんとウズメさんが訪れた。

 顔を見に来てくれたのだ。

 あれから『穢れ人』や『領主』は不気味なほどおとなしくしているらしく、尻尾をつかめないでいるのだと言う。

 そして、2人は俺たちに1つ仕事の依頼に来たのだ。

 それは、ソフィアさん特性のポーションを毎月規定数作ってくれと言う依頼。

 報酬は、相場の2倍。

 とりあえずこの依頼をこなすだけで生活に支障が出なくなる額だった。

 この依頼を受けてくれるなら、前金として今ソフィアさんが使っている土地を正式にソフィアさんの土地にすると言う破格の条件付きだ。

 人によっては脅しに見えるかもしれないが、ソフィアさんはこの家に思い入れがあるらしく、断る理由もないため快く了承した。

 イグニスさんとウズメさんが持ってきてくれた依頼のおかげで、食べるのに困ることはなくなりそうだ。


 と、言うことで今は毎月の納品までに規定数を作る事、店や外で売る物を作る事を中心に生活が回っている。

 薬草が切れそうになったら2人で採りに行き、余裕がある時には町まで出掛けたり、イグニスさんとウズメさんを含めた『哨戒班』の面子が遊びに来たら一緒に話したり、酒を飲んだり。

 何もない日は夕方まで寝たり。


 まさしく、異世界スローライフを送ることが出来ているのだった。


 なんだかんだとあっという間に3ヶ月が過ぎた頃。


 「ハニオカさん?」


 村でポーションを売ったその帰り道。


 「んー?」


 いつもの通り俺が荷車を引いて、ソフィアさんが小窓から話しかけてくる。


 「私、今、幸せです」


 「そりゃあ、何よりだ」


 「えぇ、本当にあの時死ななくてよかった。 思えば、ハニオカさんが来てから本当に幸せなんですよ」


 「はははっ! でも、多分それはソフィアさんが毎日真面目に生きてきたからだろ?」


 「え?」


 「神様が見てたんだよ。 俺があの場所に飛ばされたのはきっと君の助けになるためだ」


 「前も聞いた気がします」


 「あぁ、でも、最近は俺も幸せなんだ」


 「・・・え」


 「夢のような生活だぜ? 幸せじゃないわけがない。 だからだろうな」


 俺は足を止めて夕日を見る。


 「最近は、神様は俺も救ってくれたんじゃないかなって思ってるんだ」


 「神様がですか?」


 「あぁ。 いや、ソフィアさんほど真面目に生きてきたわけじゃないけどさ? でも、俺の事を救ってくれようとした気まぐれな神様がいたんだろうなって思ってる」


 「あ、最近おトイレを綺麗にしてるのってそう言うことですか?」


 「見られてたか」


 「ふふっ。 なんで、トイレをあんなに綺麗にしてるんだろうなって思ってました」


 「まぁ、そう言うことだよ。 俺は『便所神』にこの世界へ送って貰ったんだ。 だったら、礼として自分家のトイレくらいは綺麗にしておきたいじゃねぇか」


 「まぁ、素敵な心がけだと思いますよ。 私もおトイレは綺麗にしてましたしね」


 俺は荷車を再度引き始める。

 後ろのソフィアさんは、夕日を眺めていた。


 沈黙。


 「ソフィアさん、いつもありがとうな」


 「それはこっちの台詞ですよ、ユキヒコさん」


 「え!?」


 俺は慌てて振り返る。

 夕日で照らされたソフィアさんの頬が少し赤くなっていた。


 「・・・もう、4ヶ月も一緒にいるんですよ? 友達なのに貴方だけ名前呼びなんて不公平です。 ・・・嫌でしたか?」


 顔を夕日に向けたままチラッとこっちを見るソフィアさん。

 照れているのだろう。


 「全く嫌じゃない。 嬉しいよ」


 「・・・良かったです」


 嬉しそうなソフィアさん。

 


 美しい夕日。

 素敵な人。

 素晴らしい仕事。

 楽しい毎日。



 「あぁ、本当にあの日、うんこしてよかった~!」



 「な!? 全部台無しです! 最低です!」


 「はっはっは! 帰るぞ!」


 「もう!!」


 怒ったソフィアさんを乗せた荷車を引いて、我が家に帰るのだった。

これにて終わりです!

お付き合いありがとうございました!


皆様の反応は励みです!

本当に、ありがとうございます!

もし、少しでも良かったなと思って頂けましたら、評価等の反応をよろしくお願いします!

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