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第13話 『大便の女神に『土の加護』を貰ったので『友達』を守ります』

 「・・・『穢れ人』」


 俺は思わず呟く。

 

 すると、鞄を漁っていた『穢れ人』が、道を塞ぐように置いてあった俺たちの荷車の上に飛び乗る。


 そいつは手に書類を持っていた。

 副班長の鞄から抜き出したのだろう。


 「なにやってんのよ!」


 イグニスさんが駆け出し、剣に炎をまとわせて切りかかった。


 「だ~か~ら! 紛い物の加護なんか相手じゃないんだってば!」


 『清め人』が周囲の血を操り、俺の土の壁のように剣を血で受け止めた。


 「くっ」


 「もう、邪魔しないでくれる? 『トモダチ』のお願いの途中なんだからさぁ!」


 血が固まり、イグニスさんのみぞおちに打ち込まれる。


 「うぅっ!!」


 こちらへ吹き飛んでくるイグニスさん。


 「かっは! くっ! げほげほっ! くっ、はぁはぁ」


 呼吸を無理矢理整えるイグニスさん。


 「くそ! 『契約書』が!」


 立ち上がったイグニスさんの先で、『穢れ人』が紙の束を血で細かく切り刻んだ。


 「ちっ」

 

 近くに倒れていた刺繍の大男の容態を見ていたウズメさんが舌打ちをした。


 「・・・やってくれたね。 手遅れだ」


 イグニスさんとウズメさんが『穢れ人』を睨み付ける。


 「『特別哨戒班』! 生きてる!?」


 「うっ。 うぅ」

 「がはっ」

 「すみま・・・せん」


 血の海のなかでアウトさんとフィールさん、アングリフさんが反応を見せたが、副班長だけはピクリとも動かない。

 鳥肌が立つ。


 まさか。


 「まずいかもしれないわね」


 イグニスさんも少し焦っているのか、冷や汗をかいている。


 「・・・イグニスちゃん。 生きてる人だけでもなんとかしてみるから、時間稼いだりできる?」


 「やってみるわ。 『清め人』! ソフィアと一緒に逃げなさい!」


 俺とソフィアさんに背中を向けたまま叫ぶイグニスさん。


 「だ、だが!」


 1人でどうにかできるのか!?


 「言わなきゃ分からない!? 戦いの素人であるあんたがここに居たら足手纏いだって言ってるのよ!」


 厳しい言葉が飛ぶ。

 悔しいが言う通りだ。


 「くそ! ソフィアさん! 逃げるぞ!」


 俺はソフィアさんの手を握って駆け出す。

 『穢れ人』と正反対の方向に駆け出す。


 「あ! 『清め人』~!! 青い女もいるじゃん! らっき~!」


 『穢れ人』の声が聞こえる。

 遥か後方で。


 「逃がさないよ?」


 耳元で。


 「な!?」


 イグニスさんの焦り。

 俺は驚く間もなく殴り飛ばされて、隣の壁を壊して中に転がり込んだ。

 

 「うぐっ!」


 土の壁が俺を守り、怪我や痛みは一切無かったがソフィアさんの手を離してしまった。

 廃墟だったらしく住民は居ないのが救いか。


 「ソフィアさん!」


 俺は元の路地裏に這うようにして戻る。

 と。


 「ハニオカさん!」


 見上げた先、血で両手を拘束されて高い位置に縛り上げられるソフィアさんが涙目で俺の名を呼んでいた。

 

 「ソフィアを離しなさい!」


 炎の剣で『穢れ人』に再度切りかかるイグニスさん。


 「嫌だよ。 『トモダチ』の為にこの子は連れてくの! そんな紛い物・・・!?」


 「はぁっ!!」


 気合いと共にさらに燃え上がらせる。


 「へぇ、紛い物だと思ってたけど、なんだ、本物の加護じゃん。 弱まりすぎて気づかなかったよ」


 剣を血で作った剣で受け止める『穢れ人』。


 「大分、薄くなっちゃってまぁ・・・。 君、何代目?」


 「貴様には関係ない」


 「ま、それもそっか! じゃあ、君でその加護を終わらせて上げるね!」


 カンッと火の粉を散らせてイグニスさんの剣を上段に弾き上げる『穢れ人』。


 「くっ、は!?」


 彼の持つ血の剣はすでにイグニスさんの腹を突き刺していた。


 「ごふっ」


 血を吐くイグニスさん。


 「あっははぁ。 加護持ちの血だぁ!」


 刺されて動けないイグニスさんの口から溢れて顎を伝う血。

 それを『穢れ人』が舐めとる。


 「んふふ~! さ~いこ~!」


 恍惚とした表情になった『穢れ人』は剣を引き抜いて自身の頬を左手で押さえる。


 イグニスさんが、膝から崩れ落ちた。


 その時だった。


 『穢れが充満してるな』


 ウズメさんから声が聞こえた。

 光の粒が『特別哨戒班』の面々に宿る。

 傷が癒えていく。


 こちらへ歩いてくる巫女。

 

 『さて、貴様。 『天罰』を受ける覚悟は出来ているのだろうな?』


 見たことのある雰囲気を宿して歩いてくるその巫女。

 その身に宿しているのは恐らく『スクナヒコナ』だ。


 『スクナヒコナ』は右手に大きな針のような剣を光の粒を集めて作り出した。


 「うげ~・・・本物の神様とか卑怯じゃない?」


 『・・・おい、『清め人』』


 『スクナヒコナ』から突然話しかけられた。


 「な、なんだ?」


 『悔しくないのか? なにも出来ないで』


 「な!?」


 そんなの、悔しいに決まってる。

 ソフィアさんが捕まっているのに、仲間が倒れて行くのに、なにも出来ない自分が悔しくないわけないだろ!


 「悔しいに決まってるだろ!」


 『では、戦え』


 「言われなくても!」


 俺は立ち上がる。

 が。


 ・・・なんだよこれ。


 『穢れ人』の圧に、彼と戦う想像が全く出来ない。

 どう攻めてもやり返されて、ソフィアさんを助け出せるイメージが全くわかないのだ。

 村での時もそうだった、アイツの目で追えない攻撃に恐怖を覚えた。

 アイツの殺気が怖くて足が震える。


 『本気で殺そうとしてくる敵は強大か?』


 俺の隣に来た『スクナヒコナ』に問われる。

 頷く。


 そうだ。

 強大なのだ。


 とても、大きく怖い。

 鬼のようだった。


 『そうだな。 強大な敵に立ち向かうのには勇気が必要だ』


 『スクナヒコナ』は針の剣を振り回して構える。


 『だが、案外どうとでもなる物なのだよ。 たった一寸しかない童子が、巨大な鬼を倒せるように、頭を使い、勇気を出せばどのような強大な敵でもどうとでもなるものだ』


 俺は『スクナヒコナ』を宿しているウズメさんの横顔を見る。

 髪はひとつに結ばれていた。


 『私は神だ。 天罰を与えることが限界となる。 彼の『穢れ』を『払い』、『幽世』に送れるのは『清め人』だけ。 さぁ、頭を使い、勇気を振り絞り、大切な人をどのような手を使ってでも手に入れてみせよ』


 ドンッと『スクナヒコナ』が踏み込んで『穢れ人』に肉薄する。


 「ひいっ!」


 『穢れ人』が血の壁を作る。

 しかし。


 『薄い! 我が『天罰』を受けよ!』


 血の壁を針の剣で貫き、清め人の腹に突き刺した。


 『『清め人』よ、後は任せたぞ』


 と、言い残して『スクナヒコナ』が帰った。


 針の剣が消え、体から『スクナヒコナ』が消えたウズメさんがその場に倒れ込んだ。

 その隣で倒れ込んでいたイグニスさんの指が動いた。


 「ウズメさん!」


 縛り上げられているソフィアさんが心配の声を出す。

 それと同時。


 「ア!? いっ!? いたたたたたぁ!」


 『穢れ人』が腹を抱えて蹲った。

 刺された箇所から血が出ているわけではない。


 「な、なになになに!? お腹の中が刺され続けてるみたいに痛いよぉ~!」


 涙目になる『穢れ人』。


 あれが、天罰?


 だけど、あれなら。


 俺は空中に土で拳を作る。


 「いけぇ!」


 拳を飛ばす。


 「うるさいよ! 今それどころじゃないの!」


 血でいとも簡単に弾かれた。


 「もう! 黙ってて!」


 一瞬で肉薄。


 「な!?」


 足を掛けられて、視界が回る。

 地面にぶつかる前に土の壁で守られたため痛みや怪我はないが、その場に倒れ込んでしまった。


 『穢れ人』を見上げる。


 「もう! 痛い痛い痛い痛い! 最悪!」


 ガンガンと踏まれ続けるが、土の壁で蹴りは通らない。


 「わ、私が求めている傷みはこんなのじゃない!」


 何度も何度も踏まれ続ける。

 壁にヒビが入る。


 まずい。


 そう思ったときにはすでに遅かった。


 バギッ!と音を立てて土の壁が壊れて周囲の血の海の中へ飛び散り、蹴りは俺の腹に入った。


 鈍痛。

 腹からなにかが込み上げてくる。


 耐えきれず吐き出す。


 血だった。


 「ごほっ!」


 「あ! 入ったぁ! じゃあ、もう1回!」


 もう一発。

 しかし、土の壁が俺を守る。


 「ふーん? じゃあ、もう1回おなじことをすればいっか! お腹痛くなかったらもっと簡単に壊せそうだよ! 痛たたた! あぁもう、腹立つなぁ!」


 また何度も蹴られる。


 痛みで頭が。


 そうこうしている内に土の壁が破壊されて飛び散り、2度目の蹴りが入る。


 「うぐっ」


 「何回やれば死んじゃうのかな?」


 3度目が繰り返される。


 「な、何でこんなこと」


 「だから、『トモダチ』のお願いなんだってば!」


 土の壁が飛び散って蹴りが入る。

 

 「うぐっ」


 頭を使え。

 神様も言っていた。


 頭を使って勇気を振り絞れと。


 どうすればこいつに勝てる?

 

 どうすればソフィアさんを助けられる?


 「友達って、だれだ」


 「名前なんか知らない! 興味ないもん!」


 今度は蹴り飛ばすような蹴りが繰り返され、土の壁を破壊して飛び散らせ、俺を蹴り飛ばした。


 「うぐっ」


 何度か転がって停止。

 身体中が傷む。

 血溜まりの上を転がったことで血だらけになる。


 『穢れ人』は後ろで縛り上げられているソフィアさんに近づいていく。


 「名前なんか知らなくてもいいんだ。 『トモダチ』は、私に血をくれるから。 いたた~。」


 穢れ人は腹を押さえながら血の剣を再度作り、それでソフィアさんの頬を切った。


 「いっ!」


 傷みに耐えるソフィアさん。


 ソフィアさんの頬で流れる血を直接舐めとる穢れ人。


 「・・・うぅ」


 歯を噛み締めて耐えているソフィアさん。

 その様子に酷い不快感を覚える。


 「てっめぇ・・・」


 震える体に鞭を打って何とか立ち上がろうとする。


 「私にはね? 血が必要なんだ。 君たちが食べて、排泄して、寝ないと死んでしまうように、私は血を食べなきゃ死んじゃうんだよ!?」


 俺を睨み付ける穢れ人。


 「『トモダチ』は、そんな私に血をくれるんだ! あの人は、自分が楽しんだ後、満足したらそれを今度は私に分けてくれる!」


 「ぐっ、おえっ! ふぅ」


 血を吐きながらなんとか立ち上がる。


 「だから、私も『トモダチ』の欲しいものを用意するんだ! ほら、友達ってお互いに与え会うものでしょ!?」


 考えろ。

 アイツを倒す方法を。


 「あぁ。 そうだな。 確かにそうだ。 友人関係はそう言うもんだな。 だが、『穢れ人』。 聞きたいんだが」


 「あぁん?」


 「もし、その血を分けてもらえなくなったらお前はその『トモダチ』をどうするんだ? うぐっ」


 腹の中から勝手に込み上げてくる血を押さえられず、吐き出す。


 「は、ハニオカさん!」


 ソフィアさんが焦って叫ぶ。

 

 「変なこと聞くね? そんなことはないよ? でも、そうだな? もしそんなことになったら『トモダチ』の血を食べるよ」


 「そうか。 結局は損得勘定か。 なら、やっぱりお前のそれは友達じゃない」


 「な!? どう言うことさ!」


 「損得勘定だけで繋がってる関係は友達とは呼べねぇって言ったんだ!」


 「はぁー!? 互いに助け合うのが友達でしょ!? どっちかが助けてくれないならそれはもう奴隷じゃん!」


 俺は、足に力を込めて前に歩く。

 1歩1歩前に。


 「来んな!」


 穢れ人が腹を押さえながら作った血の弾丸が俺の体を狙う。

 土の壁が命中した衝撃で飛び散りながら守ってくれるが、守りきれずに2、3発食らう。


 「ぐぅっ」


 しかし、足は止めない。


 「ハニオカさん! 止まってください! 死んじゃいます!!」


 ソフィアさんの焦った顔。


 続く血の弾丸。


 ソフィアさんの辛そうな顔。


 土の壁は防ぎきれずに飛び散り、弾丸を食らい続ける。

 痛みは続く。

 意識は朦朧としてくる。


 だが、足は止めない。


 「お前の言う与えあう事も大切なことだとは思う。 だけどな」


 何とか『穢れ人』の、前に立つ。


 「な、なんなのあんた!」


 血で作られた剣が俺を狙う。


 「俺は、『友達』が困っていたら、こっちに利が無くても助けたいと思う! そう、思える相手が『友達』だと思うんだ!」


 剣の一撃が土の壁を砕いた。

 土の破片が飛ぶ。


 「・・・ハニオカさん。 もういいです。 死んじゃいます!」


 泣き出してしまうソフィアさん。


 ごめん。

 もう、終わるから。


 「そ、そんなの意味分かんないよ!? 奴隷になれって言ってるの!?」


 2度目の振りかぶり。

 しかし。


 「あれ!?」


 彼の手と足に土が纏わりついて動きを止めた。


 「言いなりになれなんて言ってねぇよ。 むしろ逆だ。 友達なら対等に物を言え! 困ってたら損得勘定抜きで助けろって言ってんだ!」


 俺は、自分の右拳に土を纏わせる。


 『魔術は想像力の世界です』


 ソフィアさんに教えて貰ったことを思い出す。

 

 殴られると判断したのだろう穢れ人が血を操ろうとして気づく。

 周辺の血に土が混ざっていることに。


 「あれ!?」


 アイツが俺との会話と腹の痛みに意識を取られていたのは素人目にも分かった。 だから、会話を続けつつ、攻撃を受けながは前に進み続けた。

 土を飛び散らせて周囲土に混ぜ続けたのだ。


 俺の土には清めの力があるらしい。


 以前、アイツと村で戦ったときも俺の土に触れた血を操れていなかった。

 だったら、同じことを意図的にやれば良い。

 アイツが放った血と言う穢れを俺の土で清めてやれば良いんだ。

 無い頭で考えた、素人作戦。

 だが、うまく行った。


 「わ、私をやったら後ろの女の拘束を強めてやる! どうせやられるならもろともだ! 首も絞めて絞め殺してやる!」


 必死の抵抗。

 だが、そこは心配してなかった。


 「大体・・・。 お前みたいな損得勘定で動いてるやつが」


 俺には見えていたのだ。

 赤髪の騎士。

 彼女の指が動いた瞬間が。


 「損得勘定抜きで、誰にでも与え続けて返し続ける優しい人を殺して言い訳ねぇだろ!」


 燃え盛る炎。

 一瞬の内に剣は数度振られ、拘束を立ち斬った。


 「・・・全くその通りだ。 『穢れ人』。 薄くなれども、加護は加護だ。 貴様の拘束ぐらい、いくらでも清められる。 私たちの大切な『友達』は返して貰うぞ!」


 イグニスさんが俺たちの視界の隅、死角となる下から滑り込むように拘束を断ち切ったのだ。


 これで、穢れ人は動けず、身を守る術もなくなった。

 後ろのソフィアさんも自由になり、好きに使う事は出来ない。


 「あぁ、そうだ! 俺達の大切な『友達』を返して貰うぞ『穢れ人』!!」 


 「な! くそ! くそぉおおお!!」


 俺の土を纏った右拳が『穢れ人』の顔面にめり込んで殴り飛ばした。

 『穢れ人』が遠くまで転がって行く。


 自由になったソフィアさんが俺の元に落ちてくる。


 抱き止める。


 「は、ハニオカさん! 無茶しすぎです! 止めてって言いました!」


 泣きながら怒られる。

 

 「ごめん。 でも、大切な『友達』だから」


 「うっ、うぅ・・・」


 震えるソフィアさんは泣きながら俺に抱きつく。


 立ち上がったイグニスさんが口から血を吐き捨てて『穢れ人』が転がっていった先を見ながら呟いた。


 「・・・逃げられたわ」


 「え?」


 「吹っ飛んでいってそのまま方向転換。 あの速度は追い付けない。 ・・・はぁ」


 どがっと音を立てて座る。


 「『領主』がコイツらと関わっていた事や幼女やドワーフの女性を好きにしていた証拠も、マール家と言う証人も全部やられた」


 頭を抱える。


 「・・・くそ!」


 床を殴って空を仰ぎ見る。


 「・・・仲間も失った」


 涙を隠すためだろう目を腕で隠す。

 副班長はやはり・・・。

 俺とソフィアさんはなにも言えずに戸惑う。

 と。



 「あの、すみません班長。 俺の責任です」

 「イグニスちゃ~ん? 暗い顔してる暇はないんじゃないか~い?」



 「「え?」」 


 俺とソフィアさんの声が重なった。

 イグニスさんもゆっくりと首を倒す。


 

 そこにはウズメさんを両手で抱えた副班長が立っていた。



 「ば・・・馬鹿野郎。 ふ、ふざけるなよぉ・・・」


 悪態をつくがどんどん涙声になって最後は絞り出すように声を出していた。


 「すみません。 なかなか立ち上がれず。 立ち上がったときには終わってました」


 立ち上がって副班長の前に行くイグニスさん。


 「大方、いつもの責任感から書類なんぞを守るために体を張りすぎたんだろ!? この大馬鹿者が! 証拠ならまた集めれば良い! わ、私が国民の命が無下に扱われること嫌うのを貴様が一番分かっているだろう!」


 泣き、怒りながら詰め寄るイグニスさん。


 「で、ですが。 その書類を紛失したことでまた何人もの国民が」


 「だからと言って貴様が死んで良い理由にはならない! 1を殺して10を救うと言う考えは好かん! 私はできる限り全てを救いたいのだ! 私の夢のためにお前は絶対に必要なんだ! 2度とするなよ!? 馬鹿者が!」


 「イグニスちゃん! 落ち着いて! 副班長も反省してるから!」


 ウズメさんが左手でイグニスさんを制止させる。


 「だが! ・・・って、ウズメ!? その体は!?」


 イグニスさんが取り乱したので、ウズメさんの体の状態を見る。

 右手と両足がに力が入ってなかった。


 「いや~、ちょっと『スクナヒコナ』様にこの状況を乗りきって貰っちゃって」


 「・・・そうか。 そうならないようにしていたのだが」


 イグニスさんが露骨に落ち込む。

 隣のソフィアさんがウズメさんの元に駆けつける。


 「どうしたんですか?」


 ソフィアさんが聞くとイグニスさんが答えた。


 「あぁ、おそらく神の感覚で体を動かされたのだろう。 ウズメの体がついていけず、体のほとんどの筋肉が傷ついてしまっている」


 「・・・傷がついているんですね? 深い傷ではないですか?」


 「うん、多分。 あー、右足首だけはちょっと深いかも」


 ウズメが動かそうとして痛みに顔を歪めた。


 「・・・イグニスちゃん。 甘えても良い?」


 言われたイグニスさんが優しく笑って頷いた。


 「もちろんだ。 こっちへこい」


 「やったぁ! 副班長! ありがとね!」


 「あ、あぁ」


 副班長からウズメさんを受けとるイグニスさん。

 ウズメさんが嬉しそうに頬をイグニスさんの胸当てにすり付けた。


 「足を見せて貰っても良いですか?」


 ソフィアさんからの問いに頷くウズメさん。


 「・・・アキレス腱が切れてますけど、千切れてるわけではないですね」


 怖いことを言う。


 「行けるかもしれないです! ちょっと待ってて下さい!」


 そう言って俺の手を引くソフィアさん。

 

 「行きますよ! 今度は私が『友達』を助けるんです!」


 ○


 どこに行くのかと思えば、裏路地に止めておいた荷車だった。


 「なるほど。 ポーションだな?」


 「その通りです! やりますよぉ!」


 ソフィアさんが嬉しそうに小さな鍋を取り出して、荷車に備えつきの竈に火を起こして鍋を置いた。


 「あ、水が・・・」


 備えつきのろ過装置から水を出そうとしてソフィアさんが固まる。


 「必要数に足りないのか?」


 「はい」


 「任せろ」


 俺は、ろ過装置を想像する。

 少し早くろ過出来るように石や砂の配置を綺麗に並べる。

 これで早くろ過ができるはずだ。


 俺の想像の中では完璧だ。


 「出来たぜ! ソフィアさん! 水を入れてくれ!」


 ポットサイズのろ過装置を作り上げて、ソフィアさんに水を入れるように促す。

 ソフィアさんは頷いて『魔術』で水を出して中に入れた。


 「今のうちに」


 言いながら備えつきの薬草保管棚からHQ中級薬草2枚を取り出す。

 パパッと柄の部分を取り除いて4等分にする。


 俺のろ過装置も完璧に機能し、向こうで4日寝かせたレベルの『綺麗な水』が出来上がった。

 

 「出来たぞ!」


 「ありがとうございます。 では、中に入れましょう」


 俺は言われるまま、ろ過装置を持ち上げてそのまま中身を入れ始めた。


 「ストップです!」


 俺はすかさず水を入れるのを止める。

 煮立ち始める。


 「ずいぶん早いですね」

 

 「俺の想像通りだけど」


 「・・・『魔術』は想像の世界とは言いましたが、ハニオカさんのは規格外ですね。 この世界の常識に捕らわれないのも関係してたりするんでしょうか?」


 興味深そうに見て呟きながら薬草を投入。


 「・・・行きます」


 ここまで約3分。

 混ぜ棒を持って混ぜ合わせる。


 「むっ。 水の癖が強くなってますね。 ですが・・・」


 言いながら笑顔になる。

 楽しそうな顔だ。


 「こうされたいのですね?」


 呟いて混ぜ方を8の字にした。

 そして。


 「完成です!」


 約5分。

 ソフィアさんはあっという間にSHQ中級ポーションを2本作り上げてしまった。

 

 「後はこれを・・・。 はい! まずハニオカさんです!」


 ソフィアさんは俺にポーションを差し出す。

 良い笑顔だ。


 とても助かる。

 実は先程から腹の中から血が沸き上がってきているのを耐えていたのだ。


 だが。


 「ありがとう。 でも、ソフィアさんの頬の傷が先だ」


 そう、血は止まってはいるが傷が残ってしまっている。


 「え、あ。 忘れてました。 これくらいなら大丈夫です!」


 「いや、駄目だ。 女の子が顔に傷を残すものじゃない」


 ・・・ちょっとキモかったかも。


 「あ、えと。 じゃあ、1口だけ貰います。 それで十分なので」


 ん? 1口?


 ソフィアさんが、ぐいっと1口飲み込むと頬の傷が完全に治った。

 そして、そのポーションを差し出してきた。


 「ど、どうぞ!」


 顔が真っ赤だ。


 「嫌じゃないのか?」


 こんなおっさんと間接キスだぞ?

 普通嫌だろ?


 しかし、ソフィアさんは俯いたまま首を振った。


 「嫌じゃ無いです! 早くしてください!」


 「そ、そうか? わかった。 では、いただきます」


 ぐいっとひとのみ。

 市販の安い日本酒を思い出す口当たり。


 あわあわと俺を見上げているソフィアさん。

 嫌なら、無理しなくても良かったのに。


 しかし、このポーション。


 「・・・嫌いじゃないな」


 「あ、ふふっ。 味のついてないポーションですよ?」


 「だが、ソフィアさんが作ったポーションだ」


 頬がまた少し赤くなる。

 照れたのだろう。


 「もう! 調子良いですね! さぁ、早く戻りましょう!」


 すっかり体の調子が戻った俺は、機嫌が戻って上機嫌なソフィアさんとともにウズメさんの元へ急いだ。


 ○


 ウズメさんの元に戻ると、ウズメさんを抱えたイグニスさんが『特別哨戒班』の面々に片付けや王都との連絡などの指示を飛ばしていた。


 「戻ったわね?」


 イグニスさんがソフィアさんと俺が戻ったことを確認する。


 「はぁ、はぁ・・・。 はい! すみません。 お待たせしてしまって!」


 走って息が切れたソフィアさんが息を整えてからイグニスさんとウズメさんに頭を下げた。


 「なにも待ってないわよ」

 「そうそう、それに、ソフィアさんが何をしようとしていたかなんてすぐ分かったしね」


 「そ、そうでしたか」


 照れ臭そうに出来上がったポーションを2人に差し出す。


 「これをどうぞ」


 「・・・まさか、本当にこの短時間でSHQ中級ポーションを作ってくれるとは」


 ウズメさんが感心したような声を出す。 


 「すみません。 お水がなくて、ハニオカさんに急いで作って貰ったので遅くなっちゃいました」


 受け取ったウズメさんが固まる。


 「え? 水を作ったの? この短時間で?」


 「おう! やれたわ!」


 「・・・しかもちゃんと『神性』帯びてるしって、あれ!? これ、『神水』使ってる!?」


 「え? 今作ったばっかりですよ?」


 「いや、この『神性』の濃度は『神水』だよ! え? これを今作ったの!?」


 「お、おう。 新しいろ過装置でな?」


 「やってくれたなぁあ!? あったたたぁ!」


 俺に怒鳴って全身の痛みにイグニスさんの腕の中で悶えるウズメさん。


 「え? ごめん。 まずかったか?」


 「まずいなんてものじゃないよ! こ、こんなことが可能になってしまったら!」


 「はいはい。 ウズメ。 あなたは今怪我人よ?」


 赤子のようにあやすイグニスさん。


 「くっ、くぅ~。 と、とにかく! そのろ過装置は戻ったらすぐに破壊して! 中身の水も!」


 「水はもう入ってないぞ?」


 「そ、それは、せめてもの救いか。 じゃあとにかく破壊して!」


 「お、おう」


 ウズメさんの圧に思わず後ずさる。


 「ふぅ・・・ふぅ・・・。 さて、では、ソフィア、いただきます!」


 息を整えたウズメさんがソフィアさんに言って、唯一動く左手で持ったポーションに口をつけた。


 「はい! どうぞ!」


 そして一気にポーションを飲み干した。


 「・・・ふぅ」


 瓶から口を離して数秒。

 体が輝き始めた。


 その光はすぐに止む。


 「お、おー! すごい! やっぱりソフィアさんのポーション最高!」


 ぐーと伸びをする。


 「もう、大丈夫なのか?」


 イグニスさんに問われて満足そうに頷く。

 

 「完璧だよ! 痛みなんて嘘みたいになくなったし、手も足も全部動く! やっぱり、普通のSHQ中級ポーションより効き目が良い気がするよ!」


 「そう、良かったわ」


 イグニスさんが安心したように微笑んだ。


 「よし! それじゃあ、降ろしてイグニスちゃん! もう動けるから大丈夫!」


 「駄目だ」


 「へ?」


 イグニスさんがウズメさんの提案を断固拒否した。


 「え? いやいやいや、だって後片付けが」


 「それは、他のみんなに頼んだだろ。 私たちはソフィアさんと『清め人』を送っていくのが仕事だ」


 「な、ならなおさら降ろした方が」


 「駄目だ」


 「なんで!?」


 イグニスさんがムッとした顔をする。


 「私に黙って無理したからだ」


 その声と顔を見て動きが止まるウズメさん。

 イグニスさんは、ウズメさんの事を大切に思っているのだろう。

 ちょっと、悲しそうだった。

 

 「もう、止めてくれ。 ウズメが居ない世界に価値はない」


 その言葉にどんどん真っ赤になるウズメさん。


 「もう! 負けたよ!」


 パンッと、顔を押さえるウズメさん。

 イグニスさんは満足そうに頷くのだった。


 「じゃあ、ソフィア、『清め人』、送るぞ」


 「あぁ。 ありがとう」

 「もうちょっと一緒に入れるんですね」


 嬉しそうなソフィアさんだった。


 「ん? 待って!? 本当にこのまま行くの!?」


 慌て始めるウズメさん。

 

 「そうだと言ってるだろ」


 「いやいやいや! 騎士にお姫様抱っこされて町中歩くとか、それどんな羞恥プレイ!?」


 「問答無用」


 「や、やめてぇ~!」

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