第12話 『裁判に参加します』
「じゃ、全員揃ったってことで、ここで決めて貰おっか! 今、『巡査部長』であるイグニスちゃんに自首して『裁判』するか、イグニスちゃんとアウトちゃん、フィール君に逮捕されてから『裁判』するか!」
ぱんっとウズメさんが手を叩いた。
「ふっざけんなてめぇ! 何が逮捕だ、裁判だ!」
「そうよ! それに私たちはなにも悪いことしてないじゃない! お金を貸しただけなのよ? なんなら、返して貰うまでたくさん待って上げたじゃない!」
大男と女が喚く。
その様子に大きなため息をつくのはイグニスさん。
「はぁ・・・。 そうね。 それだけなら良かったのにね」
「じゃ、じゃあなんで捕まえるのよ!」
「あなた達には『営利目的誘拐罪』、『詐欺罪』、『恐喝罪』、他にも色々な疑いがあるからよ!」
「・・・ちっ! んなもん、証拠はあんのか証拠は!」
「んー、あるよ? いっぱい」
言いながら、少年が一歩前に出る。
「あ、てめぇ! 裏切り者が!」
「残念だけど裏切ってはないよ? 最初から君たちの仲間ではないからね?」
「あ、あぁ! それは私たちを騙したってことじゃない! そんなの、それこそ詐偽じゃない!」
「あ、ごめんね~! 僕も一応『国王公認特別巡査』なんだよね~。 これは、囮捜査ってやつさ!」
「なっ!?」
「さぁ、早く選びなさい? 今、自首するか、抵抗して捕まえられるか」
「くっ、くそっ! てめぇら! ここで捕まったりしたらどっちにしろ明日はねぇ! やっちまえ!!」
大男が全員に指示を出す。
指示を出された全員が雄叫びを上げて武器を持ち、迫ってきた。
イグニスさんが大きなため息をついた。
「はぁ・・・仕方ない。 副班長、出口の封鎖とウズメの護衛」
「了解」
イグニスさんの後ろで待機していた副班長が大楯と剣を背中から取り出して構えながら前に出た。
「アングリフはあっちの2人の護衛」
頷いた無口な男性騎士アングリフさんが俺たちの元へ一瞬で駆けつける。
「フィールとアウトは両側面から敵を叩いて」
「りょーかい!」
「まっかせて!」
指示を出された似た顔の男女が元気良く答えて左右に別れて駆け出す。
「私は正面を叩く。 やるわよ。 『公務執行妨害』で逮捕する!」
イグニスさんが剣を燃え上がらせて正面切って突っ込んだ。
「・・・すごいです」
隣のソフィアさんがそう呟いた。
俺だって驚いている。
「なんだよ、『特別哨戒班』って」
「『国王』が認めた国内の治安維持部隊。 『騎士団』として国内の『魔物』等の被害から国民を守り、『刑事』として国内の事件の捜査、犯人の逮捕を行い、『裁判官』としてその場で罪の確定まで行うことが出来る特別部隊だ」
俺の呟きを聞いた男性騎士が背中を向けたまま答えてくれた。
「そ、そんな国家権力全部集めましたみたいな部隊が存在して良いのか!?」
「もちろん最初は問題視する声もあった。 だが、この国を誰よりも思う『姫』の尽力で実現したんだ」
「・・・お姫様。 聞いたことがあります。 『オリエント大陸』北方一帯を治める大きな王国、『レイノ王国』。 現国王様は非常にやり手で、200年近くある歴史の中で王位につき続けている期間が最も長い王様だと。 国民からの指示も厚く、彼の政策によって今のレイノ王国は非常に豊かに発展を遂げている」
ソフィアさんが思い出すように、顎に手を当てながら話し続ける。
目の前では迫りくるマール家の連中を昏倒させていくアングリフさんが頷きながら聞いていた。
「そして、現国王には子供が2人いて、長男である王子が時期国王になるだろうと言われていたはずです」
「と言うことは、その王子に妹がいるんだな?」
「はい。 国王の秘蔵子。 溺愛が過ぎて外へ出したことがない箱入り娘。 そんな風に言われている、誰も見たことがないお姫様がいるはずです」
「なんだよそれ!」
「ですが、そのお姫様は神の祝福を受けていて、国民のために色々と動いてくれていると噂されています」
「噂か。 全て事実だ。 神の祝福を受けた姫は、国民のために日々一生懸命働いてくれている。 そして、その働きのひとつが我々『特別哨戒班』なのだ」
普段無口な男性騎士が口を挟む。
きっと、お姫様か『特別哨戒班』に思い入れがあるのだろう。
もしくは両方かもしれないが。
「何はともあれ、凄いことです。 お姫様が作った国民のための部隊がこうして私なんかのために動いてくれてるなんて」
ソフィアさんが生唾を飲んでいた。
「なんかじゃないわ! あなたも愛すべき国民だもの! たとえ、外の大陸から来たのだとしてもこの国で真面目に生きようとしてくれている以上は大切な国民よ!」
イグニスさんが聞こえていたのだろう、ソフィアさんにそう言い放つ。
「ふふっ! イグニスちゃんの言う通りだよ! ソフィアちゃんは国民! それに、なにより、友達だもん! 本当は公私は混同させちゃ駄目だけど、気合いも入るよね!」
「その通りだわ!」
ウズメさんの言葉に獰猛な笑顔で答えながらイグニスさんは炎の剣を大きく降る。
勢いに負けたウール家の面々が吹き飛んでいった。
気づけば両側面から回っていたアウトとフィールの2人も、ダガーでの攻撃で全員の意識を刈り取って奥から中心の大男と女を睨んでいた。
正面のイグニスさん、後方のフィールさんとアウトさん。
3人に睨まれた女、レイラは歯を食い縛る。
「ふっざけんじゃないわよ!」
その身に風を纏う。
「イグニス! 高速移動が来ます!!」
ソフィアさんが叫ぶ。
かつて、ともに戦ったのだ。
手の内を知っていたのだろう。
「大丈夫よ!」
イグニスさんは堂々と言う。
それと同時。
レイラが消え。
「遅いわ!」
バギンッと床板を壊しながらイグニスさんに叩きつけられていた。
見えなかった。
レイラが一瞬で間合いを詰めたのだろうが、全く分からなかった。
「すごい。 イグニス、レイラの速度に軽く対応してる!」
ソフィアさんが感嘆の声を出した。
「な、何が?」
俺はソフィアさんに問う。
「レイラは、風の力で縦横無尽に動き回り、ダガーで急所を狙うのが得意なのですが、今レイラはイグニスのアキレス腱、脇、首を狙った切り付けを行いました。 鎧の隙間ですね。 イグニスはそれを全ていなして最後はレイラを殺さないように後頭部を掴んで床に叩きつける形で止めました!」
え?
今の一瞬で?
と、言うかソフィアさんや?
見えていたのかい?
「ど、どうしてこうなるのよ~!」
イグニスさんが上に乗って取り押さえる。
押さえられたレイラは、わんわんと泣く。
それはみっともなく。
「泣いたところでもう遅いわ。 金に目が眩んだんでしょうけど、やったことはしっかり償いなさい」
「ふっざけんな! 大体、私たちから金借りたあいつはどうなるのよ! 私たちの家で商売もしてたのよ!? 仲間みたいなものでしょ!? 同罪じゃない!」
喚くレイラ。
「黙りなさい! ソフィアはお金を返したし、その家なんかとっくの昔にあんた達がさし押さえただろ!? もう、あんた達との縁は切れてる!」
「ぐっ、ぐぅ~・・・。 ソフィア! ほら! わ、私たちの『友達』でしょ!? 助けてよ! ほら! あの日助けてくれたみたいに!」
みっともなくソフィアさんに助けを求めるレイラ。
隣のソフィアさんはどんな表情なのか。
俯いてしまって表情が伺い知れない。
ゆっくりとレイラの元へ向かって歩き始めた。
そのまま、イグニスさんの下敷きになっているレイラさんの前にしゃがむ。
「そ、ソフィアぁ」
涙目で見上げるレイラ。
と、ソフィアさんが手を上にあげた。
「え?」
スパンッ!
大きな音が響いた。
まさしくフルスイング。
大きく振りかぶったソフィアさんの平手打ちがレイラの頬にクリーンヒット。
以前、レイラがソフィアさんの頬をぶった時のように、今度はレイラの頬が腫れ上った。
「へ?」
何が起こったのか理解できていないレイラ。
「お返しです!」
「くっ。 くくくっ。 あっはっは!」
その上で耐えられなくなったように笑うイグニスさん。
「思いきったわねソフィア!」
「な、なにしてんのよ! こ、こんなの! 暴行罪じゃない!」
「あ、まずかったですか?」
下のレイラが唾を飛ばしながらキレ散らかす。
「大丈夫。 正当防衛」
「ふっざけんな! そんな都合の良い話」
「うるさい」
イグニスさんが力で強める。
「うぐぅっ」
ふぅ・・・とソフィアさんが息を吐いて立ち上がる。
レイラを見下すように見る。
「な、なんで助けてくれないのよぉ」
ボロボロと泣き始めるレイラにソフィアさんが答える。
「私と『友達』の縁を勝手に切ったのはあなたです。 だったら、私もあなたとの縁を切ってやります。 これもお返しですよ」
振り返ってこっちに来るソフィアさん。
その後ろ姿にレイラが最後、叫ぶ。
「ふざけんじゃないわよ! 何がお返しよ! くそ! くそぉおお!」
イグニスさんは、そんなレイラを押さえつけながら剣先を大男に向ける。
大男は状況不利とわかり、諦めて膝をついたのだった。
○
「さてさて、これから裁判をして行くわけだけど、面倒なことは全部取っ払っちゃうね?」
居間のソファーに座り、両手をあわせてにっこり微笑むウズメさん。
ソファーの後ろでは、正面から見て腕を組んだイグニスさんを中心に、左の副班長が自身の大きな鞄を開けて中身を確認し、右の無口な男性騎士アングリフさんがメモ用紙とペンを持って何かを書き込んでいた。
ソファーの前では、家具が部屋の端に寄せられたことで開いた広い空間にマール家全員が拘束されて正座していた。
「取っ払うのは、やってもやらなくてもいい事ね? これからやるのは、あなた達の罪を証拠とともに有罪かどうかを決めること。 細かな刑とか処理は『王都』の裁判所でやってもらうね」
「え、『王都』? この街じゃねぇのか!?」
焦り始める大男。
「それがなぜかは、自分達がよく分かってるんじゃない?」
「あ。 く、知らねぇ! つ、つぅか俺たちはなにも悪いことしてねぇし!」
マール家の1番前で正座する大男が必死に話を変えて訴えた。
それを見ながらウズメさんが答える。
「うーん。 それは無理があるね? とりあえず公務執行妨害は現行犯逮捕で確定な訳だし」
「くっ・・・」
「ま、時間も惜しいし始めちゃうね?」
俺とソフィアさんは部屋の端で裁判を見ることになった。
「ごほん。 では、『国王公認治安判事』『巫女』『アメノ ウズメ』。 公平な裁判を神に誓います」
ウズメさんは、咳払いしたあと、2礼し、目を閉じて静かに手を合わせ、右手を少し下にずらした。
「・・・『柏手』?」
そのまま2回拍手してまた1礼。
すると。
透明な何かがイグニスさんの後ろに舞い降りた。
『久しぶりの裁判じゃな、ウズメの子よ』
美しい女性の声。
「本日はよろしくお願い致します」
『よいよい。 楽にせぇ。 それに我は見ておるだけじゃ』
「はい。 ありがとうございます」
ウズメさんが頭を下げると、他の『哨戒班』も頭を下げた。
と、ウズメさんが頭を上げずに言葉を続ける。
「『アマテラスオオミカミ』の御前であるぞ。 『分霊』とは言え図が高い」
普段では聞けないようなどすの聞いた声。
思わず俺もソフィアさんも頭を下げる。
『よいよい。 楽にせぇ。 嘘や公平性に欠けるような行いをしない限りはなにもせんわ』
「はい。 では、裁判を始めましょう」
ウズメさんの言葉に全員の姿勢がなおった。
「まず、『公務執行妨害』に関して申し開きはあるか?」
ウズメさんの問いに大男が首を振る。
「め、滅相もございません! 我々が抵抗のために手を出したことに変わりありません」
「では、次に行こう。 『詐欺罪』と『恐喝罪』に関してだ。 これは、容疑を否認していたが、まだ続けるか?」
「うっ、ぐ。 認めねぇ! 俺たちは善意で金を貸したに過ぎない! 金を返す期間も開けてやったんだ! それの何が悪いってんだ」
「だ、そうだが? 『国選弁護士』『フィール』?」
ウズメが自分から見てマール家の左隣に立っている似た顔男女の男の方、フィールに視線を向ける。
国選弁護士って、あの少年は弁護士なのか!?
神様の手前、公平を期すために必要なのだろうか?
「はい。 『恐喝罪』に関しては私が証人なので弁護の余地はありません」
「な! てめぇ!」
「・・・しかし、『詐欺罪』に関しては彼の言っていたことに間違いはないと思います。 こちら、借用書です」
フィールが怒鳴り散らす大男を一瞥した後、書類を取り出した。
書類には借用書と書かれていた。
「・・・くくっ」
大男が書類を見た途端、嫌な笑みを浮かべた。
あの大男にフィールが弁護士としてついているのは、やはり公平性の為か。
勝手な想像で裁判には弁護士と検察官が必要だからかとも思ったが、違いそうだ。
「内容は、書類作成日、借入日、借入金額、貸主の名前、借主の名前、借主の住所、返済期日、利息が書かれていました」
「待ってください。 それを記入したのは借りた本人ですか?」
フィールさんの言葉に、彼の対面に立っていたアウトさんが待ったをかけた。
もしかして、あっちは『検察官』か?
アウトさんの質問に大男が嫌な笑みで頷いた。
「あぁ、そうだが?」
「容疑者の発言に嘘が見受けられます。 判事、証人を呼んでもよろしいですか?」
「はぁ!? なに言ってんだ!?」
『うるさいぞ?』
アマテラスオオミカミと呼ばれた透明な何かの言葉に大男が口を塞いだ。
「はい。 『検察』側の提案を許可します」
ウズメさんが頷くとアウトさんがこちらを向いた。
やっぱり『検察官』か!
「ソフィアさん、こちらで証言してくれますか?」
「え!?」
驚くソフィアさん。
「難しいですか?」
「あ、いえ! はい!」
ピシッと直立して答えるソフィアさん。
緊張でガチガチだ。
「ソフィアさん、大丈夫だよ。 みんな知った顔だろ?」
「で、でも、なんだか雰囲気がぁ」
「証人、早く前へ」
ヒソヒソと話しているとウズメさんに催促されてしまった。
「うっ、はいぃ」
ソフィアさんは手足を一緒に出しながら前に進んでいった。
緊張で本当にああなる人、初めて見た。
ウズメさんさんの前でピシッと直立するソフィアさん。
「では、証言をどうぞ」
ウズメさんの言葉にアウトさんが動く。
ソフィアさんの隣へと。
「ソフィアさん、あなたが記入した紙は弁護士が提示した証拠で間違いないですか?」
フィールが持ってきた用紙に目を通すソフィアさん。
はっとした顔になる。
「あ、違う。 違います! よく見たら私の字に似てるかもしれませんが、全然違う字です! はっきり見えると全然違います! えぇ、見えづらい状況だったとは言え、これを見間違えてたんですか私は・・・」
「だ、そうですが?」
アウトさんがフィールさんへ視線を送る。
「おかしいですね? ですが名前は書いたと」
「おやぁ!? 納得できませんか!? では、もうひとつ証拠を提示しましょう!」
「な、なんだってー!?」
アウトさんとフィールさんがわざとらしいやりとりを繰り広げる。
アウトさんの意地の悪い笑み。
フィールさんも、笑いを我慢している。
怯え始めるのは大男含めたマール家の面々。
「証拠とは! ソフィアさんが自分で自分の名前を書いた紙切れです!」
アウトさんが懐から紙切れを出した。
あの紙は、フィールさんがソフィアさんに名前を書かせた紙だ。
「なっ! なんだってー!?」
フィールさんによる2度目のわざとらしい驚きの声。
これは酷い三文芝居だ。
何が公平性だよ。
最初からデキレースじゃないか。
絶対両方必要だから仕方なくやってるだけだろ!
「ま、待てよ! そもそもそんな紙切れが何になるんだよ!? いつでも写せるだろ!?」
大男が慌て始める。
「その証拠は、証人が書いたものであると、ここに居る『特別哨戒班』の全員が証明します」
ウズメさんの発言に男が悔しそうな顔で口を閉ざす。
巫女が神様の前で嘘は言わない。
「さて、弁護人。 確認して欲しいのですが、これは、本当に彼女が書いたものでしょうか?」
「どれどれ。 な、なんと! 私の提示した証拠品の名前は不自然ですね! まるで見ながら真似して書いたようだ!」
「と、言うことは?」
「誰かが彼女の記入した名前を見て、真似して書いたのかもしれませ~ん!」
「それは?」
「これは、証拠として成り立たないです!」
「ふっざけんな! こんなのありかよ!」
大男が2人のわざとらしいやり取りに怒りを露にする。
「弁護人、他になにかありますか?」
「ありませーん。 負けました~」
「は!? ちょっと待ってくれよ!」
べっと舌を出すフィールさん。
「くそ! くそが!」
悔しがる大男に構わず、ウズメさんが話を進める。
「では、このまま『営利目的誘拐罪』について問います。 容疑者はそこの証人を誘拐し、監禁しましたね? 異論はありますか?」
「は!? なんで突然話が変わるんだよ! くそ! ねぇよ! やったよ!」
大男は困惑しながら認める。
それに関しては先ほどの事でここに居る全員が証人であるため、認めるしかないだろう。
「証人は戻って大丈夫です」
「あ、はい!」
ソフィアさんが小走りに戻ってきて胸を撫で下ろしていた。
「も、問題なかったですかね?」
「立派だったと思うよ?」
「ふふっ。 ありがとうございます」
嬉しそうに笑いながら俺のとなりに並ぶ。
「それにしても、私。 あの紙に記入してなかったんですね」
「あぁ。 きっと、イグニスさんたちはそれを証明するためにこんなわざとらしい裁判をしてくれているのかもしれない」
「ふふっ。 まさか。 私なんかの為じゃなくて、きっと、この国のためですよ」
ウズメさんがソフィアさんが俺の隣に行ったことを確認してから話を再開させる。
「では、続けて問います。 今回の罪は『営利目的誘拐罪』です。 営利を目的とした誘拐ですね?」
「そ、そりぁあ、俺たちの借金を返してもらうためだからな! それ以上でも以下でもない!」
震えながら大男は大きな声で否定する。
「そうですか。 借金を丸々返した後に誘拐したのにそれはおかしな話ですね? では、『検察』、この罪で彼を逮捕した理由を話してください」
言われたアウトさんが書類を提示する。
「この契約書です」
「な!? それは!?」
大男が書類を見た途端、焦り始める。
隣で静かに聞いていた女の顔も絶望に染まっていく。
「この家にあった物です」
「ふざけるな! それをどこで!?」
「地下の隅にあった、金庫の中です」
「くっ。 くっそぉ・・・。 裏切り者かぁ!」
フィールさんを睨みつける大男。
フィールさんは明後日の方向を見ている。
「これは、契約書の束です。 その全てがマール家ととある人物の間での人身売買の契約書でした。 どれも、この領地で居なくなった幼い少女達や、小柄で幼い雰囲気、特にドワーフの女性達の名前です。 そして、1番新しい契約書の商品欄にはとある人物の名が書かれていました」
「とあるとは?」
ウズメさんが真剣な顔で問う。
いや、あれは、怒りを必死にこらえているのか?
後ろのイグニスさんは、すでに般若のように怒りを露にしている。
イグニスさんの横で、書類に何かを書き込み続けていたアングリフさんも書き込みながら静かに大男達を睨み付けていた。
副班長も、大きな鞄から様々な書類を取り出しながらも睨みをやめない。
アウトとフィールに至っては同じ顔と軽蔑の眼差しで見下している。
そして、アウトが言うのだ。
商品欄の名を。
「『ソフィア・ロクサーヌ』」
は?
なんだって?
隣のソフィアさんが息を飲むのがわかった。
そう言うことか。
だから、アイツらは執拗にソフィアさんに体を売るように迫っていたのか。
要するにアイツらは、幼女趣味の変態野郎に雇われて幼女を誘拐し続けていたわけだ。
酷い話だ。
「・・・気持ち悪いです」
ソフィアさんが顔面を蒼白させながら、俺の袖を掴んで反対の手で口許を押さえていた。
「大丈夫。 君は売られなかった。 そしてアイツらは今神様の前で裁かれようとしている」
「・・・それは、分かっています。 ですが、私の前に拐われた子達の事を思うと」
涙目になる。
自分よりも人の事。
相変わらずソフィアさんは優しい。
「あぁ、気持ち悪いな。 凄く気持ち悪い」
俺だってそう思うさ。
こいつら今まで何人の子どもや女性を不幸にしてきたんだ。
「では、契約書に書かれていた契約者の名は?」
ウズメさんに問われたアウトさんがちらっとイグニスさんを見た後、名前を出した。
「『デビュー領』『領主』『ニーニャ・ティアーモ伯爵』」
「ちっ! なんのために『爵位』を渡されてるのか考えなさいよ!」
イグニスさんが耐えきれずに大きな舌打ちをした。
裏で手を引いていたのは国のお偉いさんだったのだ。
それも、この辺を治めている領主。
姫から治安維持を任されている部隊として耐えきれないのだろう。
「や、止めろ! そ、その人は関係ない! お、俺たちが全部悪いんだ!」
名前を言った途端に震え始める大男。
「も、もうおしまいだわ! 私たちみんなおしまい! 終わったのよぉ~!」
女が頭を抱えて蹲り、酷い顔で泣き出した。
『特別哨戒班』はそれぞれ目を合わせてアイコンタクトをとる。
「他の余罪もありますが、それは、王都の大きな裁判所で判決をもらい、今回の罪とともに償いなさい」
「うっうっ」
「ここまでの3つの罪、『営利目的誘拐罪』、『詐欺罪』、『恐喝罪』については『有罪』とし、王都にて監禁。 詳しい処遇については王都の裁判所に引き継ぎます」
ウズメさんがそう言って立ち上がり、後ろにふりかえる。
「『アマテラスオオミカミ』様。 ありがとうございました」
『私は見ていただけだよ』
「何度でも言いますが、あなたの存在は我々が清められた存在だと言う事を証明しているのです。 この度も大変お世話になりました」
『うむ。 分霊で良ければいつでも呼びたまえ。 神霊は出ていきたくないからな』
「相変わらずでございますね」
『くくく。 ではな。 長居は申し訳ないのでな』
「ありがとうございました」
ウズメさんは軽く話した最後に2礼2拍手1礼をして、透明な何かを天にかえした。
その後ろでは『特別哨戒班』がマール家を拘束して、立たせていた。
「では、王都まで連行する」
副班長がそう指示するとイグニスさんとウズメさん以外の『哨戒班』が全員を連れだって歩き始めた。
と、アウトさんがこっちにやって来た。
「ソフィアさ~ん! 大切なこと忘れてたよ!」
俺の隣で呆然とマール家が連行されるのを見ていたソフィアが首をかしげる。
「なんでしょう?」
「これこれ!」
差し出してきたのは金貨。
そう、ソフィアさんの大切な金貨だった。
「・・・これって!」
「いや~! 班長の勘は外れないね! あの女は必ず売り払うって言うものだから尾行してたら本当に闇市で売り払ったの! 私たちもびっくりしてさ! 今日、闇市の連中を捕まえるついでに取り返して来たんだ!」
色々と指示を飛ばしてるイグニスさんを見るソフィアさん。
「あ、ありがとうございますぅ!」
ぎゅっと、握りしめて大切に胸元へ引き寄せるソフィアさん。
「ううん! 私たちもこの辺の闇市はどうにかしなきゃって思ってたから助かったよ! ひどい商売を裏で手を引いてたやつの証拠も掴めたし、礼を言わなきゃならないのはむしろこっち! だからありがとう! またね! 今度はゆっくりは話そうね!」
手を振って忙しそうに元の場所に戻っていった。
「うっ、うぅ~。 私、ハニオカさんにも、イグニスさんにも、ウズメさんにも、『哨戒班』の方々にも貰ってばっかりですぅ~」
小さくなって泣き始めてしまった。
俺は彼女の隣で片ひざをつく。
「俺もソフィアさんには色々貰ってる。 イグニスさんとウズメさん、『哨戒班』の皆にはこれから返せば良いじゃないか! ほら、俺も一緒にいるからさ」
俺の言葉にはっと顔を上げる。
こちらを見る。
目が合う。
ソフィアさんの頬が赤くなって、嬉しそうに目が輝いた。
「それって・・・」
「ふぅ~! おしまいだね!」
なにかを言いかけたソフィアさんの後から、ウズメさんがいつもの調子で戻ってきた。
「あれ? 邪魔しちゃった?」
俺たちの雰囲気を察したのだろう、申し訳なさそうにする。
そんな彼女のとなりにイグニスさんが腕を組んで不機嫌そうに立った。
「とりあえずあいつらの事は終わったな。 だが、新しい問題が・・・って、どうかしたのか?」
「い、いえ! なんでもありません! イグニスさん! ウズメさん! 本当にありがとうございます!」
立ち上がって頭を下げるソフィアさん。
手には金貨。
それを見てウズメさんとイグニスさんが微笑んだ。
「うん。 気にしないで~! しっかし、イグニスちゃんの勘は良く当たるね! 本当に大きな事になっちゃったよ!」
「まったく。 まぁ、早く知れて良かった。 『国民』に害をなす者は野放しに出来ないからな」
「ふふっ。 お姫様の言葉?」
「むっ。 あ、あぁ。 その通りだ」
ソフィアさんの重荷にならないためだろう、軽く返して話を変えるウズメさん。
それにしても、お姫様の言葉を知ってるなんてイグニスさんはお姫様とどんな関係なのか。
『特別哨戒班』を任されているくらいだから仲がとても良いか、もしくは、爵位持ちだったりするのだろうか?
「さて、ソフィア。 我々はこれから忙しくなる。 君たち2人を家に送り届けたらしばらく『王都』に戻るよ」
イグニスさんがソフィアさんと俺にそう言葉を掛けてきた。
「え? そうなんですか・・・」
露骨に残念そうにするソフィアさん。
その様子にイグニスさんとウズメさんが、嬉しそうに頬を赤らめる。
「か~わ~い~い~!」
ウズメさんがソフィアさんに抱きつく。
「わっ」
イグニスさんは近くによってソフィアさんの頭を撫でる。
「わ、私の方が年上なのだから、問題ないはずだ。 違うか? ソフィア」
「い、いえ! 大丈夫です! 嬉しい!」
「くっ、この! 可愛いやつめ!」
と、2人に撫で回されて嬉しそうなソフィアさん。
とてもほほえましい光景だった。
それを眺めていた時だ。
「ぬぅあぁああ!?」
外から絶叫が聞こえた。
「なんだ!?」
イグニスさんが慌てて外に出る。
俺たちもそれを追いかける。
「嘘!?」
ソフィアさんが玄関で口を押さえて立ち止まった。
「なんだよこれ・・・」
俺も隣で立ち止まる。
イグニスさんとウズメさんは立ち止まらずに目の前の光景に突っ込んでいった。
そう、目の前の光景。
マール家の前。
路地裏。
そこが血の海と化していた。
「あ~らら。 だ~いせ~いか~い?」
路地裏の奥。
倒れて動かない副班長と彼の鞄を漁る何者か。
いや、俺たちは知っている。
あいつは。
「おや~? この匂いは~?」
ぐりんとこちらを向く。
男とも女とも見れる中性的な顔、体、声。
血にまみれて恍惚の表情を浮かべる気色の悪い存在。
「・・・『穢れ人』」
村で戦った『穢れ人』がそこにいた。




