表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第6話 仮面と棘

 放課後の廊下。

 部活のある子たちの声が、いくつも重なっていた。

 笑い声、部誌を手に走る子、LINEの通知音。

 橘天音は、その輪の中心にいた。


「え〜やだ〜あの男子マジで天音のこと好きでしょ」

「天音ちゃん何でもできるもんね〜ズルい」

「今度カラオケ行こ!バラード聞きたい〜」


 彼女は笑っている。

 驚いたふり、照れたふり、謙遜したふり。

 すべてが自然。すべてが完璧。


 でも、そこに**“本当の自分”はいない**。


 そんな中、階段の下から声が響いた。


「は?意味わかんないんだけど」


 女子の怒鳴り声。数人の人だかり。

 その中心にいたのは、花鷹しずくだった。


 その相手――天音の“友達”のひとり。

 明るくて少しおしゃべりな、グループのムードメーカー。


 揉め事の発端は些細なことだった。

 ロッカーでぶつかった。文句を言われた。

 しずくが無視した。相手が嫌味を言った。


 その程度の口火で、しずくは一気に態度を変えた。


「自分の荷物ぐらいちゃんと見てろ。こっちは踏まれてないだけマシなんだよ」

「え、なにその顔。喧嘩売ってんの?だったら黙ってろよ」


 口調は冷たい。表情も硬い。

 それでも、一歩も引かない。


 相手の女子がぐっと目を潤ませたとき、

 天音が、割って入った。


「ちょっと、ごめんね。しずくちゃん……だよね? 何か誤解があったみたい」


 しずくは天音を見た。

 その目には、まるで別の生き物を見るような距離感があった。


「あんた、誰?」


「えっと……私、同じクラス。橘天音」


「ああ、あんたか。“みんなに好かれる子”」


「…………そう、かもね」


 天音は笑った。反射のような、完璧な笑顔だった。

 でも、しずくはそれを見て――明確に嫌悪を示した。


「……気持ち悪いんだよ、その顔」


 周囲が一瞬、静まり返った。


 天音の“友達”が一人、「何それ!」と声を上げた。

 でも、しずくはもう、背を向けて歩き出していた。


 その場は何となく収まった。

 天音は「大丈夫」と言って笑っていた。

 でも、あの言葉――


「気持ち悪いんだよ、その顔」


 ――は、確かに胸に刺さっていた。


 仮面にしか見えないのか。

 “笑顔”が、誰かにとっては拒絶の対象になるのか。


 しずくの目は、

 “演じる天音”ではなく、

 その奥の何かを見抜いていた気がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ