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また同じひとに恋をした



帰りの馬車に乗り込む際、リュカが私を呼んだ。


「待って、シャーロット」


不思議に思って振り返ると。

すると、リュカは宵闇の中でも分かるほど頬を赤く染めていた。

彼は私を見ると、気恥しげに視線を逸らし、私に聞こえるくらいのちいさな声で、言った。


「……そのドレス、髪も。よく似合ってる。きみに」


「……!あ、ありがとう」


彼の雰囲気に、私もあてられてしまって目を合わせられない。思わず、私もリュカから視線を逸らし、俯いた。

照れが先行してしまって、気の利いた言葉も出てこなかった。


だけど、気恥しいのはリュカも同じようだ。

お互い何を言うべきか迷って、不自然な沈黙が落ちた。


そこに声をかけたのは、お兄様だった。


「ほら、シャーロット。帰るぞ……って、お前達何してるんだ?」





「そういえば、リュカのやつ、結局ハスラー家のご令嬢と踊らなかったぞ」


「……そうなのですか?なぜ?」


あの後、私はリュカと別れて、昔からの友人であるクラーラ家の三女、フェリスと会話を楽しんでいた。

そのため、リュカがあの後どうしたかは分からなかったのだ。

私が驚いて言うと、お兄様はどこか言いにくそうにしながらも教えてくれた。


「いやぁ、あの公開告白を見たらさすがに、なぁ……」


「上手くお相手は手配してくださったの?」


「クリストファー殿下にご助力いただいて、フェリクス殿下がダンスに誘われた、から大丈夫だ」


「…………」


結局、兄はクリストファー殿下に頼ることにしたようだった。

あの時、困ったらクリストファー殿下に行くよう言葉を含ませたのは正解だった。

私がそんなことを思っていると、お兄様は話を続けた。どうやら、まだ続きがあるようだ。


「その後、彼女の顔馴染みだという令息がやってきて、まあ、失恋したご令嬢を慰めていたから大丈夫だろう。俺は、あれでまとまると思うな。いい雰囲気だったから」


「そう……」


それなら良かった。

リュカが女性から好まれることは知っているし、過去、何度なくその場面を目にしてきた。


何を考えているか分からないリュカは、ミステリアスだと言われ、女性たちから評判が良い。

口下手なのは寡黙と受け取られ、冷たげな容姿もクールに見られているのだ。


(リュカはとにかく女性に好かれやすいもの。ハスラー家のご令嬢のようなことは今後もあるだろうし、しっかりしないと……!)


私は決意新たにそう思った。

それを見て、お兄様がなんだか残念なものを見る目で私を見てくる。


「……なぁに?」


「いや、リュカはあれでいて、あまり心配はいらないぞ。何せ今までずっと浮いた噂がなかった男だぜ?お前が心配するようなことは無いと俺は思うけどな」


お兄様はそんなことを言いながら足を組む。

私はそれを見ながら、確かに……と思いつつもお兄様に反論した。


「それで安心できないのが、乙女心というものなのよ、お兄様」


私が彼を好きでいる限り、私の奮闘は終わることはないだろう。









春の大舞踏会での盛大な告白は、やはり噂になったようで、あれから社交界はその話で持ち切りだった。


私はライティングデスクの前に座りながら、自身に届いた手紙を開封していた。

リュカとの馴れ初めを教えて欲しい、という友人からの手紙が、あの夜会以来ひっきりなしに届く。

封を切る度に私は苦笑する。


特に、昔からの友人は私とリュカの仲の悪さをよく知っているので、興味津々といった様子だった。


私とリュカの婚約は正式に調い、婚約期間は二年と決められた。

私とリュカは十八歳。

リュカはともかくとして、私は適齢期ギリギリである。ほんとうなら今すぐにでも結婚するべきなのだけど、それではあまりに体裁が悪いため、設けられたのが二年という婚約期間だった。


(……どんな二年になるかしら?)


友人知人からの手紙の封を次々に切りながらそんなことを考える。


そして、最後に手に取った手紙を見て、私は目を見開いた。

その差出人は、ちょうど今考えていたひとだったから。

封を切り、中の手紙を確認する。

それは、一通のメッセージカードだった。


「ふふ、リュカっぽい」


【植物園に行こう。きみと、あの花を探したい】


短いのが、何とも彼らしいな、と思った。


同封されているのは、ドライフラワーにされた、リモニウム・アウレウムだった。

これは、乾燥地帯によく見られる植物だそうで、入手は困難だったことだろう。

少なくとも、ロントウェルでは見られない花だ。

きっと、手間をかけて取り寄せてくれたのだと思う。

私は、ドライフラワーを手に取って匂いを嗅いだ。

仄かに優しい、甘い花の香りがする。

それが、胸をいっぱいにさせた。


リュカの言うあの花──というのはリモニウムのことだろう。

リモニウム・アウレウムはこの国には咲いていないから。


私はリュカに返事を書こうとして、ぴたりとその手を止めた。

少し考えてからテーブルの上の呼び鈴を鳴らす。


「どうされましたか?」


やってきたのはエマだった。

私はスツールから立ち上がると、エマに言う。


「ツァーベル公爵家に伺うわ。……先触れを出してくれる?」


お返事は、手紙ではなく直接しようと思ったのだ。

私が言うと、エマはにっこりと笑って頷いた。


「かしこまりました!」


彼女が部屋から退室していくのを見送りながら、私は過去に思いを馳せた。


(リュカとは長い付き合いだし、幼馴染だけど……)


それでも、知らないことはたくさんある。

私は、恋人としてのリュカを知らない。


だから、この二年は彼を知る期間になるといいな……なんて、そんなふうに思っているのだ。


そう思いながら、私はツァーベル邸に着ていくドレスを選ぶことにした。








fin.



本当は十万文字前後での完結を予定していたのですが、なぜかその倍近くなりました。

そのうち、二人のその後のお話とか書きたいです。

書きそびれたエピソードもあるので…

多分また長くなってしまう気はするのですが。

ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました!またどこかでお会いできれば嬉しいです。


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⭐️新連載始めてます⭐️
↓覗いていただけたら嬉しいです↓
毒を飲めと言われたので飲みました。
― 新着の感想 ―
すっごくおもしろかったです。昨晩から読み始めて、あまりにおもしろくて、今朝方まで読んでしまいました。すっかり寝不足です!! シャーロットがカッコよくて大好きです。私はこういう女性オシです。お相手のリュ…
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