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都合が良かっただけでしょう

「あ、でも私はお兄様の妹ですから!お義姉様とはまた意味が違いますし、ね」


そうやって、フォローを入れるところがまたわざとらしい。

私はじっとルアンナを見つめ、観察していたが、やがてにっこりと笑みを浮かべた。


公爵令嬢(わたし)相手に優越感に浸る(マウント)なんて、いい度胸してるじゃない。


以前の私はどうだったか知らないけど、今の私は、愛するひとの妹だからと手加減したりしない。そもそももう愛していないし。


「あら、それはどういう意味?」


「え?ですからお兄様から……」


「ああ、言葉の意味を聞いているわけじゃありませんのよ。私が聞きたいのは、どういう意図があって、それを私に言ってるのか、ということです」


「え……」


ルアンナは固まった。

どうやら思考処理能力が停止したらしい。


だけど私は追撃の手を緩めず、さらにルアンナに言った。


「もし、あなたが悪意なく言っているのなら無神経ですし、悪意を持って言っているというのなら立場を理解されていないということになるわね」


「な……。そ、そんな言い方しなくたって……。私は嬉しかったから、だからお義姉様に報告しただけなのに……」


「あら、では悪意なく言った、ということですわね。それならば、あなたは他人の感情を慮ることのできない、無神経な人間ということです。これを機に、その浅慮は控えた方がよろしいわ」


「ひ、酷い。前のお義姉様はそんなこと全然言いませんでした!お義姉様は、私が元平民だからってバカにしてるんですか!?だから、そんな意地悪を?」


「意地悪を先に言ったのはどちら?それにね、ルアンナ様。私はあなたの義姉になるつもりはなくてよ」


ピシャリと彼女の言葉を叩き落とすように言うと同時に、部屋の扉がノックされた。

見れば、侍女が入室するところだった。

彼女はルアンナを見て、私を見て、言った。


「お嬢様。ジュリアン・ザイガー様がいらっしゃっております。お通ししますか?」


「このまま玄関ホールに行くから、そこでお待ちいただくようお伝えして」


思ったより早い到着で何よりだ。

私は、ルアンナが邸を訪れてすぐ、ザイガー子爵家に連絡をしていたのだった。


『お宅のご令嬢が先触れもなく訪問したから、引き取って欲しい』


そのような文言を先方に伝え、引き取り手を召喚したのだった。

ジュリアン様とは会いたくないけれど、これ以上ルアンナと話す気もない。

私はルアンナにふたたび向き直ると、彼女に言った。


「あなたの最愛のお兄様がお迎えに来てくださいましたよ」


「……っ!シャーロットお義姉様は意地悪になってしまわれたわ。以前のお義姉様はそんなことはなかったのに……」


以前、以前、と言われますけど。

今の私が全てなのですが??


それに、以前の私は意地悪を言わなかった、とあなたは言うけれど。

それはあなたにとって都合のいいことしか言わなかった、ということだけじゃないの?


「生憎、これ以上、あなた達のサンドバッグになる気はありませんの。早くおかえりいただけるかしら」


「サンドバッグ……?」


「ほら、行きましょう?もう二度と、先触れもなく他家の邸宅を訪れる……なんて品性のない行いはしないでくださいませね?子爵様の顔にも泥を塗ることになりますわよ」


ルアンナは唖然とした様子だった。

まさか、私がここまで言うとは思わなかったとでも言いたげだ。

以前の私がどんな性格だったかは知らないけど、今の私はやられたらやり返すタイプの人間だ。

ルアンナを促して部屋を出ようとした時。


扉の向こうの方からドタドタとひとの足音が聞こえてきた。

公爵邸で、こんな乱暴な歩き方をするひとはいない。

ということは……。


バンッと扉が開き、現れたのは予想通り、私の婚約者である彼だった。


「ルアンナ!シャーロットに何かされていないか!?」


一言目が、それですか。

そうですか。


今の私は、どんな顔をしているのだろう。

少なくとも、にっこりと微笑みを維持しているのは間違いないはずだ。

ジュリアン様は、ルアンナを見た後、私を見た。

ふたりまとめておかえりいただけます?


「何か、ってなんですか?」


私が尋ねると、ジュリアン様は目を細め偉そうに言い捨てた。


「お前が、ルアンナに嫉妬して意地悪でもしたら可哀想だろう。ルアンナが」


ルアンナルアンナってうるさいわね。

まとめて放り出すわよ。


「お兄様、実は……」


ルアンナ、あなたは口を閉じなさい。

余計に場が混乱する。


というかジュリアン様、執事の案内を無視して強引にここまで来たってこと?

それが貴族令息のやること~~?どこのチンピラよ……。

私はうんざりしながら、彼に言った。


「あの、今の私はもうあなたを愛していません」


「なんだと?」


ジュリアン様が眉尻を釣り上げる。

……とても偉そう。

日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。


「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」


今の私は、あなたを愛していません。

婚約は解消にしましょう。穏便に。

それが私たちのためだ。

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毒を飲めと言われたので飲みました。
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