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【書籍化&コミカライズ】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。  作者: ごろごろみかん。
最終章:また同じひとに恋をする

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都合がいい……わよね〜

苦笑しながら言葉を引き継いだのは、リュカだった。


「────」


それを聞いて、私は大きく脱力した。

どっと力が抜けて、先程のように床に崩れ落ちそうになってしまう。すんでのところで、ベッドに掴まって、へたり込むことだけは避けられた。


「…………良かった」


こころからの安堵を声にする。

いや、骨折は良くない。

それでも、銃弾を受けたのではなくて……ほんとうに、良かった。


「きみの贈り物のおかげだよ」


リュカの声が頭上から聞こえてくる。

私はしばらく、シーツに顔を押し付けて、彼の無事を神に感謝していたけれど。

ふと、思い立って、がばっと顔を上げる。


「銃撃犯は?犯人は捕まっているの?」


答えたのは、背後のチャーリーだ。


「はい。すぐに捕らえられ、ダニエル・ボレルに命じられたと自白しました」


「…………そう」


私の不安は的中したようだった。

あのまま、ダニエル・ボレルが黙って引き下がるとは思えなかった。


(だけどまさか……リュカを殺そうとするなんて)


万が一を考えてリュカにチェーンメイルと鉄板を渡したけど……それが役に立つとは、正直思っていなかった。

というより、役に立つ状況になって欲しくなかったのだ。

それでも、私の贈り物が結果として彼を助けた。それは奇跡のように思えて、私はふたたび指をしっかり組んで、神への感謝を捧げた。


それから、私は振り返ってチャーリーとジョージのふたりに尋ねる。


「それで、ダニエル・ボレルはどうなったの?」


「拘置所に拘束されています。本人は無関係だと騒いでいますが──今は、王都にいらっしゃるザイガー子爵に報告をし、指示を待っている状況です」


「ザイガー子爵……」


彼は今、それどころではないだろう。

ジュリアンが偽物だったことが明るみになり、彼もその事情聴取に追われているのだから。


少し悩んだ私は、チャーリーとジョージ、ふたりに言った。


「それなら、ダニエル・ボレルは王都に移送しましょ。この件、王太子殿下も把握されているわ。関所とそれにかかる関税について、調査のため城の文官を数人連れてきたけれど……。このまま戻った方が話は早いわ」


「王太子殿下、ですか」


思いもよらない名前が出てきたからか、ふたりは息を呑んだ様子だった。

それに、私は頷きを返す。


「文官のひとりをこの地に残しましょう。ダニエルといえど、代理領主が不在になったらセレグラの住民が困るでしょう?だから、そのまた代理として。私たちは、リュカの傷が回復次第、ダニエル・ボレルと残りの文官と共に王都に戻るわ。それでいいかしら?リュカ」


リュカを見ると、彼は私の言葉に呆気にとられていた様子だった。

だけど私が呼びかけるとハッとしたように頷いた。


「それで構わない。あと一、二週間もすれば動けるようになると思うから、それまでにダニエル・ボレルの側近から引き継ぎをしてもらう……ってことでどうかな」


さすがリュカだ。

話が早い。

昔は、彼のこういう、一を聞いて十を理解するところが妬ましくて仕方なかった。それをふと、思い出す。くだらない嫉妬心だ。

私は長年、それに囚われていた。


『それに……以前の私のリュカへの態度は、たしかに酷いものだった』


リラに言った言葉を思い出す。


(ほんとうに……私は都合がいいわ。調子がいいって言うか……)


それを痛感しながらも、私はリュカに頷きを返す。


「……そうね。そうしましょう」


そして、私はチャーリーとジョージのふたりを見た。


「ふたりとも、来たばかりで申し訳ないのだけど……文官たちに伝えて来て欲しいの。ダニエル・ボレルの側近と連携を取って動いて欲しい、と」


お願いすると、ふたりはすぐに頷いてくれて、そのまま病室を去っていった。

残されたのは、私とリュカのふたりだけ。

チャーリーとジョージが説明してくれたのか、診察所の人間は誰も来なかった。


私は、ため息を吐くと、リュカのベッドに腰をかけた。

ぎし、とベッドの軋む音がする。


「骨折は、大丈夫なの?痛くない?」


尋ねると、リュカは苦笑した。


「銃で撃たれるよりはよっぽどマシだと思う」


「……でも、痛いわよね」


私はそっと、毛布の上から、彼の腹部に触れた。

それからふと、いいことを思いついた。


「患部は熱を持っている?もしそうなら、私の異能で冷やせないかしら」


ぐっと拳を握ってリュカに言うと、彼は首を横に振って答えた。


「いや、今はだいぶ落ち着いているから。ありがとう、シャーロット」


「……大変な時に、傍にいなくてごめんなさい」


リュカの、灰青の瞳を見つめる。

冷たそうに見えるのに、実際はとてもあたたかなひとであることを──今の私は知っている。

リュカは首を傾げて微笑んだ。


「いいよ。……きみが王都でしなければならないことは、済んだ?」


それがあまりにも優しい声だったから。


私は一瞬息を呑んで、それから。

言おうと思っていたことを、口にした。


「っ……私、ジュリアンとの婚約は正式に破棄したの」


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⭐️新連載始めてます⭐️
↓覗いていただけたら嬉しいです↓
毒を飲めと言われたので飲みました。
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