銃撃の結果と、その理由
大急ぎで、私はリュカのいるファーマルの診察所へと向かった。
そこでリュカは医者に診てもらっているようだ。
報告を受けた直後、私はあまりのことに呆然としてしまい、リラに声をかけられて我に返った。
いつの間にか、手を強く握っていた。
白くなるほどに。
その手を、エマが握ってくれる。
大丈夫だ、と励ますように。
私は彼女の気遣いに感謝しながら、それでも、悪い想像ばかりが頭を駆けめぐった。
いてもたってもいられなかった。
(どうしよう、どうしよう。リュカに何かあったら)
彼の異能は、強力だけど彼の言った通り、弱点が存在する。
それは──。
『自分より、一ヤード以内にしか異能は使えないんだ』
つまり、不意打ちで飛び道具を使われたら、彼には防ぐ手段がない。
私のように生産型の異能を持つ人間は、基本的に壁となるものを生み出してしまえば遠方からの攻撃も防ぐことができる。
だけど、リュカは違うのだ。
銃撃に倒れたリュカは、そのままファーマルの診察所に運び込まれたと聞くが、容態は不明だ。
祈るような気持ちで私は馬に乗り、ファーマルへと向かった。
関所は既に機能しておらず、以前見たちょび髭の男性もいない。
私は舗装された道を馬で駆け抜けた。
セレグラの兵士──以前知り合った、チャーリーとジョージが同行してくれている。
侍女たちは馬に乗れないので、後から来ることになっていた。
ファーマルの診察所に到着すると、私は馬を預けることすら忘れて、中に駆け込んだ。
受付の女性にリュカのことを尋ねると、奥の部屋を案内された。
心臓がバクバクと音を立てる。
扉を大きく開けた私は、そのひとの姿を探した。
「リュカッッ!!」
悲鳴のような声を上げた私が見た、ものは──。
ベッドの上で目を閉じ、ぐったりとした様子のリュカ、ではなく。
「シャーロット?」
ヘッドボードに背を預け、こちらを見ているリュカだった。
…………生きて、る。
ようやく、それだけ理解すると私はへなへなとその場に座り込んだ。
それを見たリュカがギョッとしたように私を見た。
「シャーロット!?──っ痛」
慌ててベッドから降りようとした彼は、しかし痛みに呻き、動きを止めた。
ハッと我に返って、リュカに駆け寄る。
見れば、リュカは上半身裸で、腹部に包帯を巻いていた。
「痛むの?私、あなたが銃撃に遭ったって聞いて……!!」
彼はベッドに肘をつきながら顔を上げると、苦笑した。
「ああ、うん。でも大丈夫」
「大丈夫なんかじゃないわ……!この包帯、怪我をしているのでしょう?弾は貫通した?聞いたことがあるわ。弾が体内に埋まったままだと鉛中毒になってしまうって……!!」
半泣きになりながらリュカの腹部を見て、詳細を知っていそうなひとを探す。
しかし、室内にはリュカしかいなかった。
動転した私を見て、リュカがまた苦笑する。困ったように。
「シャーロット」
「わ、私、やっぱりあなたを置いていかなければ」
「シャーロット、落ち着いて。俺、撃たれてないから」
「…………は?」
ぽかんとする私に、リュカが「よっ……と」と言いながら、またヘッドボードに背を預けた。
そして、毛布を胸元まで持ち上げる。
「こんな格好でごめん。包帯を替えたばかりなんだ」
「そ、そんなことより……!撃たれてないって、どういうこと!?」
勢い余って、私はベッドに手をついた。
リュカは、私を見ると、ひとつ頷いた。
「きみがくれた鎖帷子……と、鉄板。鉄板だな。あれが効いた」
「あ…………!」
それで、私は思い出した。
セレグラを発つ前、私は彼にプレゼントをしたのだ。
チェーンメイルと、鉄板。
好きなひとへの贈り物としてこれはどうかと思ったのだけど……。
「着けて、くれていたのね……」
「そりゃあね。きみがくれたものだし」
リュカが照れたようにはにかんだ。
そこで、第三者の声が室内に響いた。
「あのー、いいですか?そろそろ」
ハッとして振り返ると、そこにはチャーリーとジョージがいた。ジョージは苦笑して頭をかいていて、チャーリーは気まずそうに私たちから視線を逸らしていた。
すっかり、ふたりのことを忘れていたわ……。
私がふたりを見ると、チャーリーが私を見る。
そして、静かに言った。
「銃撃はありました。ですが、ツァーベル卿は防具を仕込んでおりまして……。銃弾に穿たれることはなかったのですが」
「骨が折れたんだ、肋の」




