私の名にかけて、あの男の罪を暴くと誓いましょう
思わず息を呑む。
ジュリアンが偽者、という言葉が現実味を帯びてきた。
クリストファー殿下は淡々と言った。
「だけど、それを証明するものはないんだね?」
「…………はい」
その通りだ。
今あるのは、私が彼のこころの声を聞いたという、あまりにも信ぴょう性に欠ける情報だけ。
彼を問い質すには、誰が見てもそうだとわかる証拠を見つけださなければならない。
そのためには──。
そこで、彼が席を立つ。
「私の方でも調べてみよう。……あなたはどうする?」
「もちろん、私も調査します。このままでは終われません」
思い出すだけで腹が立つ。
ジュリアンは私を侮辱し、その矜恃を貶めたのだ。
私は、このままただ引き下がる女ではなかった。
(強くいえば言うことを聞く女だと思ってるんだわ)
こちらを見下し、舐め腐るのもいい加減にして欲しい、というものだわ。
(この屈辱、必ずお返ししてさしあげる)
「ですが、クリストファー殿下」
ひとつだけ、気になって私は彼に声をかけた。
クリストファー殿下が首を傾げる。
さらさらとした白金が彼の耳元で揺れる。
「信じて、くださるのですか?私の言葉を」
何の確証もない。あるのは、私の証言だけ。
あまりにも信ぴょう性の薄いものだ。それを、なぜ彼は信じてくれるのだろう?
不思議に思って尋ねると、彼は少し驚いたように目を見開いた後。
「……こう見えても、私はあなたのことをずっと見ていたんだよ。何せあなたはヘンリーの妹で、五大公爵家のひとつ、シェーンシュティット家の令嬢だ。そして、私の婚約者筆頭候補でもあった。これでも、私なりに気にかけていたんだよ」
にっこりと笑ってクリストファー殿下が思いを綴る。
初めて知った彼のこころの内に、私は瞬きを繰り返した。
秘密主義者で、なにを考えているか読めないひとだと思っていたけど……私のことを気遣ってくれていたらしい。
彼がわざわざ、私に会いに来てくれたのも彼の言うとおり【気にかけて】くれていたからなのだろう。
それを知ると、胸の奥がほんのりと温かくなった。
「……ありがとうございます」
「ジュリアンが偽物だったとして。もしそうなら、あなたは騙されていたことになるね」
「そうですね……」
その通りなので、硬い声が出る。
クリストファー殿下が、窺うように私を見る。
楽しげな色を、その薄青の瞳に宿して。
「面白い子だね、あなたは。諦めないんだ」
「……私は、由緒ある五大公爵家がひとつ、シェーンシュティットの娘、シャーロット・シェーンシュティットです」
誰もが知る事実を、口にした。
ただの事実。だけど、その言葉には、言葉以上の重みがある。
クリストファー殿下もそれに気付いたのだろう。
目を細めて私を見た。
「その私の矜恃を貶め……いいようにしてくださったお礼は、必ずいたしますわ。これは、私の意地とプライドの問題です。私の名にかけて、あの男の罪を暴くと誓いましょう」
もっとも、これは私への罰だとも思っていた。
容姿端麗な男に調子のいいことを言われて、舞い上がったのだ。あっさり恋に落ちて、溺れて、愚かにも真実を見誤った。
結果、こうして痛い目を見ている。
この失敗を挽回するためにも、この雪辱を果たすためにも。
私は、必ず彼の正体を暴いてやると決意していた。
私が宣言すると、クリストファー殿下はぽかんと私を見たあと──。
「ふ、ふふ、ふふふふ!あはは……!いいね、シャーロット。やっぱりあなたは、私の妃に向いているよ」
間違いなくお世辞だろうけど、私はお礼を言っておいた。
「ありがとうございます。ですが、私にあなたの妻は務まりませんわ」
なにせ、性格の相性が壊滅的に悪いもの、私たち。
☆シャーロット・シェーシュティット
18歳
☆リュカ・ツァーベル
18歳
☆ジュリアン・ザイガー
20歳
☆ルアンナ・ザイガー
16歳
☆クリストファー・ロントウェル
26歳
☆フェリクス・ロントウェル
22歳
☆ヘンリー・シェーンシュティット
22歳
☆ルーク
19歳
2025-02-06 本文を修正しました




