そのまさかが的中してしまったわ
「シャーロット……」
お兄様が気遣わしげに私を見る。
よっぽど、私はつれない婚約者にフォーリンラブしていたのだろう。
私の質問に答えたのは、リュカだった。
「ああ。俺からしたらどこがいいのかわからないけど、きみは熱を上げてたよ」
…………予想はしていたけど。
知りたくなかった事実だわ。
私は思わず額に手を当てたくなった。
☆
数日後。
私は自室で王子殿下の言っていた裏の日記、なるものを探していた。
裏の日記も表の日記と同じ大きさだと思っていいのかしら……。
手当り次第、日記が入りそうな場所を探すが、見つからない。
というか、どんな色かも分からないのよね。
カバーはついてる?色は?厚さは?大きさは?
なにひとつわからない。
知らないものを探すのはハードルが高い。
それでも思い当たる場所をとにかく探しまくり、ついには衣装棚にまで手を伸ばした。しっちゃかめっちゃかにしたら、翌朝侍女が悲鳴をあげるだろう。強盗でも入ったのかと腰を抜かすかもしれない。
できるだけ乱さないよう注意を払いながら、布の間に手を差し込み、それらしいものを探す。
数十分後。
私室、寝室、衣装室を一通り調べ尽くした私は、私室に戻った。ソファに腰をかけ、顔を手で覆う。
(…………見つからない!!)
まっ……たく、見つかる気配がないのだ。
あまりに見つからなすぎて、私はほかの可能性を考え始めていた。
もしかして、裏の日記、とはなにかの比喩なのではないだろうか。
もしそうなら、完全にお手上げだ。
私は、日記探しに疲れたため、先日の夜会のことを
思い出していた。
つまり、休憩である。
あの後、夜会ではジュリアン様と話さなかった。
彼の連れの女性とは目が合ったが、彼女の目は好意的ではなかった。
お兄様に彼女のことを尋ねれば、彼女はジュリアン様の義妹だという。血の繋がりのない妹ではあるが、ジュリアン様はそれはそれは、彼女を大切にしているとか。
例え、彼の妹であろうと彼と彼女に血の繋がりはない。
ずいぶん仲睦まじい様子ではあったけど。
……過去の私は、彼らをどんな思いで見ていたのだろう?
ジュリアン様というひとを知れば知るほど、日記に書かれている彼と乖離していく。
彼の義妹は、ルアンナ、というらしい。
ルアンナ、ルアンナ……。
どこかで聞いた名前だわ……。
どこで聞いたのだっけ。
私は少し考えた後、その答えに辿り着いた。
そう。
私が階段から転落して数日後。
婚約者のジュリアン様がお見舞いという名の請求書を渡してきた時、共に口にしていた名前が。
『ルアンナへのプレゼントだよ。お前へのはずがないだろう』
あ、あいつかーーーー!!
つまり、なに?
ジュリアン様は、義妹へのプレゼントの請求書を私に押し付けていた、ということ??
それを、私は納得していた??
私は、知らずのうちににこやかな笑みを浮かべていたようだった。
怒りのゲージが限界突破をしたあまり、笑顔になっていたのである。
だけど、それなりに迫力のある──圧のある笑みだったようだ。
リュカやお兄様はそんな私にたじろいでいた。
そして、それ以降私は王子殿下とも話すことはなく。
今、こうして部屋の中を片っ端から探している。
それにしても。
裏の日記に何が書かれているかはわからないけれど。
それを見れば、少しは過去の私を理解することは出来るかしら。
というか、そんなものが存在するならなぜ裏と表で分けているのだろうか……。怪しい。怪しすぎる。
(さて、そろそろ探索を再開するとしますか)
そう思って腰を上げたものの。
思いつく場所はあらかた探し尽くしてしまっている。
悩んだ私は、うろうろと室内を歩き回った。
(うーん……。さすがに、こんなあからさまな場所にはないわよねー)
よく、小説ではライティングデスクの引き出しの底が二重底になっていて──なんて仕掛けをよく見る。
だけどあれは、フィクションだからこそ、よね。
実際、そんな小細工のために手間をかけるひとなんてなかなかいないだろう。
しかも、自分の日記を隠すという理由だけで。
そう思いながらも、気になったのでライティングデスクの引き出しを開け、奥に手を差し込むと。
ガコ、と妙な異音がした。