表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。  作者: ごろごろみかん。
第四章:見覚えのある光景

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/80

腹黒殿下にこき使われたくは無いけれど

その後、私はまたひいひい言いながら下山……ではなく坂を降った。

ルークが付き添いを申し出てくれたが、この寒さの中、そのためだけに連れ出すのは申し訳ない。

念の為、アントニオの家を出てから異能制御装身具を外したが、特に何事もなく。

宿屋に到着すると、私は受付でリュカが戻っているか尋ねた。

生憎リュカはまだ帰っていないようだ。


そのため、私は先に自室に向かい、休憩をとることにした。


「お嬢様、お戻りになったのですね」


侍女のリラとエマが、それぞれほっとした様子を見せた。

リラとエマは、公爵家の侍女だ。この旅に同行してくれている。


私はエマにコートを渡した。

エマは、薄いそばかすが頬に浮かぶ茶髪の少女だ。私と年齢はそう変わらないだろう。

聞けば、彼女は私の乳母の娘らしい。


彼女から話を聞き、納得した。

やはり、セレグラの現状はルークが言っていたとおりのようだ。


私はふと思い立ち、彼女に尋ねた。


「あなたから見た、私って、どういうひとだった?」


「お嬢様ですか?」


「ええ。記憶を失う前の私と、今の私……。変化はある?」


私の聞きたいことがわかったのだろう。

少し悩んだ様子を見せたが、彼女ははにかんで答えた。


「いいえ。お嬢様はいつだって、どんな時だって強くて毅然とした、美しい方です」


「そ、そう」


それは身内の欲目だろうが、思った以上に褒めそやされてしまい、気恥しい。

そのまま黙り込むと、エマが好奇心を隠せない様子で私に尋ねてくる。


「その……お嬢様」


「なぁに?」


その時、扉がノックされた。


「失礼します、リラです」


入室したのは、リラだった。

リラは、橙色の髪をお団子にまとめた若い女性だ。私よりも少し、年上のように見える。彼女は、私が幼い頃から私の侍女をしてくれているようだ。

リラの手には、トレーがある。その上には、ポットやカップといったティーセットが。

リラがティーセットを配膳し始めると、エマが先程の会話を続けた。


「お嬢様は、ツァーべル卿とご婚約されるのですか……!?」


ガシャン、と音がする。

驚いて見れば、珍しくリラがカップを取り落としていた。割れてはいないようだ。

彼女は「申し訳ありません!」と謝罪した後、厳しい視線をエマに向けた。


「エマ!なんということをお嬢様に聞くの!?」


「う、で、でも気になって……」


「あなたの質問は、侍女の分を超えています。申し訳ありません、お嬢様。エマの問いはお忘れください」


「え、ええ……」


エマの質問より、私はリラの注意の方が驚いた。

エマがこうした発言をすることはよくあることだったし、私自身、彼女のそういうところを気に入ってもいた。

少し考えてから、私はしゅんとしているエマに言った。


「リュカ様のことは……まだ分からないわ」


「お嬢様……」


リラが困ったように私を見る。

それに、私は苦笑した。


「まあ、いいじゃない。ここは邸なのではないし……リラも気になってるのではない?リュカは異能騎士といっても私の幼馴染らしいし、お兄様とも仲が良いのでしょ?」


「…………お嬢様とツァーベル卿は仲がお悪くいらっしゃいました。すべてを思い出されたあと、お嬢様がどう思われるか考えると私は……」


リラは言葉を濁した。

確かに、以前の記憶を取り戻した私がリュカに悪感情を抱く可能性はある。

だけど。


「それでも、今の私の気持ちが失われると決まったわけではないし……。ジュリアン……様と婚約解消したらどうするか、なんて、正直まだ考えていないのよ」


危うくジュリアンと名を呼び捨てそうになって、慌てて付け足すように敬称を口にする。敬う気持ちがないから呼び捨てるのであって、親しいからと取られてはたまらない。

今は、ジュリアンとの婚約を解消するのが最重要事項だ。

それからのことは、あまり考えていない。

貴族の娘なので、いずれ結婚しなければならない、とは思っているけど……。


(もし結婚が嫌ってなったら……。クリストファー殿下あたりに相談すればなにか、職を斡旋してくれるかもしれないし)


今回みたいに現地調査もするし、私の異能は使い勝手がいいと思うのよね。

そんなことを考えながら、私はリラが淹れてくれた紅茶に口をつける。

それから、大切なことを思い出した。


「そうだわ。あなたたち、しばらく宿を出ないで欲しいの」


私の言葉に、彼女たちが不思議そうに目を瞬かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⭐️新連載始めてます⭐️
↓覗いていただけたら嬉しいです↓
毒を飲めと言われたので飲みました。
― 新着の感想 ―
リラとエマは、公爵家の侍女だ。この旅に同行してくれている。 確かに17話で「もちろん、供に侍女はつけるけれども。」って言っているけど 旅の話には船の中でも宿屋の話にも一切でてこなかったので二人旅なの…
突然侍女がわいて出た感。 船の時もホテルにチェックインするときも二人きりでした。二部屋しかとってないしね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ