結局、リュカの異能はなんですの!?
(婚約者……ジュリアン様!?)
思わず目を見開いた。
私の反応に彼も驚いたのだろう。たじろいだ様子を見せる。
《不仲なんだかなんだか知らないが、あんたを始末しろって命令を受けてるんだ。前金ももらってる。失敗するわけにはいかないんだよ、こっちは……!!》
どうして、ジュリアン様が──。
婚約を解消されそうになったから、その腹いせに暗殺?
浅慮すぎる。私を殺しても彼に利などない。
それなら、なぜ……?
だけど、流石に彼らもジュリアン様の目的までは知らないだろう。
ジュリアン様の名を出して、彼の目的は何だと尋ねるわけにもいかず沈黙していると、遠くからひとの声が聞こえてきた。
見れば、セレグラの衛兵のようだった。恐らく、先程の爆発音と銃声を聞き付けたのだろう。
リュカと目が合って、瞬間、しまった、と感じた。
《……大丈夫なのか?》
《鼻の頭も真っ赤だし、寒そうだし》
《一旦、宿に戻るべきか》
《いや、シャーロットはどうしてもあの異能者に会いたいと言ってた》
リュカの声が点々と聞こえ、私は慌てて異能制御装身具を身につけた。
ファースト異能の使い勝手はいいが、セカンド異能は強制的に発動してしまうのが難点だ。発動しなくてもいい時も、使えてしまう。
リュカが、雪をぎゅっぎゅっと踏みながらこちらに歩いてくる。
「衛兵の対応は俺がするから。シャーロットは、先にアントニオ・アーベルのもとに行ったらいい」
「え?でも」
「衛兵を何人か借りよう。向こうも、セレグラで貴族の殺傷沙汰は勘弁だと思っているだろうしな。多少の融通は効くと思うよ」
……リュカが話した通り、坂の上まで、ということでふたりの衛兵が私の護衛についてくれることになった。リュカは事情を説明するため、衛兵の詰所に行くこととなり、ここで一旦別れることとなった。
どうして、私がアントニオ・アーベルに会おうとしているか、彼は知らない。
それなのに、私の事情を優先させてくれたのだ。その気遣いに、嬉しく思った。
衛兵に連れられて、私たちを襲撃した彼らが連行されていく。衛兵の隣にはリュカがいて、衛兵たちと何か話し込んでいるようだ。
私は彼らを見送りながら、ふと、足元に視線を向けて目を瞬いた。
先程、私たちに向けられて発砲された銃弾だが。
確かに、足元に散らばっていた。散らばっていたのだけど──。
その形が、歪だ。
ひしゃげた?かのような、そんな形。
強い力で掴まれたかのように、銃弾は形を変えていた。
そういえば、さっき。
突然、銃弾が重力を失ったかのように地面に落ちたのだった。
……リュカの異能?
私は、落ちた銃弾に触れた。
隣で私の様子を窺っていた衛兵も、驚いたように屈んだ。
「うわぁ、すごいですね。これ、リュカ・ツァーベル様の異能ですか」
「……そうみたい。リュカの異能、あなた知ってる?」
尋ねると、衛兵は慌てて首を横に振った。
見れば、その隣に立つ衛兵もゆるく首を横に振っていた。
どちらも知らないようだ。
「ツァーベル卿は異能騎士ですよね?異能騎士の異能なんて、一介の騎士が知るものじゃありませんよ」
「……そういうもの?」
「はい。シェーンシュティット公爵令嬢はご存知なのでは?」
カッコで、幼馴染なのですし、という言葉が付随しているような声だった。
私は、その返答に少し迷った。私の記憶喪失は、一部では知られているとはいえ、あまり大大的にするべきではない。
記憶が無いのをいいことに、あることないこと言いふらされたら、私自身それが真実か偽りか、分からないためだ。
返答に悩んだ私に助け舟を出したのは、もうひとりの騎士だった。
「それより、早く行きましょう。ここにいては寒いですし」
その一言で、私は凍りつくような寒さを今さら。思い出したのだった。




