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【書籍化&コミカライズ】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。  作者: ごろごろみかん。
第四章:見覚えのある光景

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確かに、覚えてるの


あれから部屋を出ないよう気をつけていたからか、あれ以来ルアンナと会うことはなかった。


部屋にこもりきりの生活を続け、五日後──。

私とリュカは、セレグラ地方へと降り立った。


「ここがセレグラ……さ、寒いですわー!!」


私は思わず頬を手で包んだ。

クリストファー殿下が言っていたとおり、セレグラは雪に覆われていた。

降雪量も多く、積もった雪は三メートルほどもあるのではないだろうか。

山の方などはもう、完全にあれだわ。雪山……。


防寒対策はしてきたつもりだけど、それでも露出している頬や鼻といった部分に風が直撃しますわーー!


びゅう、風がふきつけて、その冷たさに歯がカチカチと鳴った。


「さささ、寒いですわね!早いところ、本日の宿に向かいましょうか!荷物を置きたいですし」


意味もなく大声で私はリュカに言った。

それまで街の様子を窺っていたリュカが頷いて答える。


「ああ、うん。……シャーロット、大丈夫?」


「だだだ、大丈夫に見えます?」


寒すぎて、舌がかじかんで呂律が上手く回らない。ガチガチと歯を鳴らす私を見て、リュカが眉を寄せる。


「リュリュリュカ様はふふふ普段と同じ様子ででですわねねねね?」


もはや何を言っているのか判別が難しいほどである。

おかしい。私は寒さに弱いのかもしれない。いや、寒いですわ!!

セレグラの地元住人と思われるひとたちは、慣れたように雪かきをしたり、その場で話し込んでいるひとまでいる。

それに絶句した。


何ですのあのひとたちはーー!


私は寒さのあまり、洟だって垂れそうですのに!


淑女としてあるまじき姿である。


リュカは、そんな私を見て長居は禁物だと考えたらしい。短く答えた。


「早く移動しよう。あと、俺も寒いよ。顔に出にくいだけ」


か、顔に出にくいだけ、ですってーー!


この寒さを前にして顔に出ないひとがいるなんて、にわかには信じにくい。


私は、毛皮のコート、カシミヤのマフラー、厚手の手袋までしているというのに、寒くてたまらないですわよ……!

ガタガタ横に縦に震える私を先導する形で、リュカが歩き始めた。




予め、宿の予約はしていたのでその宿へと向かう。

分厚い二重扉をくぐると、途端、暖かい空気に包まれた。


「い、生き返りますわぁ~~~!」


私はこころから息を吐いた。

見れば、室内には暖炉に炎が灯っている。


コートについた雪を払っていると、ふと、リュカのコートには雪がついていないことに気がついた。


「リュカ様のコートは無事ですね?」


不思議に思って尋ねると、チェックインの手続きをしていた彼が「ああ」と気がついたように言った。


「俺の異能だよ」


「え……?雪がコートにつかない異能……?」


「いや、そうじゃなくて──」


リュカがそこまで言った時。

カウンター内の受付の女性が振り向き、私たちに言った。


「お部屋は202号室、204号室となります。こちらは、鍵となりますので無くさないようお願いしますね」


リュカがふたつの鍵を受けとり、その片方を私に手渡した。


「きみは204号室でいい?」


「構いませんわ。ありがとうございます」


結局、チェックインの手続きはすべてリュカに任せることになった。



部屋に荷物を置き、宿に併設されている食事処で昼食をとった後。


私は、早速テーブルに地図を広げた。

地図はこのセレグラ地方のものだ。

事前に確認済みのため、地図には書き込みがいくつもある。


アントニオ・アーベルの家は、ここから徒歩で二十分ほどしたところにあるはずだ。

彼は、街から少し離れた高台に住んでいるらしい。

ずいぶん不便だと思うのだけど、なぜ彼はここに住んでいるのかしら……。


少し気になったが、それは瑣末事だと私は気にしないことにした。

今はひとまず、裏の日記の鍵が解錠出来ればそれでいい。


地図を広げながら、リュカと場所を確認し、宿を出る。

途端、凍るような寒さが私を直撃し、また私は呂律が回らなくなった。

ガチガチと歯を鳴らしながら、歩くこと二十分。

いや、降り積った雪が思った以上に歩きにくく、予定より時間がかかったように思う。


アントニオ・アーベルの家がある高台の麓。

坂の手前に到着した時点で、既に宿から二十分が経過していた。


動いているためか寒さはすこし和らいだが、それでも寒いものは寒い。

その上、この坂道……。

私はうっかり、気が遠くなった。


それでも、足を動かさなければ進むものも進まない。


(ええい!ここまで来たのよ。大丈夫、あとはこの坂を登るだけだもの……!!)


もはや、気分は登山家である。


私は自分を鼓舞し、一歩足を踏み出そうとしたところで。

ふと、リュカが驚くことを言った。


「この雪だけどさ、きみの異能で消せないかな」


「……私の異能は、氷をどうにかすることだけです。これは、雪ですもの。雪は対象外ですわ……」


というか、できるものならとっくにしてますわ……。


そんな気持ちで答えると、リュカが驚いたように目を見開いた。

それから、私に言う。


「そっか。ごめん。今のシャーロットは、俺の異能を知らないんだったね」


「リュカ様の異能……。そういえば、受付で言いかけていましたわね」


リュカのコートに雪がついていなかった理由でもあるのだろう。

私が先を促すと、リュカが口を開いた、ところで。

なにかが、視界に飛び込んできた。


何だろうとそれを見た瞬間、リュカが叫んだ。


「シャーロット!!」


腕を彼に掴まれ、引き寄せられた。


「──」


彼の背中を見た瞬間、確かに、何か、を。

何かを、思い出した気がした。


(私、この光景……見たこと……ある?)


でも、どこで?なにで?

確か、そう。


その時も、こんなふうにリュカに呼ばれて……。


(ここではない、もっと、狭くて汚い道。そこでリュカが、突然、)


その瞬間、爆発が起きた。

修正しました

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⭐️新連載始めてます⭐️
↓覗いていただけたら嬉しいです↓
毒を飲めと言われたので飲みました。
― 新着の感想 ―
雪は、氷と分野違いではないと思うのですが。 勘違いされているのか、それとも、そういう世界なのか。
あざといルアンナを早くキャン言わせてやりたいわ~!!とイライラしつつ先を楽しみにしております♪ 「……私の異能は、氷をどうにかすることだけです。… 以下同じセリフが来るのは、大事なことだから2回…
「……私の異能は、氷をどうにかすることだけです。これは、雪ですもの。雪は分野違いですわ……」 というか、できるものならとっくにしてますわ……。 そんな気持ちで答えると、リュカが驚いたように目を見開…
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