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【書籍化&コミカライズ】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。  作者: ごろごろみかん。
第三章:裏の日記

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限りなく、告白に近い言葉

そのまま階段を下りきって自室に向かっていると。

ふと、腕を強く引かれた。


「待って、シャーロット」


「……リュカ様」


足を止めて振り向けば、私の腕を掴んでいたのはリュカだった。

彼は困惑した様子で、私を見ている。


「どうしたんだよ、急に」


急に、というか。

常に思っていたこと、と言いますか……。


私はふたたび気まずくなって、リュカの手をさりげなく振り解いた。彼も私の意図を察して、手を離す。


「……以前の私は、違ったのかもしれませんけど。今の私は、あんな感じですので」


「…………え?」


「え?」


見れば、リュカは鳩が豆鉄砲を受けたような顔をしていた。

首を傾げれば、ようやくリュカは私が何を言おうとしているのか理解したらしい。

何度か瞬きを繰り返し、納得したように「ああ」と言った。


それでも、彼は未だ困惑した様子だった。


「……さっきのことを言っているのなら。きみは以前もあんな感じだったよ」


「…………えっ!?」


「俺が言ってたのは、どうして先に歩いていってしまったのか、ということ。異能があるとはいえ、きみは貴族の令嬢で、女性だろ。ひとりで船内を歩くのは褒められたことじゃない」


「それは……」


リュカの言葉を早とちりしたのは、私の方だったらしい。

そのことに気がついて、頬がカッと熱を持つ。

何と言っていいか迷って、返答する言葉を失くした私にリュカが続けて言った。


「以前、きみは記憶が無いことに不安は無いと言っていた。確かに、そうなんだろうと思う。きみは、細かいことを気にするひとではなかったから」


「そ……うなのですか?」


「そうだよ。……ひとまず、部屋に戻ろうか。彼女と鉢合わせたらめんどうだ」


彼女、というのは間違いなくルアンナだろう。

子爵家の令嬢をひとり置き去りにしたことを今更気にしていると、私の懸念に気がついたのだろう。リュカが言った。


「船内のスタッフを呼んでおいた。あれでも子爵令嬢だからね」


「……ありがとうございます。私はだめですね。カッとなってしまって、そこまで頭が回りませんでした」


「あそこまで言われたら、大半の人間がそうなるよ。きみが言ってなかったら、俺が言っていた」


「…………」


リュカの言葉に、胸が暖かくなる。

それと同時に、彼がそう言ってくれるのはきっと、彼が私を好きでいてくれるからなのだろう、と思った。


(……どうして、リュカは私を好きなのだろう)


彼が好きなのは、以前の私。

彼は、以前の私(シャーロット)のどこが、好きだったのだろう。

そんなことを、ふと。考えてしまった。


リュカに先導される形で、部屋に向かう。

リュカと私はそれぞれ、一部屋ずつ部屋をとっていた。

部屋の前まで到着すると、リュカは私に言った。


「例えきみが、何もかもを忘れ、全ての記憶を失ったとしても。それでも、シャーロット・シェーンシュティットはきみしかない。……きみがシャーロット・シェーンシュティットであることには変わりないんだ。長くきみを見てきた、俺が保証するよ」


「ありがとうございます。励ましてくれているんですよね?」


笑みを返すと、リュカは動揺したように少し目を見開き。それから──ちいさく苦笑した。


「違うよ。俺の本心だ」


「……以前の私が、どんなひとだったのか。確かに気になってはいるんです。私であって、彼女は私ではありませんから。だから、気になるんです。一体、何を考え、何を思っていたのだろう……と。リュカ様から見た私は、どんなひとでしたか?」


リュカから見た以前の私は。

シャーロットは、どんな人間だったのだろう。


そう思って尋ねると、彼は驚いたように瞬いた。


「俺から見たシャーロット……。そうだな、きみは今も昔も、眩しいひと……だよ。俺にとって」


「眩しい……ですか?」


あの、あのですねーー!!


さっきから、気にしないようにはしていたけども!

でも、リュカの発言は結構ギリギリだと思うの!


無意識なのかしら!?

無意識なの!?


ずっと見てきた、とか。

眩しい、とか。


それもう、好きって言ってるの同じなんじゃあ……。


そう思ったが、そう思うのは私が彼の気持ちを知っているからかもしれない。


ええ、そうに違いない。

無理に納得させた私に、リュカが言った。


「きみは、自分の意思を突き通す強さを持っている。それが、昔から俺には眩しく見えた」


「意志を突き通す……」


それはつまり、一度好きになったひと(ジュリアン様)と絶対結婚してやるわよー!!

……みたいな、そういうこと?


いまいち納得がいかない私は、非常に難しい顔をしていたのだろう。そんな私を見て、リュカが笑って言った。


「きみは知らないと思う。ただ、俺がきみの眩しさに助けられた。それだけだ」


「…リュカ様と私は、幼い頃からの付き合いなのですよね?」


「ああ。そうだよ。ヘンリーも合わせて、かれこれ十年以上の付き合いになるかな。父に引き合わされて……」


同じ公爵位を継ぐもの同士だ。交流はあった方がいいとお父様たちは考えたのだろう。


だけど、リュカとお兄様は、正反対とまでは言わないけど、かなり性格は異なる。


よく気があったものだわ……と思いながら見ていると、リュカが言った。


「それじゃあ。昼食の時間になったら、呼びに来るから。鍵をしっかり閉めて。ほかの誰がきみを訪ねても、開けちゃだめだからね」


彼は、私の護衛のために神殿から遣わされた異能騎士だ。

だからこそ、用心を呼びかけているのだろうけど。


なんだかその気遣いがやけにくすぐったい。

こんなことは、護衛騎士や従僕、侍女によく言われているから言われ慣れているのに。

リュカが言っているからだろうか。

私は、くすぐったい気持ちを隠せずに、思わず笑みを浮かべてリュカに答えた。


「ええ。……それじゃあ、また後で」


ぱたん、と扉を締める。

そのまま、私は扉に背を預けた。


窓の外からは微かに海の音がした。

既に船は出港している。


五日もすれば、セレグラに到着する。


裏の日記を読めば……私は、なにか記憶を取り戻すだろうか。


本日はクリスマス・イブですね!!

まったくクリスマス感のないお話ですが、少しは糖度のあるお話になったように思います。

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毒を飲めと言われたので飲みました。
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