手加減はしないことに決めましたの
「……それで。ルアンナ様はどうしてここに?」
その後、私はルアンナを連れて船に逃げ込む他無くなった。
なぜなら、ルアンナがあんな爆弾発言を投下し、場が混乱したためである。
周囲の客からは【浮気旅行中】の恋人と思われ、非常にいたたまれなかった……。違うのに……。
もちろん、ルアンナにはすぐに否定したし、叱りもした。
「彼は護衛です!滅多なことは言わないでくださる!?」
そう言ったのだが、彼女は何が悪いのかわかっていなかったのだろう。
「そ、そんな大声で怒らなくなって……。わ、私はお兄様が可哀想だと思ったから……だから、うっ、うう」
と、そのまま泣き始めてしまったのだ。
……どうして!?
どうして、ここで泣くのよー!!
確かに少し大きな声で否定してしまったけど!でもそれはルアンナがとんでもないことを言うからでしょう!?
これでおっとり笑っていられたら、それはとんでもないお馬鹿かか、とんでもない腹黒か、の二択よ!!
思わず泣き出すルアンナを締め上げようか迷ったけど、しかしその時搭乗員に声をかけられた。
「お客様……申し訳ありません。時間が押しております」
本来の出港時刻よりだいぶ遅れてしまっているのだ。
これ以上、長引かせることは出来ない。
私はルアンナに帰るよう言ったが彼女は聞く耳を持たず、勝手にチケットを購入し、私にすがりついて来た。
状況を詳しく知らない他の客たちはやけにルアンナに同情的で。
「よく分からんが詳しい話は中でしたらどうだい」
と、彼女の背を押す形で声をかけてきて、結果。
私たちはルアンナと共に搭乗することになったのである。
搭乗して、すぐ。
私はルアンナをデッキに連れ出すと事情を聞き出すことにした。
リュカも一緒にいてくれているが、先程のルアンナの爆弾発言により、彼は彼女を警戒しているようだった。
ルアンナは未だ涙ぐんでいた。その鼻の頭も赤い。
「お義姉様にお話があって……」
「そのお話は、私が邸に戻ってからではいけないのですか?私が遠出すると知って、なぜついてきたのですか。迷惑をかけるとは、思わなかったのですか」
結局、彼女のペースに巻き込まれることになってしまったので、苛立ちが抑えられない。
淡々と低い声で問い詰める私に、ルアンナはますます萎縮したように「ひぅ」と妙な声を出した。
そういうところが、非常に腹立たしい……。
なんなのよ、ひぅって。
ひぅって。子爵家のご令嬢だというのなら、礼節くらい持っていて欲しいのだけど!?
子爵様は一体ルアンナにどういう教育を施しているのだろう。
ルアンナの思考回路が読めない。
この異能制御装身具を外すか僅かに迷ったけれど。
ひとのこころの声を積極的に聞くのは避けたい上、ルアンナのこころの声など聞いてもどうせろくなものではなさそうだわ……。
私は、ブレスレットを外すことをやめた。
ルアンナは眉尻を下げ、嗚咽を漏らしながら弱々しく私に抗議した。
「今のお義姉様は怖いわ……」
「私の質問に答えてください。そして、あなたの義姉になる気はありません、と以前にも言いました」
「どうしてそんなに冷たくなってしまったの?その姿が、お義姉様の本性なの?」
本性。まるで、今まで私が猫でも被っていたかのようだ。
私は冷笑した。本性も何も、私には以前の記憶が無い。
ルアンナには、私が豹変したように見えるのかもしれない。
「そうですわね。【今の私】は、こういう人間です。お嫌なら、関わらなければよろしいと思いますわ。次の港で船を降りたらいかがです?」
言いすぎかしら、とも思ったが、もはや手加減はしないことにした。
手加減して通用するような相手では無いからだ。
ジュリアン様は何をしているのだろう。
あなたの愛しい義妹が勝手な行動に出てますわよ!!
早いところお引き取り願いたい。