お口はチャックしましょう、ね?
馬車で五日かけて、ようやく港町に到着すると。
私は船着き場に向かい、チケットを購入した。
お父様が既に話をつけていたので、チケット購入から搭乗までスムーズに話が進んだのだが──船に乗り込む、直前。
スロープを登っていると、背後から大きな声が聞こえてきた。
「待ってください……!待って、待っ、ああ!」
聞き覚えのある声と、同時にベシャッという音が響く。
まさか、と嫌な予感がして振り向くと。
そこには、ひとりの少女が手をばんざいする形で派手に転倒していた。
あまりに見事なコケっぷりに、周囲のひとたちの視線が集中する。
その中の数人が、彼女に手を貸すために近づいた。
「うわぁ、派手に転んだわね。大丈夫?」
「痛そうな転び方だったわねぇ」
彼女は彼らの手を借りて、よろよろと立ち上がった。
──私の嫌な予感は、当たった。
彼女はパッと顔を上げ。
なにかを探すように視線をさ迷わせた後──ぴたり、と私を見つめた。
そして、満面の笑みを浮かべて。
「お義姉様!!」
周りによく響く大きな声で、私を呼んだのである。
いや、私はあなたの義姉ではないしなる予定もないって前に言ったはずなんだけれど!?
思わず言い返しそうになったが、既の所でグッと堪えた。
周囲のひとたちは私を見、彼女──ルアンナを見た。
そして、どこか訳知り顔で頷いた。
「きみ、お姉さんを追いかけてきたのかい」
「ほら、早く行きなさい」
老夫婦に道を譲られ、ルアンナはあっという間に私たちの前まで走ってきた。
派手にコケたためか、走ったためか、彼女の前髪は乱れて額が露わになっている。
額に汗を浮かべ、顔を赤く染めながらも──ルアンナはにっこりと笑って言った。
「良かったぁ!間に合ったのですね。お義姉様、どこに行かれるのですか?私も連れていってください!」
そして、衝撃発言を投下した。
唖然として黙り込むと、事情を知らない周囲のひとたちが楽しそうに言った。
「なんだい、お姉さん恋しさに追いかけてきちゃったのかい」
「可愛らしいわねぇ。チケットの購入はあっちでできるわよ」
「ああ、そこのひと!一名分、チケットを追加してあげておくれ!」
そして、断りもなくチケットの手配をしてしまう始末。
私が止める間もなく、チケットの販売員が私たちのところまでやってきた。
「一名様追加でよろしいですか?」
よ、良くないーー!!
そう言おうとしたが、先にルアンナが叫んだ。
「はい!」
「いや、待ってください。彼女は勝手に家を抜け出してきたんです。私たちの一存で船に乗せることは出来ない」
ルアンナの暴走に待ったをかけたのは、驚いたことにリュカだった。
ルアンナは、そこでリュカがいることに初めて気がついたのだろう。目を真ん丸にして、大声で言った。
「やだぁ!!お義姉様、浮気!?」
…………いい加減、黙っていてくれないかしらねぇ!!
私は、本気でぶちギレそうだった。