そこまでして隠す理由って何かしら
でも肝心の、何をどう思い違いをしているのか……という部分が分からないのだけれど。
「鍵を壊そうとしても壊せなかった。それは【関与不能】の異能を持つ人間が拵えたものだからだね」
と、突然、話題が切り替わる。
切り替えが早い。早すぎる。
さすが王子様というところなのかしら……!?
一瞬、??という感じに固まった私だったが、すぐに彼の言葉を理解した。
「関与不能……?」
「そうだよ。以前あなたが言っていたんだ。これで、何があっても他人に見られることはない、と」
「そこまでして……」
呆然と、私は呟いた。
それに、クリストファー殿下は少し、首を傾げた。
色味の薄い金髪が、さらりと揺れた。
「どうしても隠したいことがあったんじゃないかな。私には、分からないけれど」
……ほんとうに分からないの??
ほんとうに??
気になったが、まさか王子様相手に締め上げて聞き出すわけにもいかないものね……。
少し考えた末、私は彼に尋ねた。
「その、【関与不能】の異能者はどこにいらっしゃるのですか?わけを話せば解除してくれますよね?」
聞くと、彼は待ってましたと言わんばかりににっこり、笑みを浮かべた。
「関与不能の異能の使い手。アントニオ・アーベルは、セレグラ地方を拠点に活動しているそうだよ」
「セレグラ……」
どこ?
今の私は、地理関係なんかもサッパリ忘れてしまっているので首を傾げる他ない。
王都近辺であることを願う、と思った矢先。
クリストファー殿下が爆弾を投下した。
「セレグラ地方は、ここから馬でひと月。船を使えば五日と一週間強。ここからずっと北方に位置する辺境だよ」
「へ…………」
辺境!?
そして、このひとがやけに笑顔なのも今更ながら納得がいった。
きっと、私が尋ねると分かっていたのだろう。だからこその、笑顔。
なんだか、黒い笑みだと思ったのよね!
やっぱりこの王子様は腹黒い……!
唖然とする私に、クリストファー殿下がさらに言った。
「あなたは、彼に鍵を作ってもらうためにわざわざ足を運んでいた。二ヶ月ほど、王都を不在にしていたよ」
「……わざわざ」
そんな、辺境の地まで行って特殊な鍵を作った。誰にも、見られないように。
その理由は……?
考えても分からない。
ここまで来たら、もう以前の私がどうとかそれ以前に。
もう何がなんでも裏の日記とやらを読んでやる……!
そこまで隠したがるものって、何!?
私は、裏の日記を探すために長時間、寝室、私室、衣装室を探し回り。
そしてようやく見つけたと思ったら、鍵を壊すためにあれこれと様々な手段を試し。(ちなみに鍵を硫酸で溶かそうと試みたけれどそれも不発に終わった。しかも後処理がとんでもなくたいへんで、それに時間を要した……)
ここまできたら、何が何でも見てやるわよ……!
私は闘志に燃えていた。
「セレグラ地方ですわね」
「行くんだね?」
クリストファー殿下は、察したように言った。
それに頷いて答える。
「そう。気をつけて。向こうは今、大雪らしいから」
「え」
……雪?
たしかに今、季節は冬。
セレグラ地方は、ロント王国の北方だという。
それでもまさか大雪なんて。
絶句する私に、また、クリストファー殿下が微笑みを浮かべた。ずいぶん、綺麗で優雅な微笑みである。
「以前、あなたが向かった時は夏だったんだけれど、あいにく今の季節は冬。しかも、セレグラは毎年、降雪量がとにかくすごい。度々、議会に上がるほどなんだ。そこで、シャーロット嬢」
「はい」
思わず、返事をしてしまう。
無視するわけにもいかないし。
瞬く私を見て、彼が変わらず美麗な笑みを浮かべ。
「向こうで気になったことがあったら……戻ってき次第で構わない。私に、報告してくれるかな」
「へ」
思わず、間抜けな声が出る。
だって、そんなの。
フランクな物言いをしているけれど、つまりそれって。
──現地調査??
私は呆気に取られていた。
現地調査……!?
ただの貴族の娘が!?公爵家の娘が!?
一体……ほんとうに、以前の私とクリストファー殿下はどういう関係だったの!?
と、同時に
私はあることも強く感じていた。
この王子様、間違いなく。
私を王城に呼んだのはこれを伝えるためだったのだろう。
それに気がついて、私は内心、ため息を吐いた。
「分かりました。ご期待に応えられるかはわかりませんが、戻り次第、ご報告いたします」