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どっちがほんとうの私ですか

気にはなるものの、まさか王子様をじろじろ見るわけにもいかない。

私は、正直に答えることにした。


「それらしいものは。ですが……」


「鍵でも掛かってた?」


「!……どうしてそれを?」


もしかしてこのひと、私の裏の日記とやらを実際見たことがあるんじゃ……。


というか、私と王子殿下ってどういう関係だったの??


お兄様のご学友とはいえ、王城に呼び出したりと夜会でダンスを踊ったりと、ずいぶん親しかったのではないだろうか。


私は、ジュリアン様が好きだったのよね……??


私が混乱していることに気がついたのだろう。

彼が、ふ、と苦笑した。

そして、困ったように言う。


「ああいや、すまない。いたずらにあなたの思考を乱すつもりはなかったんだ。あなたが記していた裏の日記……私は、それを見たことないし、何が書かれているかも知らない」


「そうなのですか?」


「うん。もしかしたら……と。ある程度の予測はつくけれど。それでもまったく違う内容かもしれないし。あなたが何を書いていたのかまでは知らない」


「では、殿下はなぜ……」


「あなたが言っていたんだ。日記はふたつ必要だ、と」


「私が?」


ますます混乱する。

まさか私は、この記憶喪失を見越してわざと裏の日記なるものを残しておいたのだろうか。


気が弱くて、ひとを見る目がなくて。

良いように搾取されるだけの令嬢──という印象を持っていたが、もしかしたら……。


考え込んでいたところで、クリストファー殿下がさらに言った。


「鍵は見つかった?」


「…………いいえ。それが、部屋中探しても鍵は見つからなくて。その……壊そうとしたのですが、それもできず」


「壊そうとしたの。あなたが」


目を丸くして、クリストファー殿下が私を見る。

さすがに、恥ずかしい。

鍵が見つからないからと鍵穴を壊そうとする令嬢など世界広しといえど私くらいなものだろう。


ちなみに、ニッパーで切れず、ペンチでも切れず。トンカチで鍵穴の破壊を試みてみたものの、びくともしなかった。


最終的に、私は強行策に出た。

鍵がかかっているのは、ページの外側。


つまり、内側をこう……切ってしまえばいいのではない!?


長時間、裏の日記なるものに拘束されていた私には天啓のように思えた。

そして、ナイフで革のブックカバーを切り、中のページをくり抜こうとした…………のだけど。


まっ……たく、歯が立たなかった。


革よ?革。それなのにどうして切れないの!と悲鳴をあげたのは記憶に新しい。


しかしまさか、クリストファー殿下も日記を上からページ部分だけくり抜こうとしたとは思いもしないだろう。


気まずくて視線を逸らすと、クリストファー殿下が笑った。


「あははは……!なんだ、そういうところ、変わっていないんだね」


「変わってな……。えっ」


変わってない??私が??


まさか、以前の私もそんな、鍵がないなら壊せばいいじゃない☆みたいな思考回路の持ち主だったのだろうか。

……あの、気弱令嬢(今名付けた)の以前の私(シャーロット)が!?


驚いて顔を上げると、クリストファー殿下は未だくすくすとお上品に口元に手を添えながらも笑っていた。


「ああ、すまない。決して悪い意味で言ったわけではないんだ。ただ、前のあなたも、同じようにしただろうなと」


「…………以前の私は、気が弱くて、自我があまりない……その、流されがちな令嬢だったのでは?」


自身の汚点を数えるようで気が進まないが、そう言うと。

クリストファー殿下はやけに穏やかな顔をした。


「そう。あなたはそう感じたんだね」


「…………殿下」


少しの間だが、話していてわかった。


このひと、ぜっ……たい腹黒い。

それに、言い回しがいちいち回りくどい!

王族なのだからなのかもしれないけれど、答えているようでその答えは曖昧だ。


私がクリストファー殿下を見ると、彼は言いたいことが分かったらしい。

彼は困ったように苦笑した。


どうやら、『そういうのはいいから早く教えてくださる?』という言外の意図が伝わったようで何よりだ。


「……実際、あなたがどういうひとだったのか、なんて答えられるひとはいない。ひとは、必ずしもその一面だけを持っているとは限らないからだ。けれど──そうだね。少なくとも私は、あなたほど苛烈な女性はいないと思ったよ」


「苛烈?」


苛烈……。私が??

気弱令嬢(いぜんのわたし)が??


ジュリアン様、ルアンナ様の話と印象が一致しない。一体全体、ほんとうに以前の私はどういう人間だったのだろう……。


ふと、既視感を覚えた。


そうだわ。

確か──。


初めて、ジュリアン様に出会った時。

日記に書かれている人物とまったく違うじゃない!!と憤慨した覚えがある。

あの時と、似たような感覚を抱いた。


(もしかして私は……とんでもない思い違いをしている?)


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